第47回
世代や性別、地域を超える「eスポーツ」
from 福岡県
ゲーム大会、だけじゃない! 裾野が広がるeスポーツの現在地
40代になった今でも私にとってゲームというのは飽きがこないもので、幼少期から今日に至るまで細く長く続けている趣味のひとつです。そのなかでもゲームでの対戦などをスポーツ競技として捉える「eスポーツ(Electronic Sports)」の裾野の広がりを、日常生活の中で見聞きする機会がとりわけ増えてきました。博報堂生活総合研究所が昨年10月に発表したレポート「生活者が選ぶ“2023年ヒット予想”」でも5位にeスポーツ(一昨年のヒット予想では19位)が挙がっており、生活者が日々の生活を楽しむためのコンテンツのひとつとして年々関心が高まっていることがわかります。
【“2023年 ヒット予想”ランキング(上記10項目を抜粋)】
特に近年のeスポーツは、限られたプレイヤー同士のコミュニティから派生した活動に留まらず、企業のスポンサードによるプロチームやプロ選手の登場、あるいは大規模な大会の活況ぶりに注目が集まりがちです。他方、高齢者施設内のレクリエーションや障害のある方同士の交流プログラムにeスポーツを取り入れた事例や、新型コロナウイルスの影響で中止した校内行事の代わりにeスポーツでのクラスマッチを開催した学校など、福祉や教育分野での応用の可能性も広がりつつあります。個人的に一番印象的だった出来事は、私の娘や息子が学校からもらってきたeスポーツイベントの案内チラシだったのですが、私が幼少期から学生時代に触れていた頃のゲームを取り巻く環境と比べると、ゲームと生活者との関係性が少なからず変わってきていることを改めて実感します。
そんなチラシがキッカケで、私も福岡市内で開催されたeスポーツのイベント「福岡eスポーツフェスタ」に息子と一緒に足を運んでみたのですが、早朝から開会前の会場には長蛇の列。開場後はプロプレイヤーも交えた有名タイトルの競技会をはじめ、ゲームを活用したプログラミング教室や学生さんが制作されたオリジナル作品の展示、一見ゲームとは無関係とも思える金融機関や食品メーカーなど企業のブースも軒を連ねる盛況ぶり。ステージイベントのトークテーマのひとつにも掲げられていた「eスポーツの裾野拡大」という言葉が示す通り、必ずしも一部の限られたゲームプレイヤーのためだけのものではなく、eスポーツを起点に産官学のさまざまな領域を横断して裾野が広がりつつあるeスポーツの「現在地」が少なからず体感できるイベントでした。
このイベントの主催者でもあり、福岡を拠点に九州・全国各地でeスポーツの普及活動をはじめ、産官学間のコーディネートやビジネスマッチングに取り組んでおられる福岡eスポーツ協会会長の中島賢一さんにお話を伺うと、「eスポーツをただのゲーム大会と思ってはいけません。eスポーツは世代や性別、地域を超えて『体験』を共有するSNSです。」とおっしゃいます。
九州から、ユニバーサルスポーツであるeスポーツ文化を発信
中島さん:「例えば釣り仲間同士で釣りに行ったり、自転車仲間同士でツーリングに行くなど、誰かと同じ体験を共有すると仲良くなりやすいですよね。eスポーツがフィジカルスポーツと大きく異なる特徴は、極端な話をすればスマホさえあれば世代や環境、立場や地域を超えて自宅から世界中のイベントに参加できますし、スタジアムのように立派な会場がなくてもバーチャル上に会場を作ることができる点にあります。eスポーツは自分が住みたい、暮らしやすい地域から、離れたところとも同時に体験を共有することができるコミュニケーションツールとして非常に優秀ですし、それはさまざまな社会課題を抱える地方とも親和性が高いと考えます」
eスポーツには生活者をさまざまな文脈で「つなぐ」チカラがある、とおっしゃる中島さんの試みのひとつとして、九州にゆかりのある方(九州在住、九州の学校出身など)を対象に開催された地域密着型のeスポーツ大会「Q1スーパートーナメント」が挙げられます。
2021年に初開催となった第1回大会は、福岡県福津市の宮地嶽神社の協力を得て完全オンラインで開催。10代から60代といった幅広い世代による96チーム(約300人)がエントリーし、イベント視聴者も含めると4,000名強がリアルタイムで大会に参加。大会中はオンラインの特性を生かした地元福岡の特産品の紹介やクーポンの配信によるECサイトへの誘導を図るなど、リアルな会場に居なくとも地域や世代を超えた交流や会場を含む当地の魅力を発信する試みにつながっています。
