私の生活定点

博報堂生活総研による定点調査「生活定点」を見て気づいたこと、
発見したことをさまざまな人が語っていくリレー・エッセイです。

“生写真”が浮かび上がらせる
日本の食卓 自由化する食生活の実態
–日経クロストレンド 連載㊸–

生活総研 主席研究員

夏山 明美

こちらは「日経クロストレンド」からの転載記事です。

「リアルな食卓」の風景とはどのようなものか――。SNSにあふれる「飾られた食卓」ではなく、普段の食卓の写真を収集することで、真の日本の食生活を博報堂生活総合研究所が探っている。そこから見えてきたのは、ひとり世帯だけでなく、多様な世帯で孤食が進む光景、そして自由化する食卓の風景だった。

写真やデータから見える日本の食卓の真実とは。食と食卓の過去と今を追う博報堂生活総合研究所の研究員が徹底分析する(画像/Shutterstock)

「あなたは普段、どのような情報に関心をお持ちですか」

博報堂生活総合研究所の長期時系列調査「生活定点」で聴取するこの質問で、「食べ物・料理」が2012年以降、30項目中トップに君臨し続け、最新調査の22年は57.8%で過去最高を更新しました。食への関心が高まる理由としては様々な考察ができるでしょうが、私はインターネット上で他の人の食生活が見えるようになったことが影響しているのではないか、と思っています。

例えば、「料理のレシピサイトやブログが私の先生だ」と思う人は22年には26.2%にまで増加。逆に、「料理の番組や記事が私の先生だ」と思う人は減少傾向にあり、ネット上の先生たちとの差がどんどん広がっています。

また、「料理の写真をネットで公開したことがある」人も増えてはいますが、22年は16.0%とまだ少数。ネットでは、レシピサイトやブログで他の人の料理を見る割合の方が、自分の料理を見せる割合に勝っています。

「食事や料理」に関する回答率の推移

今や食事や料理に関する情報はネットやSNSにあふれていますが、美しく飾られたよそいきの食風景が目立ち、リアルな食卓を写す写真はまれです。他の人の料理を見るのはいいけれど、自分が普段食べているありのままの料理を公にするのには抵抗があるからでしょう。

そこで博報堂生活総合研究所では「食生活写真調査」(全国/20~69歳男女315人/インターネット調査/22年2月実施)で、食生活の実態を明らかにしました。さらに、「食に関する生活者調査」(首都圏・阪神圏・名古屋圏/20~69歳男女1500人/インターネット調査/23年2月実施)により、リアルな写真から見た、それぞれの実態に当てはまる人の割合を定量的に測りました。では、早速、写真と数字で分かった食生活の実態をご覧いただきましょう。

孤食は、ひとり暮らしで4人に3人。家族がいても2割超

最初にご紹介するのは、最近見聞きすることも多い「孤食」の実態について。例えば、ひとり暮らし世帯の62歳女性から送られてきた写真を見ると、朝・昼・夜の3食ともにひとり。そして、写真に添えられたコメントには「テレビを見ながら」「音楽を聞きながら」とあり、写真にはこうした「ながら食べ」のお供のテレビが写りこんでいました。

7時半頃
キッチンのカウンターテーブルでテレビを見ながら、食べた
(62歳女性 ひとり暮らし世帯)

13時頃
ひとりで音楽を聴きながら食べた
(62歳女性 ひとり暮らし世帯)

19時頃
ひとりでテレビを見ながら食べた
(62歳女性 ひとり暮らし世帯)

こうした孤食の割合を定量調査で測ると、「毎食とも、ほぼひとりで食べる」人は、先ほどご紹介した62歳女性のようなひとり暮らしだと4人中3人(76.2%)もいます。

ただ、ひとり暮らしで孤食の割合が高いのは当然といえば当然。むしろ、意外に思ったのは、夫婦のみ世帯(21.7%)、夫婦と子ども世帯(24.7%)といった家族がいる人でも2割超だったことです。どうやら、その背景には、家族の生活時間の分散化、コロナ禍や物価高による外食控え、働き方改革による在宅勤務の導入などの要因もありそうです。

●「毎食とも、ほぼひとりで食べる」の回答率(世帯別)

次に、「ながら食べ」の割合を見てみましょう。

「テレビを見ながら食べる」人は、夫婦のみ世帯(72.9%)、夫婦と子ども世帯(70.0%)、ひとり暮らし世帯(68.2%)の順で高くなっています。それぞれの値に大差があるわけではありませんが、ひとり暮らしで話し相手がいない人の方が「テレビを見ながら」食べる割合が高いのではないか、と思っていましたから、この結果もやや意外でした。家族がいる人は、テレビを見ることで共通の話題づくりをしているのでしょうか。

