少齢化社会 博報堂生活総合研究所 みらい博 2023

Part 1 消齢化の発見

きっかけは、生活総研の長期時系列調査「生活定点」でした。

「生活定点」調査

調査地域
首都40km圏、阪神30km圏
調査対象
20~69歳男女 3,084人 (2022年)
調査手法
訪問留置調査
調査時期
1992年から偶数年5月~6月

生活総研が2年に一度実施している「生活定点」調査は、
生活者の日頃の感情や生活行動、消費態度、社会観など、
多角的な質問項目から、生活者の意識と欲求の推移を
分析することを目的とした長期時系列調査です。
1992年から2022年まで30年分のデータから、
20〜60代の生活者の意識や欲求が、
長期間でどう変化したのかをみることができます。
最新調査である2022年の年代別回答を、20年前や30年前の回答と見比べてみると、気になる動きを発見しました。
いくつかの項目において、
年代による回答の差が、年々“小さく”なっていたのです。

年代差の縮小には、3つのパターンがありました。

1

下降収束型​

年代による回答の差が小さくなっているグラフをみると、変化のしかたには3つのパターンがありました。

ひとつめは各年代の回答が減少しながら近づく「下降収束型」。​例えばこの、「夫婦はどんなことがあっても離婚しない方がよいと思う」という家族のあり方への意識について。
過去の2002年時点では、
60代=夫婦は離婚すべきでないという意識が強い
20〜50代=上記の意識が弱い
という違いがはっきり出ており、それが年代の特徴にもつながっていました。ところが年々、各年代の回答は減少しながら徐々に近づいていき、2022年では違いがかなり小さくなっています。

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2

上昇収束型​

一方で、各年代の回答が増加しながら近づいていく「上昇収束型」という変化のパターンもあります。

こちらの「携帯電話やスマホは私の生活になくてはならないものだ」という情報機器についての意識は、各年代とも右肩上がりに増加しながら近づいており、それぞれの違いが小さくなっています。

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3

中央収束型​

3つめのパターンは、上方向・下方向ではなく、中央に集まる形で近づいている「中央収束型」のパターンです。

「ものやサービスの購入についてこだわる方だ」という消費に関する意識について、20・30代では、30年前よりもこだわるという回答が減少している一方で、40〜60代では増加しています。
全体の平均値だけをみると、30年間ほとんど変化がありませんが、年代間の違いは、どんどん小さくなってきているのです。

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出典:博報堂生活総合研究所「生活定点」調査

数えてみたら、たくさんありました。

年代による違いが小さくなっている項目は、実際にどのくらいの数に及んでいるのでしょうか。
比較のため、年代による違いが大きくなっている項目についても併せて集計し、両者の項目数を調べてみました※。その結果、違いが小さくなっている項目数は、30年間でみると70項目、20年間でみると172項目にのぼり、違いが大きくなっている項目数を大幅に上回っていました。

※起点となる年(1992年、2002年)の各年代回答の最大値と最小値の差分(A)を、2022年の各年代回答の最大値と最小値の差分(B)と比較。BがAより10ポイント以上増加していれば「年代による違いが大きくなっている」項目、BがAより10ポイント以上減少していれば「年代による違いが小さくなっている」項目として、集計を行った。

出典:博報堂生活総合研究所「生活定点」調査
この変化は、生活のさまざまな領域に及んでいました。 この変化は、生活のさまざまな領域に及んでいました。
出典:博報堂生活総合研究所「生活定点」調査

私たちはこの現象を、【消齢化】と名づけました。

20年前、30年前と比べて、
生活の様々な領域で、生活者の意識や好み、価値観などの、
年代による違いが小さくなっている―
この現象はいったい何を意味するのでしょうか。
年代による違いはすなわち、それぞれの年代の特徴でもあります。
「60代は、夫婦は離婚すべきでないという意識が強い」などの特徴を語るとき、そこには、ほかの若い年代との違いをもとにした視点があるのです。
裏を返せば、年代による違いがなくなれば、それぞれの年代の特徴も見出せなくなるということ。
数十年という時間をかけて、年代による違いが徐々に小さくなっているということはすなわち、
「若者らしさ」や「年相応」のような、年代/年齢に紐づいた生活者の特徴が徐々に薄らいでいき、消えていくことを意味するのです。

生活総研では、年代/年齢による特徴の消失につながっていくこの現象を【消齢化】と名づけました。
そして同時に、過去から現在にかけて消齢化が進むこの日本社会を【消齢化社会】と捉えてみようと考えたのです。