みらいのめ

さまざまな視点で研究員が「みらい」について発信します

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2019.04.04

第27回

『混ぜる』から生まれるみらい

from 大分県

生活総研 客員研究員
博報堂 九州支社

松本 裕介

大分県別府市。別府湾と太平洋を一望できる山の中腹に立命館アジア太平洋大学、通称APUがあります。
2000年の開学以来、世界各国から学生が集まり、異なる文化や価値観が混ざり合うキャンパスは、まさに「若者の国連」のような大学です。

APUは「3つの50」を開学の条件にしてスタートしました。
●学生の50%を海外からの留学生(国際学生)に。
●その出身を50カ国・地域以上に。
●教員の50%を外国人に。
これが「3つの50」です。

この条件は他の「国際」大学や、「国際系」学部を持つ大学とは明らかに異質であり、当時としては「とんでもない」と評価されても仕方ないほどの思いきったものでした。
開学から約20年を経過し、現在のAPUは学生数約6000名中3000名が外国籍、教員も約半数が外国籍、そして学生の出身国、地域は実に91に達しています。(2019年4月現在)
「3つの50」を見事に実現しています。

「混ぜる」教育

国際色豊かなAPUのカフェテリア

APUの教育は「混ぜる教育」と表現されています。(『混ぜる教育』日経BP社)
「混ぜる」には四つの柱があります。

一つは前述しました「日本人と外国人を混ぜる」。

二つ目は「授業を混ぜる、学問を混ぜる」です。
APUではほとんどの科目について、日本語と英語の2本立てで授業をしています。また観光、社会、文化、環境、国際関係など分野の異なる専門領域を混ぜたユニークなカリキュラムもあります。

三番目の混ぜるは「教員と職員を混ぜる」です。APUは教育研究を担当する教員が主導するのではなく、教員と事務方の職員がタッグを組んで大学の運営を行っています。

そして最後の混ぜるは「大分・別府と世界を混ぜる」です。学生たちは積極的に地元と交わり、様々な形で地域振興を行うと共に、自分の出身国にインターネットを通じて、大分、別府の情報発信をし世界的なPRを実施しています。

このように様々なものが「混ざっている」APUのことを糸井重里氏は「色とりどりの花が混ざって咲いている庭」ただし「整備された花壇のような庭じゃない」「イギリスの田舎で見かけるワイルドガーデンのような庭」と表現しています。
花は世界中から集まった学生のことです。
糸井氏はこのように続けています。「世界中から集められた植物がひしめき合って混ざり合って、それぞれが花を咲かせて、ぎりぎりのところでちゃんと住み分けて、そこにしかない生態系ができあがっている」

学長の名前がついた「世界の出口カレー」

APUの混ぜる教育は、2018年1月に出口治明氏が第4代学長に就任してから、さらに加速しているように見えます。出口新学長はライフネット生命の創業者で、公募によって民間から初めてAPUの学長に選ばれました。
出口学長は就任以来、短期間に次々とプロジェクトを立ち上げ改革を推進されています。
ここにも「民間」と「大学」という新しい混ぜるが生まれているのだと思います。

英国の高等教育専門誌「タイムズ・ハイヤー・エデュケーション」の世界大学ランキング日本版2019で、APUは国内私大全国5位、西日本の私大では姉妹大学の立命館大学を抑え、NO1に選ばれました。

APUは「APU2030ビジョン」を掲げています。
このビジョンは「APUで学んだ人たちが世界を変える。」という言葉から始まります。
この実に堂々としたシンプルな言葉の背景には、「APUで学んだ一人一人が、自由と平和を追求する人間として、人間の尊厳に対する畏敬の念を抱き、世界で、日本で、それぞれの住む地域や立場で、他者のために、社会のために行動することにより、世界が変わる」というAPUがデザインする、これまでの大学では描ききれないであろう確かな「未来」像があります。
そしてAPUにとって、「混ぜる」ことこそが、未来創りの原動力なのだと思います。

オーストリアの経済学者、シュンペーターによると、「イノベーションとは、関係なさそうな事柄を、それまでとは異なるやり方で新しく結び付けること」と定義できます。
これを信じるとすると、異質な存在はたくさんあるべきだし、その結合の仕方も予知ができないほど多岐にわたっていてもよいのではないでしょうか。まさにAPUのような多彩な「混ざり」の種があり、「混ぜる」を推進できる環境があることがイノベーションを生み出す理想的な状態ということです。

「混ぜる」は九州の得意技

私は、この「混ぜる」は日本そして九州の得意技だと思っています。
歴史を遡っていくと、日本人自体がいくつかの異なった民族に分かれると言われています。何万年もの間に、北から南から、そして西から東から、いくつもの民族集団がやってきてはこの地に根を下ろしました。そして、渡来してきたそれぞれの民族集団が持ち込んだ文化や風習が混ざり合い、あるいは日本の風土に合わせて変化することによって、日本という国の輪郭が徐々に形づくられていきました。

私たち日本人は、世界の中でも特異な日本文化を作り上げましたが、それは「混ざる」あるいは「混ぜる」ことによって形成されたと言えるでしょう。

さらに九州は、今も昔もこの「混ぜる」の最前線であり続けています。
縄文時代から弥生時代への移行は最初に弥生人が渡来した北九州から始まったと言われています。
その後も大陸を中心とした異文化は九州を経由して日本全国に拡がっていきました。
現在でも九州はアジアの窓口であり、アジアから渡ってきた様々な文化が混ざり合い、変質して、地元に溶け込んでいます。

博多にある「福岡アジア美術館」は、アジアの近現代の美術作品を系統的に収集し展示する世界唯一の美術館です。アジアの美術作家や研究者を招聘し、様々な美術交流を通して、福岡・日本とアジアが単に出会うだけではなく、互いに理解し、共創し、発信していくことを目指す交流型の美術館です。その展示作品は、世界のどの美術館とも異なる独自性と魅力を持っています。

昨年4月九州大学に「共創学部」という新しい学部が誕生しました。
「複雑化・多様化するグローバル社会において、多様な人々との協働から異なる観点や学問的な知見の融合を図り、共に構想し、連携して新たなものを創造する」が学部創設の目的です。
共創学部では、従来の学問分野の枠組みを超えて「人間・生命エリア」「人と社会エリア」「国家と地球エリア」「地球・環境エリア」と4つの領域を設定しています。学生たちは、各エリアを行き来しながら、社会のグローバル化への対応力と共創力を身につけていきます。
また、共創学部では日本人の学部生に対して、海外大学への留学を義務付けています。この留学には語学研修のみが目的のものは含みません。異なる文化の中で、学び、活動し、経験を積む、ことを前提とした留学です。
九州大学共創学部のキャッチコピーは「現在を、未来を、共に創る」です。

異質な民族、異文化を誘引し、ダイナミックに「混ぜる」ことによって、イノベーションを起こし未来を創ろうとする動きが、大学を始めとして、古来から「混ぜる」を得意としてきた九州に、そして日本全国に拡大していくかもしれません。

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