●「ながら食べ」に関する回答率(世帯別)

逆に、ひとり暮らし世帯で高かったのは、「スマホを見ながら食べる」(44.1%)、「パソコンを見ながら食べる」(33.6%)です。どちらの「ながら食べ」も、夫婦のみ世帯(スマホ:22.0%、パソコン:13.4%)、夫婦と子ども世帯(スマホ:25.4%、パソコン:16.4%)と大きく差をつけています。

スマホやパソコンは家族や友人、知人など身近な人とつながるデバイスでもありますから、孤食が多いひとり暮らしは、スマホ/パソコンで「人とつながりながら」食べているのかもしれません。

→続きは日経クロストレンドのページからご覧ください。

 

<日経クロストレンド「30年のデータで解析! 生活者の変化潮流」>
第30回ーー“40代おじさん”の意識はどう変わった? 20年前のおじさんと比較
第31回ーー新旧“40代おじさん”比較第2弾 20年間で仕事愛が激変!?
第32回ーーバブル期の20代と令和の20代、何が違う? 男女の壁が“消滅”
第33回ーー40代おじさん、驚愕の最新調査 劇的なキャラ変&「いい人」化
第34回ーー調査で判明したシン40代おじさんの意識「アナログ」がお好き?
第35回ーー調査で判明 自分で自分を幸せだと思っている人の「2つの共通点」
第36回ーーデータで見る「好きな料理」30年史 ラーメンが“食った”料理は?
第37回ーー30年データで突き止めた新ワード「消齢化」消えゆく年代の壁
第38回ーー「若者をなめていない」 ピース又吉さんに見る新・40代おじさん像
第39回ーーリビングでブームの「ヌック」とは  調査で判明、住空間の新潮流
第40回ーー「全年齢層で共通して歌われる曲」は10年間で5倍に増加
第41回ーー「調理済み食品を使う料理」に賛成9割。内食と中食の中間に勝機
第42回ーー年齢に代わる「2つのモノサシ」を発見 「消齢化」最新研究
過去の連載はこちら

この記事をシェアする

このエントリーをはてなブックマークに追加
私の生活定点

「消齢化」の次は「消性化」?
食で縮まる男女の違い、20代で顕著

生活総研 主席研究員
夏山 明美
2024.04.04
私の生活定点

「調理済み食品を使う料理」に
賛成9割。内食と中食の中間に勝機
–日経クロストレンド 連載㊶–

生活総研 主席研究員
夏山 明美
2023.08.29
私の生活定点

リビングでブームの「ヌック」とは
調査で判明、住空間の新潮流
–日経クロストレンド 連載㊴–

生活総研 上席研究員
佐藤 るみこ
2023.04.14
私の生活定点

「若者をなめていない」 ピース又吉さんに見る新・40代おじさん像
–日経クロストレンド 連載㊳–

生活総研 上席研究員/コピーライター
前沢 裕文
2023.03.09
私の生活定点

30年データで突き止めた新ワード「消齢化」消えゆく年代の壁
–日経クロストレンド 連載㊲–

生活総研 上席研究員
近藤 裕香
2023.02.22
私の生活定点

データで見る「好きな料理」30年史
ラーメンが“食った”料理は?
–日経クロストレンド 連載㊱–

生活総研 主席研究員
夏山 明美
2023.02.15
私の生活定点

調査で判明したシン40代おじさんの意識「アナログ」がお好き?
–日経クロストレンド 連載㉞–

生活総研 上席研究員/コピーライター
前沢 裕文
2022.12.20
私の生活定点

40代おじさん、驚愕の最新調査
劇的なキャラ変&「いい人」化
–日経クロストレンド 連載㉝–

生活総研 上席研究員/コピーライター
前沢 裕文
2022.12.20
私の生活定点

バブル期の20代と令和の20代、何が違う? 男女の壁が“消滅”
–日経クロストレンド 連載㉜–

生活総研 上席研究員
植村 桃子
2022.11.21
私の生活定点

新旧“40代おじさん”比較第2弾
20年間で仕事愛が激変!?
–日経クロストレンド 連載㉛–

生活総研 上席研究員/コピーライター
前沢 裕文
2022.10.19
私の生活定点

“40代おじさん”の意識はどう変わった? 20年前のおじさんと比較
–日経クロストレンド 連載㉚–

生活総研 上席研究員/コピーライター
前沢 裕文
2022.09.14
私の生活定点

50代女性の「料理好き」が激減
作るのが苦痛になった要因とは
–日経クロストレンド 連載㉙–

生活総研 主席研究員
夏山 明美
2022.08.17

もっと読み込む

その他の研究をキーワードから探す