イベントレポート

サマーセミナー2018「家族30年変化 家族はいま、プロジェクトへ。」を開催

博報堂生活総合研究所は、サマーセミナー2018「家族30年変化 家族はいま、プロジェクトへ。」を、7月27日(金)東京国際フォーラムにて開催しました。 本セミナーでは、1988年から2018年まで博報堂生活総合研究所が10年おきに行ってきた家族(妻の年齢が20~59歳の夫婦が同居する世帯)を対象とした調査の時系列分析等をもとに、家族の意識や行動が30年間でどのように変化してきているのか、研究成果を発表。企業のマーケティング担当者や経営層、メディア関係者など、700名を超える方々にご来場いただきました。
本レポートでは、講演者によるセミナーを再現いたします。
※調査は1988年、1998年、2008年、2018年の4時点で実施。調査概要は末尾に記載。

家族をとりまく環境認識

まず内濱上席研究員から、家族の30年、そして平成の30年の間に起こった環境変化を、マクロ統計の分析を中心に紹介しました。
この30年間で、家族にとって「当たり前ではなくなったこと」は以下。

[世帯] 誰もが家族を持つこと
・生涯未婚率が上昇し、世帯タイプでは単独世帯が最多に。

[家計] 家族をつくり支出が増えるにしたがって、収入が増えていくこと
・97年をピークに収入が停滞し、年功序列制による昇給もかつてほど期待できない状況に。

[役割] 男は仕事、女は家事を担うこと
・共働きが専業主婦の倍近くの世帯数となり、国も働く女性を後押しする体制に。

平成とは、家族のモデル(標準形)がなくなった30年でした。目指すべきモデルがなくなったことで、家族のあり方は生活者が各自でつくる環境になったのです。

発表中の内濱上席研究員

家族30年変化 5つの潮流

続いて、モデルを失った家族がそのあり方をどのように変えてきたのかについて、家族調査から発見した変化の5つの潮流を解説しました。

潮流1 家族のユニット化

調査結果からは、家族のメンバーの自立性が高まっていることがわかりました。例えば、妻による夫の呼び方の変化は、妻が夫を配偶者や父親としての役割ではなく、個人として認識していることを示しています。この傾向は妻も同様です。
一方で、「意識して家族の絆を強めるようなことをするほうが良い」という人が夫・妻ともに増えています。家族の絆は空気のように「ある」ものから、「つくる」ものになっています。
家族は、自立した個人が集まり、望んで家族であろうとする集団に変化しているのです。

潮流2 家族のオープン化

「家族といって思い浮かべる人」として親や兄弟姉妹を挙げる人が増えています。また、「自分の親しい友人は家族のようなものだと思う」も98年以降増えています。いずれも家族という概念が、核家族に閉じずに、同居や血縁によらないものに拡張するような動きです。
家族は、多様なメンバーが出入りし、サイズや関係を柔軟に変える集団に変化しています。

潮流3 子のキーパーソン化

「子どもの授業参観や運動会には必ず行く」「親の生活費より子どもの教育費にお金をかけるほうが良い」という人が増え、夫婦が子どもに入れこむようになっています。
その延長線上にある動きとして、「子どもはできるだけ早く親の手から離すほうが良い」が減少傾向にあります(特に妻)。親の子離れがますます遠のいているようです。
子どもが夫婦を頼りにするだけでなく、夫婦が子どもの求心力を頼りにする関係が強くなり、夫婦と子の関係は双方向的なものになっています。

潮流4 夫婦のツートップ化

家庭の様々なものごとについて「総合的決定権を持っている人」は、30年前は圧倒的に夫でしたが、妻の力が劇的に強くなり、現在は「主に夫」と「主に妻」が拮抗するまでになりました。
対する夫は、理想の夫婦像として30年前は最も多く挙げていた「亭主関白」を取り下げ、「友達夫婦」を挙げる人が最多となり、妻に寄りそっているかのようです。
そして現在、「配偶者から、ひとりの人間として尊重されていると思う」人は夫、妻ともに7割を超える水準にあります。夫婦は、ふたりが家長として対等にものを決める体制に変化しています。