このような産官学連携による「福岡モデル」の経験を基盤に、中島さんは九州各地の企業や自治体からのオファーを受け、地元eスポーツ協会の立ち上げや協会運営にアドバイザーや顧問として尽力。例えば福岡県と隣接する熊本県では、地元eスポーツ協会として2019 年に発足した熊本eスポーツ協会が中心となり、温泉地として有名な山鹿市の国指定重要文化財である「八千代座」を会場としたeスポーツ大会や、地域の高齢者向けにeスポーツを活用した健康イベントなどが開催。「eスポーツ×観光」や「eスポーツ×福祉」といった掛け算を通じて九州各地でeスポーツ文化を盛り上げる機運が高まりつつあります。
また、中島さんは九州のeスポーツ文化の追い風となるもうひとつの要素として2023年に鹿児島、2024年には佐賀と、九州内で連続して開催される予定の「国民体育大会(国体)」の存在を挙げています。
中島さん:
「2020年に鹿児島県で開催予定だった国体は、新型コロナウイルスの影響で2023年に延期になってしまいましたが、国体の文化プログラムである『全国都道府県対抗eスポーツ選手権』だけは、中止せずにオンラインで開催できたんです。
また、2024年の佐賀県で開催される国体から、これまで国民体育大会だった名称が「国民スポーツ大会(国スポ)」に変わります。そのタイミングに合わせて英語表記も「NATIONAL SPORTS FESTIVAL」から「JAPAN GAMES」になるんです。国体にeスポーツを今後も取り入れていきたい、という自治体の前向きな動きはこれまでもありましたし、世代や地域を超えてゲームに親しんでいる生活者はとても多くいらっしゃる。GAMEという言葉の意味を持つ「国スポ」をキッカケに、スポーツの一つの進化系として『eスポーツ』への理解や関心がより広がっていくことを期待しています。」
eスポーツを文化から産業、そして新しい経済活動へ
最後に、中島さんはeスポーツを「スポーツ文化」のひとつとして根付かせるうえで、eスポーツの普及啓発だけでなく「スポーツ産業」になぞらえたアプローチを両輪で推進していくことが重要であるとおっしゃいます。
中島さん:「野球やサッカーなど、スポーツとしてメジャーになっているものの多くは、多くのファンが観戦で盛り上がったり応援できる機会や場があったり、ファンイベントやグッズ、地域での子どもとの交流事業、あるいはボール一つあればデフォルメした形でも楽しめるなど、さまざまな領域で生活者との接点やそこに関連したビジネスが存在します。
【スポーツ産業になぞらえたeスポーツ産業の例】
忘れられがちですが、eスポーツの場合は自分の家も『空間施設』なんです。これが既存のスポーツとの大きな違いで、家具などパーソナルな環境回りも多くがeスポーツと親和性が高い。例えば近年、座り心地の良さからビジネスマンがワークチェア代わりに使われているゲーミングチェアのように、eスポーツは従来のスポーツビジネス以上に生活者と既存産業との接点や接続の可能性が非常に大きいと感じます」
eスポーツの裾野拡大を図りながら、地元産業とのコラボによる新たな産業創出を通じてゲーム都市としての福岡・九州のさらなる発展を目指していきたい。そう語る中島さんのお話の端々にはご自身も「いちプレイヤー」としてゲームを愛する中島さんの「子どもたちが健全にゲームをできる環境をつくるべき」という思いと、「産業にならないと文化は廃れてしまう」という危機意識が、協会設立から現在までの原動力になっていることを強く感じられるインタビューとなりました。
中島さん:「私たちは、eスポーツをベースに新しい『コト』を起こしていくことで、eスポーツをスポーツ文化の一つとして育てていきたい。文化は行動様式が一つになって生み出されるものですし、その文化を通じてこれからの新しい経済活動を創っていきたい。そう思っています。」
プロフィール
中島 賢一(なかしま けんいち)
福岡eスポーツ協会(FeA) 会長西日本電信電話株式会社 エンターテインメントプロデューサー
株式会社NTTe-Sports 取締役
公益財団法人 福岡アジア都市研究所 フェロー
民間IT企業を経て、福岡県に入庁。福岡県にてITやコンテンツ産業振興を活発に行い、ソフトウェア産業の中核拠点の福岡県Rubyコンテンツ産業振興センターを立ち上げる。2013年4月より福岡市に移籍。ゲーム・映像係長や創業支援係長として、ゲーム、映像などのクリエイティブ分野やスタートアップ企業のビジネス支援に奔走。その後、公益財団法人福岡アジア都市研究所にて都市政策をベースとした研究事業のコーディネータとして活動し、2018年9月に福岡eスポーツ協会を立ち上げる。2019年4月『楽しい』でもっと世の中を良くしようとNTT西日本に移籍。プライベートでは、13年以上にわたってトレーディングカードゲームのイベントを開催し、子どもたちからデュエルマスターと称されている。
福岡eスポーツ協会(FeA)公式ホームページ
https://esports-fukuoka.com/