みらいのめ

さまざまな視点で研究員が「みらい」について発信します

2016.09.23

第12回

現代の“科学特捜隊”?

from 福岡県

生活総研 客員研究員
博報堂 九州支社

松本裕介

過日、「地域おこし協力隊の隊員数が約30倍に増加していて、6割は定住している」という内容の新聞記事を読んだ。
ウルトラマン世代であり、子供時代「科学特捜隊」や「ウルトラ警備隊」に強く憧れて育った身としては、未だに“隊”や“隊員”という字を目にすると鋭く反応してしまう。

「地域おこし協力隊」とは、人口減少や高齢化等の進行が著しい地方において、地域外の人材を積極的に受け入れ、地域協力活動を行ってもらい、併せてその人たちの定住・定着を図るもので、2009年総務省によって制度化された。
実は私、数年前にも「岡山県美作市に全国最強の地域おこし協力隊がいる」という内容の記事をどこかで目にしており、その時も「お、お~、全国最強の隊って、すご~!」と言葉の響きだけで一人感動していた。

以来、地域おこし協力隊の動向を緩くチェックしてきたが、最近は“隊員と受け入れ先の自治体のミスマッチ”や、“地域に入った隊員が待遇等の理由で働く意欲が低下している”、“隊員の行動が自治体に制約されて自由な活動ができない”等のネガティブ情報に触れることが多かった。『地域おこし協力隊「失敗の本質」(村楽LLP)』というレポートも目にしている。
しかし、総務省によると、設立当初89人だった隊員は28年3月末時点で2625人にまで増加したらしい。

少し嬉しくなったので、以前から気になっていた「大牟田ひとめぐり」というサイトを運営している阿部将英さんのお話を伺いに行くことにした。
阿部さんは、東京のweb会社を辞めて、昨年4月に大牟田市に赴任した地域おこし協力隊員であり、大牟田市は福岡県の最南端、熊本県との県境に位置する人口12万人弱の地方都市だ。

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昭和の純喫茶の面影を強く残したコーヒーサロンで私を迎えてくれた阿部さんは、科学特捜隊のイデ隊員を彷彿させる笑顔がチャーミングな好青年だった。
佐賀県出身で関西の大学を卒業した後、東京のweb会社に入社し、昨年九州に帰ってこられた。

「web関連の強みを活かし、情報発信分野で地元九州のために貢献したいと思ったから」

それが、阿部さんが地域おこし協力隊に入った理由だ。この希望が大牟田市のニーズと合致したらしい。
そして、赴任して早々「大牟田ひとめぐり」をほとんど一人で立ち上げた。このサイトは「大牟田市の素敵な人を紹介する」をコンセプトとしている。
「何故、ひとめぐりなんですか?」という私の質問に、阿部さんは「世界遺産もいいですが、大牟田には面白くて魅力的な人が本当にたくさんいるんですよ」と真っ直ぐな声で答えてくれた。
その後も傍らに置いたオレンジジュースに口をつけることもなく約1時間、私からの質問に真剣に答え続けてくれた。

「人の取材は、毎日社会見学しているようで楽しい」
「自分でやりたいことをやりながら、周囲の人に評価してもらえるのは本当に幸せ」
「地方創生は高校生が甲子園を目指すように、過程を楽しむものと思っている」
「やりたいことをやるには、時には一匹オオカミになる覚悟も必要」
「今後は域外から大牟田に人を呼んで、リアルな場でリアルな”ひとめぐり”をしてもらうイベント等を企画していきたい」

阿部さんの言葉を聞いているうちに、何故私が「大牟田ひとめぐり」に魅かれたのか、その理由が何となくわかってきた。
一言でいうと、そして誤解を恐れずにいうと、阿部さんの行動原理は「市のため」以上に「自分が楽しむため」であり、それを少しも隠そうとしない彼の潔さがサイトのカラーになっている。
このサイト内で紹介されている人々もまた、みな楽しげで自然体だ。そして、だからこそ、紹介された人や店に市内外から会いにくる人もいるのだろう。

地域おこし協力隊の任期は最長3年。任期を終えたらどうするのか質問してみた。

「大牟田ひとめぐりを持って独立したい。市にも相談しています。そしてここで培ったノウハウを、自治体という枠にとらわれず、他の地域でも活用することで周辺地域も含めて盛り上がっていきたい。実は既に熊本のある町でサイト作りを手伝っています」

総務省が地域おこし協力隊で目指すゴールは、“地域外の人材の定住”である。しかし、おそらく阿部さんは、このゴールを超えようとしている。
地域に“住み”、真剣にしかし楽しみながら“自分の得意技を磨き”、“起業し(稼ぎ)”、そのノウハウを他地域に“展開する”ことで、周辺地域まで含めて元気にしていく。
2600人超の地域おこし協力隊員が目指すゴールはそれぞれ違うのだろう。 しかし、彼らはみな日々、地域活性化、地方創生という日本が抱える課題に最前線で向き合ってくれている。
いつの日か地域おこし協力隊が、地域をそして日本を救う「現代の“科学特捜隊”」と呼ばれる日が来るかもしれない。

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