みらいのめ

さまざまな視点で研究員が「みらい」について発信します

2016.05.09

第6回

みらいの家族

from 愛知県

生活総研 客員研究員
博報堂 中部支社

冨永 直基

名古屋の繁華街「栄」の東方に、外国人パブ、ゲイバーなどが集まっている歓楽街がある。中部一のLGBT文化の発信地だそうである。「NLGR+」(Nagoya Lesbian & Gay Revolution Plus)という、「LGBT」のフェスティバルが毎年開かれていて、今年は5月28日・29日に開催される。「LGBT」とは、「レズビアン(Lesbian)」「ゲイ(Gay)」「バイセクシュアル(Bisexual)」「トランスジェンダー(Transgender)」のアルファベットの頭文字を取ったもので、「性的マイノリティ」を指す総称である。日本にも決して少なくない数のLGBT当事者がいるとされるが、カムアウト(人に知られたくないこと、同性愛者であることなどを公言すること)をしていない人が多いので実態はよくわかっていない。このフェスティバルの最中に「同性婚」結婚式が催されることも多く、参加者が皆で、楽しみ、そして、泣くのだという。こういうフェスティバルの場ではなく、普通の街中でもLGBT向け結婚式をサポートするサービスが目に付くようになってきている。

こうしたカップルが徐々に増えてきつつある一方、「独り」の人もそれ以上に増えているのが最近の傾向である。今の30歳で生涯未婚の人が、男性では3割、女性でも2割に達すると予測されている(国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(全国推計)(2013年1月推計)」)。50歳時点で一度も結婚をしたことのない人の割合=「生涯未婚率」の推移で、今の30歳が50歳になる2035年頃の話である。一度、あるいは、二度、三度と結婚したものの、離婚などで独身という人も多いであろう。一方、未婚であっても親や兄弟と同居している人もいるから、こうした人が必ずしも「独り」というわけではない。が、いろいろ聞いていると、人々の暮らしや家族がこの先どうなっていくのか少し気になってきた。

「家族」とはいったい何なのであろうか。厚生労働省のホームページを見ると、「家族形態」は、次の5分類になっている。(1)単独、(2)夫婦のみ、(3)子と同居、 (4)その他の親族と同居、(5)非親族と同居。ただし、平成19年の国民生活白書によると、「同居別居にかかわらず、親、子ども、祖父母、孫などの直系の親族と、配偶者、兄弟(姉妹)までを「家族」の範囲ととらえる人が多い」そうであるし、「(5)非親族と同居」しているケースを家族と思う人は、(内縁関係を別とすれば)現在ではまだ少数派であろう。

そうした「家族」意識が、今、時代と共に大きく変わりつつあるように感じている。家族を対象にした携帯電話の料金割引サービスがあるが、このサービスを受けられる「家族」の範囲が興味深い。2006年に改定された某社の話であるが、運転免許証などで住所が同じであることを証明できれば、仮に「姓」が異なっても認められるようになった。それまでは、例え同じ住所であっても、同姓であったり、親族であることを証明できなければ、単なる「同居する赤の他人」という扱いだった。それが、「一つ屋根の下で暮らすのであれば誰でも家族」と認めるようになったのである。この「家族」としての認定を大きく喜んだのが「LGBT」の人々だったそうである。LGBTの人々にとって、この割引サービスには「家族」の認定という意味があった。

また最近では各社からいろいろな「ロボット」が販売されているが、実際に購入した人々の感想が興味深い。あるロボットを実際に購入した人々は、「ロボットという感覚ではない」「家族が一人増えた感じ」「彼(息子)は1歳半で、ロボットがいるのが当たり前」「(ロボットは)友だちであり、兄弟」「(子どもと)一緒に成長してほしい」というもので、子どもか孫が増えたという感じらしい。ペット以外にも家族の一員が増えていきそうである。

こうした様々なことを考えると、未来は、「性」的にも(LGBTなど)、生物学上の「種」にも(犬や猫など)、更には「生物」であるかどうか(ロボットやAIなど)にも問われない、「多様な家族」と一緒に暮らすものになっていそうな気がしてきた。他方、現在一人で暮らしている人などには、これからも「一人でいる幸せを確保したい(=独衆)」ということで、敢えて一人の道を進む人も増えてきていて、実に人生の選択肢は幅広い。「幸せ」は、実に多様性に富んでいる。

再び、厚生労働省のホームページを見ると、「世帯」とは、「住居及び生計を共にする者の集まり又は独立して住居を維持し、若しくは独立して生計を営む単身者をいう」そうである。「住居及び生計を共にする者や物たちの集まり」というのが「みらいの家族」なのかもしれない。

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