みらいのめ

さまざまな視点で研究員が「みらい」について発信します

2023.10.20

第49回

「猟師作家」という生き方

from 宮城県

生活総研 客員研究員
東北博報堂

武田 陽介

●「猟師作家」に会いに行ってみた

とあるインテリアショップの一角で見かけた、鹿の革を使った小物の展示販売。商品を紹介するリーフレットには、猟師作家「だる」と、名前が書いてあった。猟師作家とは…?聞き慣れない肩書に興味がわいた。善は急げ。石巻を拠点に活動していることがわかり、話を聞きに行ってみることにした。

●種子島生まれ“石巻育て”

猟師というと、強面で屈強な男を想像しがちだが、「だる」さんは、物腰やわらかく、やさしい人だった。

本名は島田暢さん。鹿児島県種子島生まれ。
名古屋の建設系の会社に就職して、クレーンの運転手などをしていたがUターン。鹿児島で農業の期間工となり、さとうきびを栽培・収穫していたらしい。2011年、東日本大震災のボランティアとして石巻へ。その中で、地元の方とのつながりが生まれ、2018年まで蛤浜というエリアの再生に関わることに。その際、農作物が鹿に食べられてしまう被害に遭い、石巻市に相談してみたものの対応してもらえず自分で駆除しようと、狩猟免許を取ったという。

経歴をうかがい、行動力のすさまじさに度肝を抜かれてしまったが、その目的や意図がどこにあるのか?兎にも角にも、猟師作家なる存在を知るべく、いろいろと質問をしてみた。

●猟師+作家=?

―山の動物と対峙する怖さはありますか?

島田さん:怖さはあります。特に鹿の雄が罠にかかった時は、怖いし、緊張します。角に刺されて2週間ほど入院した人もいるので。2~3年に1回は、イノシシで死ぬ人もいます…。

―獲った鹿はどうするのですか?

島田さん:
女川町に若手有志でつくった解体施設があって、そこで、鹿を、肉や皮にわけることを自分でやっています。猟友会の支部長に一度、さばき方を教えてもらって、そこからは独学でおぼえました。
でも、鹿をさばくのは、今でも苦しいですね。小鹿だとキュウキュウ泣いたりするので…。
なので私は、1日2~3頭が限界です。

―狩猟で大切にしていることは?

島田さん:
人間は、何かを殺して生きていて、自分の手でそれを「する」か「しない」かの違いだと思うんです。命を奪っているからこそ、肉でも皮でも、使えるものは使いたいと思っています。

―猟師になって、価値観や考えに変化はありましたか?

島田さん:
祖父が林業に従事していたこともあり、もともと山が好きだったんですが、猟師になり日本独自の山の文化を継承していきたいという想いが強くなりました。また、自然の恐怖や厳しさに気づくことで、災害への意識も敏感になったと思います。

―猟師作家という肩書を使う理由は?

島田さん:
「作家」という言葉には、レザークラフトや木工作品をつくるということに加えてあたらしい猟師をつくるという意味もあるんです。狩猟という文化を次世代に残していくために仕組みや体制をブラッシュアップしていかなければならない。文化の継承や山の保全という意味でも、山に入る人が増えた方が理想的。あたらしい人が狩猟に関わりやすくなったり、もっと横でつながりやすくなったり、狩猟をオープンなものにしていきたいですね。

―今後の目標はありますか?

島田さん:
猟師を増やすという意味でも、若い人や女性に参加してもらいやすいイベントを企画したいですね。狩猟は野生動物の保護だけでなく、山の環境保全にも関係する仕事なので、週末林業という形で都市部の方と地域をつなぐようなことや、狩猟を企業研修に取り入れてもらうなど、山のことや林業について知っていただく機会を創出することで、狩猟だけで食べていけるビジネスモデルがつくれたらと思っています。

●狩ることは、生み出すこと

質問をぶつけてみて思ったのは、島田さんの狩猟は命を無くすのではなくあたらしいものを生み出すプロセスだということ。

自然と人をつなぎ、命を「生かす」。

猟師作家というスタイルだからこそ解決できることやたどり着ける未来があるような気がした。

 

■WEBサイト 猟師作家「だる」の狩暮らし
https://bricoleurlifestyle.com/

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