少齢化社会 博報堂生活総合研究所 みらい博 2023

女性誌の変遷にみる
「年代による違いの消失」と
「好みの広がり」
—ブランドメディアとしての可能性と課題

兵庫 真帆子 さん

株式会社小学館 取締役
女性メディア編集

兵庫 真帆子(ひょうご・まほこ)

小学館取締役。担当:第一ブランドメディア局。1989年小学館に入社。長きにわたり雑誌ブランドビジネスに携わる。『CanCam』『プチセブン』『Domani』の美容担当を経て、2007年『CanCam』編集長、2009年『美的』編集長を歴任。2016年7月より女性メディア局チーフプロデューサー、2022年5月、取締役に就任。

価値観や趣味嗜好の年代差は、
実感として消えつつある

「年代差による違いの縮小」については、日頃、様々な場面で感じています。例えばファッションについても、50代の母親世代と20代の娘世代が選ぶアイテムやコーディネートが大きくは違わないな、近づいているなと感じています。

趣味嗜好という話でいえばエンタメの好みもそうです。韓国ドラマが流行っていたら、『愛の不時着』とか『梨泰院クラス』とか、見てハマるドラマのタイトルに年代は関係ないように思います。50代におすすめのドラマと20代におすすめのドラマ、もちろん個人の好き嫌いはありますが、年齢による違いではありません。

 

「推し活」の場面でも同じことを目の当たりにします。私はフィギュアスケートのファンなのですが、リンクに行くと羽生結弦さんのファンがたくさんいらっしゃって、熱狂している年齢のレンジがすごく広いなと思っていました。年齢によって好みの違いが生じるのではなくて、自分軸になってきているのかもしれません。

 

私が子どもの頃は、お茶の間にあるひとつのテレビをみんなで囲んでいたから、例えばレコード大賞の大賞曲は老若男女みんなが知っている、というような時代でした。でも、私が好きなアーティストが当時いたとしても、それを母親と一緒になってファン活動をするなんてことは考えられないことでした。同世代の友人たちも、自分の好きなもの、今でいう「推し」を親になんか理解してもらえないよね、というのが当然だったと思います。

女性の社会進出にまつわる
価値観の世代格差

私が就職活動をしていた大学生の頃は、男女雇用機会均等法が施行されて3年目の過渡期でした。女性の就職先で総合職という選択肢はもちろんありましたが、どちらかというと男性のアシスタントとか、銀行だったら窓口業務とかが多く、「数年働いて寿退社」というイメージがありましたし、私の親もそういう就職をイメージしていたようです。「定年まで働くお母さん」はおそらく少数派でしたし、女性がずっと長く働き続けるというモデルが私の周りには親戚含めていませんでしたが、私や友人たちは、当時から長く働き続けることを目標にしていました。

 

だから、親とは仕事論をはじめ結婚論、生き方論の違いがありました。結婚については、私の母親にとっては結婚相手のスペックが重要で、「四大卒の方がいいよね」とか、少なくとも私の出身大学よりは高いレベルでないといけない、というようなことを言っていました。友人が弁護士の方と結婚したときは「一番の出世頭ね、○○さんは」と言っていて、私は「え?友人ではなく、友人の結婚相手が弁護士なのに出世頭って言うんだ?」と思って違和感や反発を覚えました。

 

今の母娘関係には、あの頃ほどそういう食い違いはないように思います。女性が働くことは普通だし、結婚だっていつしてもいい。心のうちはわかりませんが、娘も何らかの形でずっと働くつもりのようです。

女性誌からみる、
年代を超えた好みの広がり

私は長く女性誌に携わっていますが、昔は、年代が明確に区切られていて、そこに雑誌を当てていたところが、この頃は年代で区切ることの難しさを強く感じています。

 

小学館でいえば、昔は20代前半に向けた『CanCam』があり、20代後半から30代に向けた『AneCan』や『Oggi』があり、35歳前後に向けた『Domani』があり、というようにそれぞれターゲットも読者層も年代で分かれていました。