潮流5 夫婦で進むワークシェア化

「夫婦の話題」として「家事」や「仕事や職場のこと」が増加。夫婦ともに働き、家事を行うことで関心を共有するようになっています。
「夫も家事を分担するほうが良い」は30年で大きく上昇し、2018年は夫・妻ともに8割を超えました。一方、「夫がよくやる家事」は着実に増えているものの、まだ絶対値が低いことに加え、最も多いのが「ゴミだし」という補助的な内容にとどまっています。
夫の家事分担はまだ意識先行ではありますが、夫婦は仕事と家事で関心を共有し、協業する方向に変化してきています。

家族はいま、プロジェクトへ。

「モデルがなく、模索しながら進んでいく」
「メンバーが自立している」
「ずっと続くとは限らないと思っている」
「メンバーが緩やかに出入りしている」
「立場や役割を柔軟に入れ替えている」

ここで挙げたものは平成30年の家族の特徴です。同時にこうしたあり方は、企業の「プロジェクト」にも類似しています。平成という時代に、成功のモデルがなくなったのは企業も家族も同じであり、環境変化に適応しやすい柔軟性をもって進むことも共通するのだと考えられます。
生活者は、決まりきったルーティンで家族をまわすのではなく、自らの創意工夫で家族というプロジェクトを運営しようとしているというわけです。

プロジェクト家族の暮らしぶり

ここからは十河研究員が登壇。5つの潮流のうち、意識変化に実態が追いついていない「夫婦で進むワークシェア化」にフォーカスして、プロジェクト家族の実際の暮らしぶりを具体的に紹介しました。

家事分担タイプの現実と理想

まず、夫婦間の家事分担のタイプを定量的にみてみます。次の4択で聞いています。

伝統型 : 妻は家庭内の役割を、夫は家庭外での役割を担う
平等型 : 夫婦で平等に分担
柔軟型 : 夫婦のうちその時にできる方がやる
逆転型 : 夫は家庭内の役割を、妻は家庭外での役割を担う

家事分担タイプを現実と理想に分けて聞いた結果は次のグラフの通りです。現実には伝統型が7割にのぼり、妻に負担が偏っていることがわかります。一方、理想の家事分担では、平等型・柔軟型をあわせると夫で5割、妻で6割を超えています。
では、今後増えると考えられる平等型・柔軟型の分担を、すでに実践している人たちは、どのような家庭生活を運営しているのでしょうか。

平等型・柔軟型のワークシェアの特徴

ここからは、家庭訪問調査からみえてきた平等型・柔軟型のワークシェアの特徴を3つ紹介します。

「べき論」を捨ててシェア

ある40歳の妻は、3人目の子どもが生まれて自分ひとりで家事・育児を完璧にやることを諦めざるを得なくなった時から、夫が参加してくれるようになったと言います。その後は自分が80点くらいで手を抜いたほうが、夫にとってもやりがいがあるのではないかと考えるようになったそうです。
また、別家庭の28歳の夫は、共働きで夫婦ともに忙しいので、連日洗濯できずに下着が足りなくなることがよくあると言います。ですが、家事のクオリティを追求し過ぎてお互いを責めないよう心がけており、「パンツ危機だ!」というネタにして楽しむことにしているそうです。
家事・育児には、例えば「洗濯物は天日干しにすべき」など信仰のようなものが付きまといますが、それをあえて捨てることで、家事を気持ちよく夫婦でシェアする工夫がみられました。

役割を決めないでシェア

フルタイムで働きたいという妻の要望に応えたという39歳の夫は、会社にフレックス制を適用してもらったそうです。子どもが急に体調を崩した時などに、妻だけでなく夫も駆けつけられる体制にして、必要に応じて夫婦が攻守交代する様子がみられました。
また、いくつかの家庭ではリビングのまん中に掃除機を置いて、気づいた時に気づいた人が掃除するように仕向ける工夫をしていました。他にも、同じ考え方で汚れやすい場所にウェットティッシュなどを複数配置する家庭もありました。
家族が生活を長く共にすると、自然と誰が何の担当か決まっていくことがあります。しかし、平等型・柔軟型の夫婦はあえて役割を固定しないことで、ワークシェアを進めていました。

