みらいのめ

さまざまな視点で研究員が「みらい」について発信します

2022.05.13

第45回

「さとやまの未来のススメ」

from 広島県

生活総研 客員研究員
中国四国博報堂

宮田 貴雅

皆さんは、「里山(さとやま)」と聞くとどんなイメージを持たれますか?
都市部に住む方、山間部に住む方々で捉え方はそれぞれ違うかもしれません。

中山間地域は人手不足の問題に対し、いち早いデジタル化やAI化を進めて「スマート農業を加速」させたり、中山間地域へ「買い物の楽しさを届けるためのライフライン」として、徳島県発の移動販売車の取り組みが評価を高めてきています。今や全国に広まって地方ビジネスの見本になってきているのです。移動販売は地域の人が集う場所になり、中山間地域の活性化にもつながっているのです。

ニッポンの見本に!? ひろしまさとやま未来博

さて今回は、昨年、広島県が民間と取り組んだ事業、「ひろしまさとやま未来博2021」をご紹介します。広島県の里山里海(さとやまさとうみ)への取り組みは、全国的に見ても早く始まっていて、2017年には「これからのニッポンの見本になる。」をスローガンに、1回目のひろしまさとやま未来博が、県ぐるみで行われています。

<中山間地域の概況>  ※広島県庁ホームページより
○広島県で中山間地域を有する市町数は23市町中、19市町である。
○広島県の中山間地域は,人口では県全体の約1割,面積では約7割を占める。

広島県では、昨年9月~12月の期間、中山間地域の地域づくり活動に関心のある人材の裾野を広げることを目的に、「オンライン運営を基本としたネットワークづくり」を成果とした取り組みを行いました。

ひと口に「里山の人・地域・参加したい人をつなぐネットワークづくり」と言っても、コロナ禍で制限のある中で行うには、様々な苦労があったそうです。

広島県が課題として取り組む中山間事業は、
①「中山間地域の人づくり」
②「多様な人材の育成・ネットワークづくり」
③「新たな事業にチャレンジできる環境」
の3つを主目的にして取り組んでいます。

2017年に行われた初回のひろしまさとやま未来博では「事業自体の認知」がミッションであり、予算をかけて華々しく行われました。2回目の2021年では「参加メンバーの拡大・育成」がミッションでした。

主たるテーマは以下3つ。
●地域における≪つながり力≫の強化と活躍人材の育成・ネットワークづくり
●地域づくり活動をリードする人材の育成
●地域づくり実践者のためのプラットフォーム

合言葉は、「さとやま Social GOOD」

広島県はこの課題や中山間事業自体がなかなか注目されないこともあり、参加者の気をいかに引くかを最初に考えたそうです。「里山に関わることは良いことなんだ」とPRするため、事業の愛称を「さとやま Social GOOD =さとやま、いいね!」と名づけました。

ロゴも里山の未来博らしく、自然・人のくらし・文化・活動など、地域の課題や
地域に密着した関わり方、つながりのあるソーシャルな世界観を「木=ツリー」で表現。
GOODの“G”を葉っぱに見立て、「育っていく里山の未来の木」をシンボルロゴ化。
さらに、「さとやまに未来を育てよう。」をキャッチコピーに、広島県内の里山里海で行われている活動や少し未来のシーンをイラスト化し、Social GOODな世界観を作り出しています。

また、様々なテーマを6つのカテゴリーに分けてSocial GOODな取り組みを参加者にわかりやすくしています。

具体テーマ
GOOD COMMUNITY[安全な生活の土台づくり]
GOOD EDU[人材育成]
GOOD RESOURCE[資源の継承]
GOOD ACTIVITY[地域の賑わいづくり]
GOOD LOCAL LIFE[移住定住促進]
GOOD PRODUCT[特産品・商品の開発・販売]

里山ソムリエ!? 地域づくりコーディネーターの存在

この事業の一番のミッションは「次世代の里山メンバーをどうやって見つけ出し、育成するのか?」ということでした。里山里海ですでに活動・活躍しているリーダークラスの方々へ、人材育成の目的を話し、協力を得るために広島県主催でオンライン説明会を開いています。それぞれが独立している人と人とのつなぎ方は独特で、オンラインの中でも大切にすべき点は対話でした。その間に入っていたのが「里山ソムリエ」と呼ばれる地域づくりコーディネーターさんと旅行会社さんでした。リーダークラスの里山メンバーと体験プログラム造成をしたり、人と人のマッチングをしたり、WEBサイトによる各地域の取り組み紹介や体験参加の呼びかけ・コーディネートをしたりして、ネットワークづくり、プログラムづくりは行われていきました。

プログラムの中身は例えば、里山でなにかを始めてみたいひと、すでに活動されている人、農家さん、レストランさん、地域福祉関連の方、耕作放棄地対策をされている方、などへ、参加に向けた説明会を実施して、関連するステークホルダーをマッチングさせていく、という地道な仕掛けです。

コンテンツとしては、広島の中山間地域のことを知り、そこにある資源を生かした取組みを体験してもらう、参加型で楽しんでいただくオンライン配信企画をいくつも仕掛けていきました。里山里海で活躍するリーダーたちを講師にして、「体験プログラムをオンライン配信」しながら伝えていく形式で次世代のメンバーを見つけ出して行ったのです。

そのメンバー間交流から見える「里山の未来」には、日本全国の中山間地域が抱えるさまざまな課題にも横展開できるような地域コンテンツづくりや、ビジネスアイデアがあふれていました。

広島県の里山里海を舞台に、さまざまな分野で活動するチャレンジャーの発掘と育成に向けて、人や自然を活用したコミュニティビジネスや、地域住民の暮らしを支える活動の体験型オンラインプログラムをつくり、広くPRする博覧会でしたが、広島県の里山に関わる方々は、地域を大切にするソーシャル思考を持ち、地域に GOOD なコトを実践されていました。それは、地域のためになり、新しい価値観や大切にしたいことに気づける良い機会にもなります。プログラムづくりへの挑戦や、プログラムに参加したことで、新たなライフスタイルを見つけられたのではないでしょうか?それがこの「ひろしまさとやま未来博の価値」ではないかな?と個人的には感じています。

この事業は、オープニングイベントとエンディングイベントを除いては、オールオンラインによる実施にも関わらず、約3万人の方々が参加したそうです。これからの里山の未来、地域を左右するプラットフォームであり、さまざまなステークホルダーをマッチングして、地域の未来の力を掘り起こしました。里山のネットワークからビジネスや雇用も生んでいます。新しいことを生み出していくことが、これからの日本の中山間地域活性化にとっては大事になってきています。

ちょっとした物の見方や考え方で価値観は大きく変わります。ささいなものも、とても幸せなものに変わります。里山里海でつながることでそういった価値観を共有し合えて、驚きや感動も見つけられる。こういう毎日に幸せを感じていく。そんなサステナブルな暮らし方・考え方が、つながっていき日本の未来を作っていくのかなと思います。

皆さんも、里山のディープな世界へ参加してみませんか?

 

ひろしまさとやま未来博2021
さとやま Social GOOD
https://satoyamagood.team500.hiroshima.jp/

※本事業は2021年12月に終了しています。

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