 

その中で『CanCam』では、2000年代半ばに“エビちゃん”ブームが巻き起こりましたが、“エビちゃん”はそれこそ、レコード大賞とまでは言いませんが全国区で知れ渡っているような一大ブームだったと記憶しています。でも『Domani』の読者は、そのブームを知っていたとしてもエビちゃんファッションを自分もやりたいとは思っていなかったし、いくら流行っていても『Domani』でエビちゃん特集を組むようなことはなかったと思います。それが今だったら、ジレ(ベストのような袖のない羽織)が流行っていると、『CanCam』でも『Oggi』でもジレのコーディネートが紹介されています。

 

実際には、掲載されているアイテムのブランドや、価格帯が違うというようなすみ分けはあるのですが、推しているコーディネートや流行の線引きは昔に比べて難しくなっています。学生か社会人という可処分所得の差で生まれる差はあるかもしれませんが、ファストファッションの台頭で、ファッションブランドの選び方が、「自分軸」になってきていると感じます。

『Precious』はラグジュアリー誌で、『美的』は美容誌といった「専門」とか「趣味」というジャンルでの差別化は可能でも、「年齢」だけでは難しいなと思います。

 

流行っている人、読者から求められる人も雑誌をまたいで共通になってきています。例えば美容家の神崎恵さんや石井美保さんは『美的』読者に大人気ですが、『Domani』でもインタビューするし、『Oggi』『CanCan』の美容ページにもご登場いただきます。ヘア&メイクアップアーティストの小田切ヒロさんも引っ張りだこで、『美的』には当然、他誌でも小田切さんにオファーし、特集を組ませていただいています。

エビちゃんに限らず、昔は年代によって流行りの人が違って「自分より少しお姉さんたちに人気のこの方にインタビュー」という企画はあったかもしれないですが、年代を問わず、同じ目線で同じように人気というのは、やはり現代の現象ではないかと思います。

 

2000年代初めに、『CanCam』『Oggi』『Domani』『美的』連動で化粧品ブランドさんと読者イベントを開催したことがあります。その時、各誌でゲストをお呼びしたのですが、『CanCam』がアサインした人気モデルは『Domani』にとってのカリスマではなかったですし、『Domani』がアサインした有名な文化人の方は、『CanCam』読者にとって遠い存在という状況でした。どちらの読者も「あぁ、向こうの世代のことね」と捉えていました。

そこから20年経った現在は、カリスマ的存在は年齢問わず、どの媒体にとっても関心事になります。「人」に対する興味関心も、年代の垣根を越えているのだと思います。

60/70歳ではなく
60/100歳で考える人生

寿命が70歳と考えたとき、60歳は高齢と感じます。でも今は「人生100年」と言われている時代です。100年もあるのに60歳で老け込んでいたら大変!という気持ちの人が多いのかもしれません。だから気持ちも身体も衰えない。昔だったら「イタい感じ」の若づくりが、自然な若さとなり、かつて抱いていたような50歳、60歳のイメージには見えないビジュアルになってきていると思います。

 

健康についても美容についても、情報がすごく増えています。いろいろな食べ物だったり、サプリだったり、化粧品だったり、根幹の若さを保つ方法が増えたしメソッドも進化しているように思います。もちろんその背景には、当人の努力もあることでしょう。

一昔前までは限られた富裕層しかできなかった美容医療も、少額から可能なものが増えています。デジタルで情報がどんどん流れてくるから、みんながそれを真似しやすくなったように思います。

 

「人生100年時代」と言われるようになったからみんな頑張りだしたのか、長寿にまつわる情報や、美容に関するテクノロジーが進んだりして、それをみんなが取り入れるようになったから100年時代に突入しているのか、どちらが先かはわかりません。でもきっと、「人生が長くなったから元気になっている」のではないかと私は思います。だって、65歳とか70歳でも働いているじゃないですか。昔は60歳定年退職といえば「勤め上げてお疲れさま」という感じでしたが、今の60歳は「まだ働けるよね」というイメージです。もちろん退職されて、仕事ではなく趣味を充実させていらっしゃる方も素敵ですが、退職後も活躍されたり、新たなお仕事を始めたり、と現役時代と変わらない、良い意味で“年齢不詳”な方が増えたと思います。