違いを武器にしてシェア

仕事の都合上、妻が朝型で夫が夜型という51歳の夫は、妻も子どもも寝てしまった夜中に残った皿洗いや洗濯を担当するそうです。しかし、本人にとっては苦ではなく、ひとりでじっくり動画を楽しみながらの皿洗いはむしろ楽しいといいます。生活時間の違いを活かしたワークシェアです。
他に、得手不得手の違いを活かす家庭もありました。37歳の妻は、夫の家事のクオリティは高くないとしつつも、夫のせっかちな性格は一種のスキルだと考えています。とにかく妻より先に家事に手を付ける夫と、大事なところで発揮される妻の家事クオリティがうまく噛み合っている家庭でした。
平等型・柔軟型の家庭では、一見ネガティブとも思われる夫婦間の時間や能力の違いなども、武器としてうまく活用しているようです。

共働き家庭は今も増え続けており、伝統型分担では暮らしが回らなくなる家庭はさらに増えるでしょう。その時、企業のプロジェクトが実際には理路整然とは進まないように、家族においてもここで紹介したような地道な創意工夫が今後より一般的になってくるのではないでしょうか。

発表中の十河研究員

今後の家族を考える争点

最後に石寺所長が登壇し、家族は本来的に簡単に割り切れるものではなく、矛盾を抱えている存在だとした上で、だからこそ家族を考える上で今後の争点になりそうな3つのジレンマについて提言しました。

これからの家族に問われるジレンマ

「個」か「家族」か?

30年間の変化で一貫していたのは、個に向かう流れでした。しかし一方で、家族の絆を強めたいという意識も高まっています。両者どちらも否定することなく家族を営むことは、おそらく今後も家族の大きなテーマであり続けるはずです。

「機能」か「愛情」か?

今後もワークシェアは家族の大きな課題であるはずです。もちろん、家事を合理的・効率的にこなすだけなら、割り切って外部サービスを利用するのは有力な解決方法です。しかし、その一方で、たとえ手間がかかっても愛情表現として自分の手でやりたいと考える人も多いのも事実です。機能と愛情のジレンマも、当分続く悩みではないでしょうか。

「血縁」か「非血縁」か?

海外に比べると、日本は血縁へのこだわりはまだ強いものがあります。しかし、単独世帯が増え続ける日本の実情を考えれば、早晩それも難しくなります。血縁へのこだわりを捨て、家族の定義を変えられるのか? これもこれからの家族の大きな争点になってくると思います。

家族に向き合うための発想

いずれのジレンマも今後の社会問題としてはもちろん、企業のマーケティング課題にもなってくるでしょう。そこで、社会や企業が家族に向き合う際、次のような発想転換が有効なのではないでしょうか。

「個」か「家族」か、ではなく、「個」も「家族」も

例えば、家の仕事“家事”を、個人の仕事や楽しみ“個事”として捉えなおしてみる。

「機能」か「愛情」か、ではなく、「機能」も「愛情」も

例えば、デジタルツールの活用で夫婦のコミュニケーションが変われば、家事を合理化しながら互いを思いやる気持ちも高まるという事例も。

「血縁」か「非血縁」か、ではなく、「血縁」も「非血縁」も

そのためには、「血縁」を前提としていたことを、「非血縁」でも成立させることが求められそうです。

昨今、日本でも「ダイバーシティ」という言葉が一般的になってきました。個々人の違いを認めあおうという動きですが、これに加えて海外では近年、もうひとつのキーワードが広まりつつあります。それが包摂という意味を持つ「インクルージョン」という言葉です。認め合うにとどめず、違いを活かしあおうという考え方です。二律背反を超えようとする姿勢は、ブレイクスルーのきっかけになるかもしれません。二律背反に対義語はありませんが、あえて言うなら「二律包摂」という発想です。
家族は社会の最小単位です。ということは、これからの家族のありようを考えることは、これからの社会を考える上でもヒントになるはずです。

発表中の石寺所長

セミナー終了後、参加者からは
「30年間にわたる調査結果を元にしているので、変化を理解しやすかった」
「日々感じていることがデータで立証されたことで、具体的に業務に取り入れるイメージができた」
「相反する要素を両立するという視点は、これからの生活では重要だと感じた」
などの声が多く寄せられました。

今回発表した30年間の調査結果は、セミナー当日7月27日より無償一般公開を開始しています。
https://seikatsusoken.jp/family30data

博報堂生活総合研究所は今後も、生活者のきめ細やかな調査研究を通じて、よりよい未来を提言する活動を続けてまいります。

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