私の生活定点

博報堂生活総研による定点調査「生活定点」を見て気づいたこと、
発見したことをさまざまな人が語っていくリレー・エッセイです。

2015.08.24

第8回

お父さんの背中は小さくなったか

生活総研 上席研究員

内濱大輔

「亭主元気で留守がいい」

1986年の流行語の1つにもなった有名なCMフレーズです。流行するということは、その時代、家庭でのお父さんの立場の弱さが世間的に広く共有されていたのでしょう。
最近のCMでは、「犬」になっているお父さんが有名です。排除の対象から、愛玩の対象に変化してきたということなのでしょうか。

博報堂生活総合研究所が公開している調査データ「生活定点」では、お父さんの地位はどうなっているでしょう?
関連しそうな調査項目について、98年から14年までの推移を見ることができました。

「昔に比べて妻に対する夫の力は弱まったと思う」は、98年の54.9%から、14年の44.5%まで減少し続けて、半数を下回りました。

昔に比べて妻に対する夫の力は弱まったと思うhttps://seikatsusoken.jp/teiten2014/answer/853.htmlPDF

もう1つご紹介します。「昔に比べて子供に対する父親の力は落ちたと思う」でも、98年の63.4%から、14年の50.5%まで低下しています。

昔に比べて子供に対する父親の力は落ちたと思うhttps://seikatsusoken.jp/teiten2014/answer/852.htmlPDF

つまり、データ上ではお父さんの家庭での立場は弱くなってないのです。いったいお父さんに何が?

仮説の1つは、「イクメン」という言葉を耳にする機会が増えたように、育児や家事を積極的にやろうと考えるお父さんが増えたことで、家庭円満で妻にも子供にも敬意を持たれるお父さんが増えた、という考え方です。

「夫も家事や育児を優先すべきだと思う」のデータを確認すると、男性で98年の21.4%から、14年の27.0%までジワジワですが数字が伸びています。

 夫も家事や育児を優先すべきだと思う(性別)https://seikatsusoken.jp/teiten2014/answer/856.htmlPDF

仮説のもう1つは、少し穿った見方になります。

「収入や社会的地位の面で、子供世代が親世代よりも階層上昇することが難しくなっている」ことが、「父親の力が落ちた」と思う人の減少と関係している、という説です。
かつての日本では、親世代よりも子供世代は高い学歴を積み、立派な会社に入って、階層上昇をしていくことが頻繁に起こっていました。お母さんだって子供の教育の方に関心が向かっていたでしょう。お父さんは子供に超えられることで、ある意味では歓迎すべき家庭内地位の低下を経験していたのかもしれません。
でも、今は少し難しくなっているようです。

国税庁のデータで見ても、給与所得者(非正規雇用含む)の平均年収は97年の467万円をピークに減少傾向にあり、(最近は持ち直しているとはいえ)直近の13年は414万円となっています。背景には非正規雇用の比率上昇と、年齢が高くなっても昔程には給与レベルが上がらない「賃金カーブのフラット化」の要因があります。

生活定点では傍証になりますが、

「子供は親の老後の経済的な面倒を見る方がよいと思う」で、98年と14年を比較すると、男性20代で18.9ポイント低下、男性30代で10.0ポイント低下しています。

 子供は親の老後の経済的な面倒を見る方がよいと思う(男性年代別)https://seikatsusoken.jp/teiten2014/answer/849.htmlPDF

これは「子供世代のモラルの低下だ!」というよりも、現実的に親世代の方が裕福であって、子供世代がサポートするのが難しいことを反映しているように思います。
(加えて、昔ほど兄弟姉妹が多くないので、少ない子供で親を支えることの大変さもあります。)

子供世代に対して「父親を超える気概を持て!」と言うこともできますが、一方で、この変化を前提と捉えることもできます。「お父さんの存在感のある親世代と子供世代の一族で、どんな新しい生活や会話が生まれるんだろう」と思いを馳せると、体温を感じる未来を考えられるような気がします。

※このコラムは生活定点2014年度版のデータに基いています。

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