これからの時代の雑誌ビジネス
~「ブランドメディア」としての
広がりの追求

読者が何を読むかはあくまで自由ですが、現時点で、『CanCam』ならタイトルに「20代の~」とか、『Oggi』なら「働く30歳からは~」などと打って、雑誌そのものはひとつの、一冊の凝縮された世界観のなかで年齢を謳っています。ですから「さすがに自分の年齢と違うのかな?」と思って読者を卒業される方はいますし、昔に比べて年齢の裾野が大きく広がっているデータが出ているわけではありません。ただし、ウェブサイトやSNSから外部流入した単体記事を誰が読んでいるか、まで考えると非常に幅広くなってくるし、記事の一個一個には年齢による違いがなくなってきているケースもあると感じています。

 

ラグジュアリーの『Precious』や、美容の『美的』あたりは「読者を卒業」という概念があまりなくて、読者層の世代は幅広いです。『Precious』は創刊当時からずっと紙の雑誌を愛読していらっしゃる方も、電子版で読む若い世代の方々もいらっしゃると思います。絶対に年齢を切り口にしない、というわけではないのですが、「リアル・ラグジュアリーメディア」という世界観のファンに向けての位置づけになっていると感じます。

 

もう少し長期的な考え方でいくと、雑誌をデジタルも含めたひとつのブランドメディアであるとしたときに、『CanCam』というブランドメディア、『Oggi』というブランドメディアが年齢で区切るものではない、という方向に向かっていくのではないかと思います。今は様々な形で働いている方が大多数なのに、「働く女性向けメディア」という差別化は難しいよね、という話は出ています。だからこそ、何かに特化したものをつくらなければいけないというのが私たちの課題です。

小学館では、これまで女性ファッション媒体のなかで 「CanCam×Oggi」とか、「Oggi×Precious」とかのコラボは当然のようにやってきましたが、あまり前例のなかった雑誌ブランドのコラボにも積極的に取り組んでいるところです。我々は総合出版社としていろいろな媒体を持っているので、『CanCam』とアウトドア情報誌の『BE-PAL』が組むとか、主にシニア世代へ向けてライフスタイルを提案している『サライ』が、富裕層女性を読者に持つ『Precious』と組むといったことも可能です。『美的』がガジェット中心の『DIME』と組んで『メンズ美的』の企画を手掛けたこともあり、そこには年齢も性別もこだわらない考え方でビジネスの可能性を広げたいという意識があります。これまでの雑誌ブランディングが変わるわけではありません。でも、例えば『CanCam』を読んでいたら『BE-PAL』と一緒の企画があって「アウトドア ってこういうことなんだ」「彼と一緒にキャンプに行きたい」というふうに、読者の興味や知識が広がり深まっていけばいいな、という意図はあります。

 

社外に目を向けると、例えば、化粧品情報ポータルサイトのアットコスメさんは「@cosme TOKYO」という売り場をお持ちで、ネットの世界とリアルな体験が融合しています。そういう業態には注目していますし、今後の雑誌ブランドビジネスにおいて、参考にしています。また、化粧品やファッションブランドがご自身でオウンドメディアを醸成されたり、SNSを運用されたりしているので、雑誌媒体ならではの発信とは何か、を改めて考える必要はあります。メディアの垣根がなくなってきていることを大きな課題と捉えつつ、今後のビジネスを考えていけたらと思います。

有識者インタビュー

特別対談

消齢化社会に関する
特別対談

NHK放送文化研究所

博報堂生活総合研究所

対談参加者

NHK放送文化研究所

荒牧 央 氏
村田 ひろ子 氏
野澤 英行 氏

博報堂生活総合研究所

内濱 大輔
三矢 正浩
佐香 孝