2024.02.19

–日経クロストレンド㊺連載–

「ひとり好き社会」に向かう日本
20~30代は7割、40~50代は?

執筆者:生活総研 上席研究員 近藤 裕香

こちらは「日経クロストレンド」からの転載記事です。

SNSが一般化し、人と人がつながりやすくなっている時代にもかかわらず、実は日本人は「ひとり好き」になりつつある――。そんな意識の変化が、データからは見えてきた。博報堂生活総合研究所が1993年と2023年に実施した意識調査を基に、同所の研究員が「ひとり」にまつわる意識・行動の変化を解説する。

日本で「ひとり好き」が増えている?(画像:Jorm Sangsorn/stock.adobe.com)

<後編はこちら>

「総ひとり好き社会」の到来

みなさんは、「ひとり」と聞いてどんなことを思い浮かべますか? 「単身者」「ぼっち」「おひとりさま」「自由」……。「ひとり」にはネガティブ・ポジティブ含め、実に多様なイメージがあります。

そして、「社会的孤独」「少子高齢化」などの社会問題を背景に、最近「ひとり」に関する話題を耳にすることが増えてきました。また、多くの生活者がコロナ禍をきっかけに「ひとり」で過ごす経験をしたことで、「ひとり」に対する価値観が変わってきているようにも感じます。

私たち博報堂生活総合研究所は、1993年に25~39歳男女に対して「ひとり意識・行動調査」を実施。それから30年たった2023年、前回同様の調査を再度実施したところ、現代の「個」に向かう流れの加速もあって「ひとり」を志向する人が大幅に増加していたのです。

「ひとり」に関する意識や行動の30年変化

それを象徴する調査結果をご紹介しましょう。

「ひとりでいる方が好き」か「みんなでいる方が好き」かを問う質問です。1993年では「ひとりでいる方が好き」が43.5%だったのが、2023年では56.3%と10ポイント以上増加し、過半数に転じました(図1)。

図1:【「ひとりでいる方が好き」vs「みんなでいる方が好き」】

 

性別・未既婚別で見ても、全ての層で「ひとりでいる方が好き」が増加しており、30年前と比べて性別や未既婚といった属性に関わらず「ひとり」を志向する人が増えていることが分かりました(図2)。

図2:【「ひとりでいる方が好き」性別・未既婚別】

「ひとり」の時間を大切にする傾向の高まり

続いて「ひとり」に関する意識や価値観の30年変化について見てみましょう。「意識してひとりの時間を作っている」と答えた人は1993年で27.3%だったのが、2023年では49.1%と大幅に増加しています。

他にも様々な面で、「ひとり」の時間や行動を大切にしたいという意識が高まっているのですが、なかでも趣味や遊びをひとりで楽しむ人が増えています。

具体的には、「ひとりで没頭できる趣味を持っている」人が1993年には58.1%だったのが2023年では74.8%に。「趣味・遊びは、みんなよりひとりでやる方が好きだ」も、1993年の31.9%から2023年では44.2%と、いずれも増加しています(図3)。

ネット環境の拡充や推し活の人気などを背景に、好きなことに対してひとりで貪欲に深めていきたいという意識の表れといえるでしょう。

図3:【ひとりに関する意識や価値観】

生活の様々な場面で、「ひとり」行動したい人が増加

次に「ひとりで行きたい」場所の30年間変化についてです。

30年前と比べて増加幅が大きかった場所のスコアを見てみると、1位の「喫茶店・カフェ」は1993年では20.0%だったのが2023年には53.4%となっており、33.4ポイントの大幅増加となりました。

次いで2位の「ファストフード」、3位の「牛丼屋」は共に30年前から25ポイント以上増加しています。そして4位「映画館」、5位「ファミリーレストラン」と続くのですが、3位の「牛丼屋」を除いてこれらのスコアはいずれも30年前と比べて2倍以上増えています。

「映画館」や「ファミリーレストラン」など、以前は家族や友人、恋人など誰かと一緒に行くことが多かった場所においても「ひとりで行きたい」と考える生活者が増えているようです(図4)。

図4:【ひとりで行きたい場所 増加幅ランキングTOP10】

「ひとりで行きたい場所」の増加幅ランキング1位だった「喫茶店・カフェ」について、もう一つデータをご紹介しましょう。

「待ち合わせ以外で喫茶店・カフェにひとりでいて、つらくない時間」を聞いたところ、「120分以上」と答えた人の割合を合算すると、1993年では7.2%だったのが、2023年には42.7%と大幅に増加していました。今や4割を超える人が喫茶店やカフェに2時間以上ひとりでいても平気だと答えているのです。

店内にひとり用の席が増えたり、誰もがスマホを持ち、常時ネットに接続してSNSや動画を見られる時代になったりしたこともあり、ひとりで長時間滞在することへの抵抗感が減ってきていることも背景としてあるのでしょう。

また、平均時間で見ても1993年は49分だったのが2023年には114分と1時間以上伸びています(図5)。

図5:【喫茶店・カフェにひとりでいて、つらくない時間(待ち合わせ以外)】

また、「ひとりでしたい/過ごしたいこと」についても、30年前から増加している項目が多くあります。なかでも仕事や食事関連でこの傾向が顕著です。

具体的には、「会社の昼休み(*有職者のみ)」をひとりで過ごしたい人は1993年では43.0%だったのが、2023年には75.9%と、30ポイント以上の大幅増加。また、他にも「休日出勤をすること」「残業をすること」「会社内での日常業務」も10ポイント以上増えています。

さらに、食事に関しても「外で昼食をとること」「平日、家で夕食をとること」や「食事をとること全般」も15ポイント以上増加しています。(図6)

会社や家庭での食事といった、集団が基本単位とされてきた場面においても個を尊重し、自分のペースや時間を守りたいと考える生活者が増えてきていることがうかがえます。

図6:【ひとりでしたい/過ごしたいこと】

いかがでしょうか。生活者は生活の様々な場面において、「ひとり」で過ごす場所や行動を求めていることがお分かりいただけたかと思います。

ここまでお読みになって、「最近の若い人たちは、家族や友人、仕事仲間などとの関わりは希薄になり、ひとりの殻に閉じこもってしまっているのでは?」と危惧される読者の方もおられるかもしれません。でもそういうわけではないので、ご安心を。

次に、「ひとり」を大切にするのと同じように、他者との関わりも大事にしていることを示す生活者データをご紹介しましょう。

→続きは日経クロストレンドのページからご覧ください。

 

<日経クロストレンド「30年のデータで解析! 生活者の変化潮流」>
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第32回ーーバブル期の20代と令和の20代、何が違う? 男女の壁が“消滅”
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