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シティ・プライドがつなぐ[みんな]

街には、そこに住む人たちだけでなく、
働く人、学ぶ人、遊ぶ人、様々な人が行き交っています。
地域のつながりが薄らいでいるとも言われる時代の中で、
「その街の[みんな]」というまとまりも希薄化しつつあるのでしょうか。
街に生まれる[みんな]の現在について、渋谷区長の長谷部さんにお話を訊きました。

新しいつながりをどう呼び起こすか

渋谷区は土地土地で街の表情がまったく異なります。広尾と原宿、渋谷、恵比寿はそれぞれ違いますし、北部ですと笹塚や幡ヶ谷、本町もそれぞれの個性にあふれています。それをもう一度知るために、区長になって最初の1年間、いろんな地域の町会を回りました。しかし、そこで話を聞くと、各地域の悩みはだいたい共通していました。町会の中に次世代がいない。すごく高齢化しているんです。
この背景にはもちろん、地域の中でもつながり方が変化しているということもあります。若い人たちの中ではSNSがやっぱり役に立っていて、地域の情報もそこで交換していたりするわけです。でも、そういうのって表に出にくいし、世代による分断も起こってしまいます。

そういう課題は渋谷区だけでなく、世界各国の都市に生まれています。
例えば、フランスのパリで始まった「隣人祭り」というお祭りがあります。元々、フランスは多民族国家ですから、パリは東京以上にクールだったりします。しかし、とあるアパルトメントで孤独死があって、それに心を痛めた30歳ぐらいの青年が、自分たちが顔見知りだったら2カ月も放置されることはなかったのにと、年に1回パーティーしましょうとなったのが発端です。ちょうどいいことに、パリは大体のアパルトメントに中庭があるので、そこに自分の飲み物と食べ物を持って出てきてくださいということをしたんです。
翌日からどんな変化が起きたかというと、挨拶する人がまず増えるんです。今まで会話がなくて気難しそうなおばあちゃんと思っていたら、実は子ども好きとわかったりとか。そういうちょっとしたつながりが解決できる課題って実はたくさんあります。

6月第1日曜日は「おとなりサンデー」

2017年に始めた「おとなりサンデー」というイベントは、この「隣人祭り」を渋谷区らしくやってみようという取り組みです。ただパーティーしましょうといっても照れちゃってできなかったりすることも多いので、何をしてもいいですよ、という風に渋谷はしました。
一方で、あえて6月の第1日曜日と日にちは設定しました。区が決めた日だからっていうのが、周りで相談し合うきっかけになると思ったのと、町会や商店会が乗りやすくするという狙いがあります。うまくいけば商店街の売り出しにつなげられるので。

行政としては日付を設定しているだけでイベント内容は各地域の自主性に任せているのですが、企画には全面的に協力しています。道路で何かやってみたい人がいたら通行止めの許可を出すように警察と一緒に協議するとか、キャッチボール大会をしたい場合は公園を特例で使えるようにするとか、学校を解放できないか検討するとか。もちろん、普通に家の前でバーベキューをしてもいいし、お茶を飲んでもいいし、こんにちはって隣の人と挨拶してみるだけでもいいんです。

実は2019年の「おとなりサンデー」に新たに足すと面白いんじゃないかと思っているのは、乾杯の仕方のルールです。最初は初めての人と乾杯してから、いつも知っている人と乾杯するとか。それは去年、川崎麻世さんの乾杯を見て思ったんですよね。恵比寿のビール祭りに集まってきて、彼はそう言ったんです、最初に。「今日はみんな、初めて会う人と乾杯しましょう」と。そうやって、コミュニケーションが生まれるきっかけづくりをしていければと思っています。

寄付の文化を根付かせたい

グリーンバードやシブヤ大学など、いくつかのNPOを運営してきて確信したのは、みんな何か社会の役に立ちたいと思っているということです。
ただ、今まではそのすべを知らなかったんです。グリーンバードの場合はごみ拾いという簡単な、しかも出会いもあったり友達もできたり、他の面白いこともあるみたいな、ちょっとしたサークル活動として広がっていきました。みんな、ささやかだけど社会の役に立ちたいって思っていて、そのメニューを知らないだけなんです。

ただ、ボランティアが無償で高潔なものだっていうイメージが日本は強く、そこは欧米と違うところだと思います。例えば、寄付の文化はあまり浸透していません。本来はお金を払うこともボランティアだと思っていいし、NPOへの寄付というのは、例えばグリーンバードで言えば掃除しているのと同等の価値があるのに、です。
チャリティーコンサートなども、本来はある取り組みに資金を集めるためのものなのですが、タダで招待されると自分たちの方がチャリティーでタダにされているという感覚があるのか、あまりお金が集まらなかったりします。そこはまだみんな慣れていないというか、共通認識ができあがっていない面だと思います。

税制で言えば、例えばふるさと納税とかも、本当にそこの土地を盛り上げようというよりは、お得感で寄付をしている人が多い感じがします。あれも看過できないところがあるので、渋谷区として面白いことをやろうかなというのは今、一生懸命考えているところです。

渋谷区をシティ・プライドが集まる街に

「渋谷区をどんな街にしたいか」というのを一言で言うのは難しいですが、敢えて言うと「シティ・プライドが集まる街」だと思っています。
区長への就任以来、「ロンドン、パリ、ニューヨーク、渋谷区」と言い続けているんです。というのもこれらの都市には、ロンドンはロンドンっ子、パリはパリジェンヌ、パリジャン、そしてニューヨークはニューヨーカーという言葉がありますよね。その街の[みんな]を象徴する言葉が自然発生的に生まれているんです。ただし、ニューヨーカーも決してニューヨーク市民だけじゃないじゃない。勤めている人もいるし、学生もいる。心意気、プライドの問題なんです。

別に渋谷人とか渋谷民といった言葉を区として作るつもりはなくて、自然発生的に、渋谷ボーイとか渋谷ガールでもいいですし、そういうのが生まれてくるといいなと。
「区民のみんな」というと、個人として繋がりのある、いろんな顔を思い浮かべます。でも、顔が思い浮かばない人も区民だと思っていますし、もっと言うと、渋谷にシティ・プライドを持っている人は渋谷民とか渋谷人ぐらいに思って考えているんです。はっきり言って、カウントダウンだって、ハロウィンだって、参加者に区民はほとんどいないんですから。(笑)
街を好きになってもらうことはすごく重要です。ハロウィンを見ていても、暴れているのは決して渋谷を愛している人ではないなって見えるし、でも翌朝は普段の日よりもきれいになっている。それは渋谷を好きな人たちが、愛している人たちが集まってきて、掃除をしてくれているからこそです。

地域の活動は全部、シティ・プライドにつながっていきます。グリーンバードなんかは一度掃除するとそこがホームに感じてくる。わ、俺が掃除したところを汚しやがって、って気になるし、「おとなりサンデー」だって、隣の人と仲良くなってこの街を好きになっていくだろうし。
そういう、街で楽しむとか、街を好きになる、都市に住む喜びを感じられるということは一番重要だと思っています。

長谷部健氏

渋谷区長

1972年渋谷区神宮前生まれ。3児の父。博報堂退社後、ゴミ問題に関するNPO法人green birdを設立。原宿・表参道から始まり全国60ヶ所以上でゴミのポイ捨てに関するプロモーション活動を実施。2003年に渋谷区議に初当選以降、3期連続トップ当選。2015年、渋谷区長選挙に無所属で立候補し、当選。

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