みらいのめ

さまざまな視点で研究員が「みらい」について発信します

2018.12.19

第24回

140年目のお色直し

from 北海道

生活総研 客員研究員
北海道博報堂

山岸 浩之

節目の年の北海道

北海道は今年の2018年、命名150年という節目を迎えました。それまでは、「蝦夷地」と呼ばれており、1869(明治2)年8月15日に太政官布告によって「北海道」と命名されました。その北海道の名付け親と言われているのが松浦武四郎という探検家で、当時の北海道を何度も訪れ、アイヌの人々とも交流を深めたそうです。蝦夷地に詳しいことから、明治政府の一員となり、新たな名称として「北海道」のもととなった「北加伊道」を含めた案を提案、見事採用となったのです。北海道は先史である約2万年前の氷河期から人が住み始めたとされており、縄文文化やアイヌ文化もふくめ、あらためて北の大地の歴史を振り替える一年となりました。

時計台は140歳

さて、北海道といえば思い浮かぶもののひとつに札幌市時計台があるかと思います。実物でなくとも写真やイラストで、北海道もしくは札幌のシンボルとして記憶されているのではと。そのおなじみの札幌市時計台は、蝦夷地から北海道となって10年弱経過した1878(明治11)年、現北海道大学である札幌農学校の演武場として建設されました。ですので、正式名称は「旧札幌農学校演武場」です。風雪に耐えながら、今年で140歳となりました。これまでも度々メンテナンスされていたようですが、屋根や外壁の改修のため今年は5ヶ月間の改修工事を行っていました。外からその姿は見えなくなっていましたが、この11月にお色直しを終えて、公開と観覧が再開されたのです。観光客はもちろん、市民も心待ちにしていたのではと思います。

というのも、今年2018年9月7日未明、北海道胆振東部地震が発生しました。地震規模はM6.7・最大震度は7で、震源地に近い地域を中心に被害が広がりました。北海道全域が停電、ブラックアウトという事態に陥りました。私も水や食料を求めて長蛇の列に並びましたが、甚大な被害に遭われた方もいらっしゃいます。心が痛み言葉もありません。それでも発生から約3ヵ月、今日まで復興は着実に進み日常を取り戻しつつありますが、観光への打撃が大きく現状でもすべて回復はしていません。「元気です北海道」を合言葉に全道あげての観光振興を行っている最中です。この時計台リニューアルオープンは、シンボルの新たなスタートとしてポジティブなニュースのひとつです。

ピチピチのクラーク博士?

札幌市の発表では、時計台には22万人以上(2017年度)の方が入場しております。札幌市への観光客数が1527万人(2017年度・札幌市発表)ですから、訪れる人はもっと多くてもよさそうな気がしました。よく見ると“来場者“ではなく、“入場者”なのです。そう、入場できる施設でもあるのです。国の重要文化財でもある時計台、定番の観光スポットながら、実際は入場できる施設としてはよく知られていないのではと。実はかくいう私も恥ずかしながら内部をきちんと見る機会がなかったのです。
時計台の館内は、資料館として展示も充実しており、北海道や札幌の歴史の概要を知ることができます。そして、2階はなんとホールになっており、一般の方でも音楽会や講演会、さらには結婚式などにも利用できます。その天井の高さや開放的な雰囲気に驚かれると思います。

そして新しい見所がもうひとつ。「少年よ大志を抱け!」の言葉で有名なクラーク博士の像が設置されました。ベンチに腰掛けたその姿は、農学校に来た当事の年齢(50歳頃)でつくられており、ガイドさんいわく「ぴっちぴちのクラーク博士です。ぜひご一緒にお写真をどうぞ」とのこと。ちなみに私と同じ年齢でした笑

また、シンボルである振り子式の塔時計は、現存するものでは国内で最古。とくに構造的な改良はされておらず、当初のまま今も正確に時を刻んでいます。こちらは日本機械学会の「機械遺産」として登録されています。

クラーク博士の坐像は、鉄板の新撮影スポット

創成という原点の地から未来へ

札幌市時計台の後ろに写る大型の施設、お気づきでしょうか。こちらは、今年10月にオープンした“さっぽろ創世スクエア“という名称の新たな札幌のランドマークです。札幌発展の起点となった創成川沿いに位置しており、このエリアは北海道新幹線の新たな札幌駅建設が計画されているなど、開発が加速しています。さっぽろ創世スクエアには、「水曜どうでしょう」を生み出した北海道テレビ放送(HTB)本社の新社屋や、オペラやバレエなど本格的な舞台芸術鑑賞ができる札幌文化芸術劇場hitaruを含む札幌市民交流プラザがあり、メディアや文化芸術の発信拠点でもあります。

さっぽろ創世スクエア

中でも、札幌市民交流プラザにある、「図書・情報館」という課題解決型図書館が人気で、市民を中心に毎日にぎわっています。館内の会話もOK、アイデア開発に役立ちそうな図書や資料、インターネットで予約可能なワーキングデスク・ミーティングルーム、無料のWi-Fiやたくさんの電源コンセントが備えられています。「WORK」「LIFE」「ART」をテーマにした3つのエリアでは、分野ごとの書籍や新聞・雑誌があり、なかなかの充実ぶり。また、データベース閲覧端末で新聞記事アーカイブや企業情報データベースへアクセスしたり、さまざまな市場のマーケティング情報を得ることもできます。わからないことや知りたいことがあれば、リサーチカウンターで気軽に相談。私も先日司書の方へ探しものをお願いして、関連図書をいくつかピックアップして頂きました。社内外のメンバーとこちらのミーティングルームでアイデアセッションもしています。カフェでコーヒーを買って、ワーキングデスクとデータベース閲覧端末を行き来していると、正直オフィスより仕事がはかどっているような?

スタートアップの支援やセミナーも開催されており、ここから新しいビジネスが芽生えそうです。地域の図書館が地域のビジネス支援を行うという流れは、これから加速するかもしれません。 “パブリック・ローカル・コワーキング図書館”が増えていくことに期待したいと思います。

札幌市民交流プラザ 図書・情報館

変わるもの、変わらないものが織り交ざる街。今日も時計台から鐘の音が心地よく響きます。
さっぽろホワイトイルミネーションや市民や観光客からも親しまれているミュンヘン・クリスマス市も始まりました。夜は一層輝きを増しています。ぜひいらして頂いて、北海道の今と未来を感じてもらえればと思います。

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