音楽業界の専門家に聴く、
[好き]の変遷

音楽プロデューサー

佐藤栄司

<プロフィール>

株式会社スウィート・ハート/株式会社スウィートチャイルド 専務取締役。ロックアーティストのマネジメントを中心に30年以上、日本の音楽業界に携わる。現在はサイコ・ル・シェイムなどを担当。

日本人の[好き]の変遷をたどると、「モノ」の所有を喜びにした時代から、自分が体験できる「コト」の質を追い求めた時代を経て、現在は、好きなものごとを好きな人同士で共有する「トキ」を楽しむ時代といえます。変わりゆく日本人の[好き]の変遷について、生活総研では有識者の方にヒアリングを行いました。

セルからライブの時代へ

セルCD が何百万枚も売れた頃と違い、今はダウンロードが主流。もはや音源販売だけではビジネスが難しく、ライブで収支をとるのが当たり前の時代になっています。例えば、昔はCDよりもライブのチケットのほうが安かったわけですが、今は逆になってる…なんてことが、その変化を象徴してると思います。また、今のライブでは、最初から客席が総立ちになり、アーティストの振り付けに合わせて、みんなで踊りまくるなんてことも当たり前。慣れてないファンはライブに通って振り付けを覚えたりもするほどの熱の入れよう。そんな舞台と客席の垣根を越える一体感もライブの大きな魅力になっているんです。

舞台上からの煽りで、客席みんなが大盛り上がり

ナマ人気の背景に、バーチャルへの反動

好きな楽曲をいつでも手軽にダウンロードできる便利文化が広がったとはいえ、そうして得られる音源はあくまでもバーチャルにすぎません。こうした究極の便利が広がった反動もあり、人びとはナマに反応しているのではないでしょうか。ここ数年、中継や録画ではないナマのライブに来る人は、音楽業界だけでなく演劇でも増えています。少子高齢化や共働きの増加という大きな変化もあり、平日は働いているファンも多い。我々は、こうした変化に対応して土日にライブを多く開催したりしますけど、週末のホールはどこもいっぱい。「小屋飢餓」問題が起こるほど、人がライブに集まってるのが現状です。

“今だけ・ここだけ” が価値になる

今やライブ毎に限定グッズをつくるのは当たり前。ライブ人気に伴って増えた、物販専門業者に介在してもらうことで、少ロットで多品目を販売できるようになったからです。一夜限りのライブでしか売らないグッズもあるほどで、ファンの人たちも、“今だけ・ここだけ” でしか買えないものを買っていきます。最近では、その日のライブ音源を持ち帰ることのできるサービスまでありますよ。
さらに、アメリカでは、その日のライブ終わりにアーティストに会って、サインをもらえたり、一緒に写真撮影できる…といった Meet and Greet というファンサービスも出てきています。こうしたチケットは非常に高額ですし、ライブや音楽を届ける本来のビジネスとは違うんですが…。いずれ、日本でも広がるかもしれません。

舞台と客席の垣根を越え、全員でハイポーズ

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