第48回
「地域愛」とは少し違う地域貢献の形
from 福井県
みなさんは「地域愛」をお持ちですか?
広島県出身、大学は北海道で過ごし、今大阪に住んでいる私はそれぞれの地域に思い入れを持っています。
特に北海道は好きすぎて今でも年に数回帰省(正確な地元ではないですが)しており、いくつか北海道にまつわる仕事をさせてもらったほどです。
みなさんのなかで出身地や居住地、親の出身地など、各自のルーツに応じてそれぞれの「地域愛」をお持ちの方も多いかと思います。
もしかすると愛する地域のために、地域貢献をされている方もおられるかもしれません。
私自身、地域愛を感じてもらうことが地方活性化の一助になると考え、
昨年の本コラムでは、“ふるさと納税をきっかけに自分で知らない地域を掘ってみる「Digる旅」”について書かせていただきました。
ただ、よく考えてみると「地域愛」とはなんでしょうか?
地域貢献には「地域愛」が必要なのでしょうか?
「地域愛」は、みなが必ずしも持っているわけでは無ければ、人によって愛の大きさも異なると思います。
東京出身の友人たちでは「地元という感覚がないから地域貢献とかの話がどうしてもピンとこない、地方出身者はうらやましい」と言う人も少なくありません。
そう考えていた時、「地域愛」とは違った形で地方に貢献できる事業を展開されている福井の方と出会いました。
地方貢献の「みらいのめ」が感じられるお話を聞いてきたので、ご紹介したいと思います。
●福井県を元気にする大津屋のふるさと納税事業
―大津屋とは、どのような会社なのでしょうか?
小川さん:大津屋は、福井県でコンビニエンスストアや惣菜店、観光物産館の運営などを行う会社です。実は創業は1573年と非常に歴史がある会社になります。
―歴史ある会社で、小川さんはどのような役割を務めておられるのですか?
小川さん:専務取締役として、大津屋のふるさと納税事業の責任者をしています。
―ふるさと納税事業とは具体的にどのようなことをされているのですか?
小川さん:大きくは「自治体のふるさと納税事業コンサルティング」「返礼品事業者の開拓」の二つが軸です。さらに最近は「返礼品開発」も行っています。
福井県をはじめ様々な自治体にドアノックしに行き、それぞれの自治体のふるさと納税に関するお悩み事を聞きながら取引につなげていきます。
大津屋には小売業を通じて培った豊富な商品開発・開拓ノウハウがあるので、返礼品登録の申請をただ待つのではなく各エリアの企業の方に働きかけて返礼品事業者になってもらう取り組みも行っています。
「返礼品開発」についてはまた後程お話ししますね。
それにしてもまさか自分が福井で地域活性化に携わっているとは想像もしていませんでした。
―小川さんは元々福井の方ではないのですか?
小川さん:出身は神奈川で、幼少期は親の仕事の都合で海外を転々とした後に、中学校以降は東京・神奈川で育ちました。福井は妻の地元です。婿養子として福井に来て早12年近く経ちます。
―元々福井と縁もゆかりもなかった中で地域活性化にかかわるのは大変ではなかったですか?
小川さん:大変だったというよりも…ギャップが大きかったです。
元々神奈川で生まれて、国外を転々としていたのでいまいち「地域愛」という言葉がピンと来なかったんですよね。生まれた場所なだけだし世界中どこにいてもいいじゃん、みたいな。
特にギャップを実感したのは東日本大震災の時です。
震災発生後に周囲の東北出身者が口にする「地元に帰りたい」という言葉の理解が難しかった…自分だけ地域愛から取り残されたような感覚がありました。ショックでしたね。
それでも、福井に移住して大津屋に入社し、店舗でおにぎりを握るところからスタートして周囲の方々に良くしてもらううちに、地域愛とまではいきませんが、会社や福井のことが少しずつ好きになっていきました。
そんな中で、会社が次の事業の柱を見つけていく必要性があると感じるようになり、
ふるさと納税事業に注目しました。
事業を立ち上げたのは別の社員なのですが、引き継ぐ形となって今に至ります。
―その地域愛のギャップはどのように乗り越えられたのですか?
小川さん:今でも完全に同じ「地域愛」目線ではないと思いますし、むしろ日々学んでいる感覚です。
もちろん福井は好きですが、自分にとって不思議な光景に見えることが周りにとって当たり前であったり、地域に貢献したい気持ちの強い方にお会いしたりする瞬間におもしろさを感じています。
例えば仕事上では「福井にはすごく美味しい食材と加工技術があって、東京や海外だと需要がありそうなのにどうして売り出していないのだろう。もったいないな」といった具合です。
無理に地域愛そのものを持とうとせず、福井出身者ではないからこそ俯瞰して見ることで地域愛の伝え手となることを意識しています。
ありがたいことに結果として、自治体への寄附額が増加し、事業者さんの売上にも貢献することができています。
地域の業者さんからは「自分たちの想像を超えるものができた」と感謝していただいたり、自治体からも「自分たちにはない目線があった」と感謝していただくことがあり、少しは貢献できて良かったなと思っていますし、そういう意味では地域貢献し続けていきたいですね。
●大津屋×博報堂の共同プロジェクト「HAQTSUYA」(ハックツヤ)で叶える『地域事業化構想』
―すごいですね…まさに地域愛とは少し違った地域貢献の形ですね。
今後の目標などはありますか。
小川さん:ふるさと納税は地域の貴重な財源となっている一方で、実はまだまだ多くの地元の名産品やブランドがふるさと納税品としてうまく活用できず眠ったままになっており、また、ふるさと納税品事業への自治体の負担も年々大きくなっています。
そうした地域の方々の力になりたいと考え、今年博報堂と大津屋の共同で北陸・関西エリアを中心とした、自治体のふるさと納税事業のサポートを行う「HAQTSUYA」(ハックツヤ)を立ち上げました。
大津屋の地域ネットワーク・地域産品開発力×博報堂の社会課題解決力・支社や地域会社のネットワーク力を生かして、地域の関係人口・寄附を増やして、地域の魅力も向上する。
その好循環を目指し、愛される地域として “自力で成長していく”『地域事業化構想』の実現を目指していきたいと思っています!
―もしや「返礼品開発」もその事業のひとつですか?
小川さん:仰る通りです!「HAQTSUYA」は、ふるさと納税中間業務全般、返礼品開発、返礼品情報発信・自治体PR戦略立案をメイン業務としています。
最近では福井のコメ農家の真空米ブランド「FuKuRa」のプロデュースを行いました。
薄くてコンパクトなので保存も持ち運びもしやすく、いつでも新鮮な福井のお米のおいしさを味わっていただける商品です。
―かわいいですね、こういう返礼品がもっと増えていくと地域に興味を持つ方が増加していく気がしました。最後に…小川さんにとって「地域愛」とはなんですか。
小川さん:大それたことは言えないですが…持とうと思っても持つことはできず、目の前のひとりひとりに真剣に向き合っていく中で少しずつ積みあがっていくものなのかなと思います。
―小川さん、ありがとうございました!
●地元でなくとも、強い思い入れがなくとも
インタビューからは、小川さんのいわゆる「地域愛」とは違った地域貢献の姿勢・想いが伝わってきました。
地域貢献をするのは必ずしも地元でなくても良いのですね、きっかけと踏み出す勇気があれば誰でも地域の力になれるのかもしれません。
私も早速、気になる地域にふるさと納税して、実際に足を運び、美味しいものを満喫してこようと思います!みなさんもまずはできることから気になる地域に貢献してみてはいかがでしょうか。