2023年の生活者展望

年末恒例の本企画。今年は、博報堂生活総合研究所が1992年から隔年で実施している長期時系列調査「生活定点」が30周年を迎えました。20~30年というスパンで調査データをみると、予想とは異なる変化をしている生活者の意識や行動がたくさん見つかります。
来年の動向を、「ヒット予想ランキング」と翌年の景況感などを聴取した「生活気分」のデータからご紹介するとともに、「生活定点」のデータを長いスパンで俯瞰しながら、生活者の“これまで”とその延長線上にある“これから”について、所長の石寺修三が解説します。

30年目の「生活定点」から見えてきた 生活者の“意外な変化”

“ポスト・コロナ”にシフトしつつある2023年の生活者

本題に入る前に、まずは年末恒例の調査『生活者に聞いた“2023年 生活気分”』の結果からご紹介しましょう。これによると、生活者が予想する来年の「世の中の景気」は、「悪くなる」が44.9%と前回(20.2%)より大幅に増加して、過去最多を更新しました。一方で、「良くなる」(12.1%)は前回(29.9%)より大幅に減少し、2年続いた増加傾向に歯止めがかかりました。

【図① 来年の「世の中の景気」予想】

来年の「世の中の景気」は、今年と比べてどうなると思いますか

(※西暦は生活者に予想してもらった「翌年」を指す。例えば、「2023年」の数値は今年(2022年の秋)に調査した、来年(2023年)の予想を表します)

ただ、注目したいのは自由回答で聞いた“その理由”です。この2年間、生活者の景況感に大きな影響を与えていたコロナ禍について、その「収束・沈静化」が「良くなると思う理由」の1位になっただけでなく、「悪くなると思う理由」の上位に挙がらなくなりました(図②)。

【図② 来年の「世の中の景気」予想の理由(自由回答)】

「良くなる」と思う理由

(※自由回答を集計したトップ5。「良くなる」と回答した男女470人ベースで算出)

「悪くなる」と思う理由

(※自由回答を集計したトップ5。「良くなる」と回答した男女1,753人ベースで算出)

また、同じ時期に調査した『生活者が選ぶ“2023年 ヒット予想”』の結果をみると (図③)、「国内旅行」が1位になったほか、「ジブリパーク」「海外旅行」なども20位内に挙がっており、外出への抵抗感が徐々に薄れている印象を持ちます。それ以外の項目を眺めても、生活者がデジタルを活用して暮らしを守りつつも、積極的に楽しみを見つけようとしていることがわかります。物価高騰のほうが切実な生活課題になったこともありますが、生活者の意識は明らかにポスト・コロナのモードにシフトしつつあると思います。

【図③ “2023年 ヒット予想”ランキング】

意外な変化①:ココロもカラダも“内”に向かう生活者

さて、今年は我々が1992年から隔年で実施している長期時系列調査「生活定点」の実施年でした。ここからはデータを長いスパンで俯瞰しながら、生活者の“これまで”と、その延長線上にある“これから”についてお話したいと思います。
冒頭にご紹介した生活者の来年の動向は、皆さんの肌感覚とさほど違わなかったと思うんですが、「生活定点」のデータを20~30年単位でみると、我々の予想とは異なる変化がたくさん見つかります。例えば、アウトドア・ブームといわれて久しいですが、「家の中よりも野外で遊ぶ方が好きだ」という人は2002年の38.1%に対して2022年は24.0%、逆に「休日は家にいる方が好きだ」とするインドア派は32.5%でアウトドア派を上回りました(図④-1)。昨今、“学び直し”が注目されていますが、2002年に49.3%だった「いくつになっても、学んでいきたいものがある」人は2022年には35.0%に低下するなど、生活者の学びへの関心は過去最低の水準にあります(図④-2)。また、SDGsに対する関心も高まる一方ですが、2022年に「環境を考えた生活をすることは自分にとって快適だと思う」人の比率は48.8%と過去最低となり、「面倒だと思う」人(51.2%)の比率を下回りました(図④-3)。このように、その当時の流行の影響で多少は上下しつつも、長いスパンでみれば生活者の価値観は、物理的にも精神的にも“内向き”になっていることがわかります。

【図④ 世の中の動きとは異なる変化を見せている意識・価値観の一例(生活定点)】

生活定点1992-2022

メディアでよく見かけるというだけで、我々はつい「流行している」「浸透している」と思い込みがちですが、生活者の価値観の中にはそう簡単に変容しないものもあります。逆に、この30年に起きた大きな出来事の影響で思いもよらない方向に変化している価値観もあります。先入観や思い込みを疑ってみる姿勢を持つことが大事だと、私自身あらためて痛感しました。「生活定点」特設サイトではこれらのデータを全てご覧いただけますので、皆さんなりの意外な変化を探してみてください。今回は1992年と2022年の20代男女の意識データをコミック化したほか、ウェビナー動画と投影物資料も一般公開していますので、いろいろとご活用いただけると思います。

意外な変化②:価値観や嗜好の「消齢化」が進む生活者

さらに、30年におよぶ「生活定点」の調査結果からは、いまご紹介した変化以上に我々の思い込みを揺るがす大きな発見がありました。一般的に「大衆から分衆、そして個へと向かう流れ」「多様性を尊重する時代」・・・ これらは今や社会の共通認識ですし、ビジネスはこの潮流を前提に展開されているといっても過言ではないと思います。ところが、データを丹念にみていくと、これまで年代による差が大きかった価値観や嗜好の差が徐々に縮まりつつあることがわかったんです。にわかには信じがたいですよね?
年代差が縮まっていく現象には、大きく3つのパターンがありました。1つめは「夫婦はどんなことがあっても離婚しない方がよいと思う(年代間の最大差24.4pt→7.7pt)」のように、各年代の反応値が減少して近づくパターン。従来の規範や慣習による縛りが弱くなったことで違いが小さくなったと思われます(図⑤-1)。2つめは「携帯電話やスマホは私の生活になくてはならないものだ(同:50.7pt→25.8pt)」のように、各年代の回答が増加して近づくパターン。中高年の体力やITリタラシーが向上して違いが小さくなったといえそうです(図⑤-2)。3つめは「ものやサービスの購入にこだわりがある方だ(同:21.8pt→8.8pt)」のように、各年代の反応値が中央付近に近づくパターン。これは年代を超えて楽しむ場やコンテンツの普及によって、嗜好や関心の違いが小さくなったと考えられます(図⑤-3)。

【図⑤ 年代間の違いが小さくなっている意識・価値観の一例(生活定点)】

生活定点1992-2022

 

いかがですか? 言われてみれば確かにそうかも・・・と思えるものも含め、年代による違いが小さくなる動きは多岐に渡っていて、我々も驚きました。社会のいたるところに“差”が存在していると言われる日本ですが、こと質的な面でみると実は“違い”が小さくなりつつあるということでしょうか。これはデモグラフィック属性を軸にした従来のマーケティングからすると、大きな発想転換を迫られる変化だと思います。
近年、“差”や“違い”があることはネガティブに取られることも多いんですが、それらは時に競争と活力を生み出す源泉にもなります。人々の価値観が似通ってきていると聞くと、“縮みゆく国”と揶揄される日本の現状と重なって、明るい未来をイメージしづらい気もします。でも、世界でも類を見ない超高齢社会をフラットに見れば、体力も価値観もさほど違わない大人がたくさんいる社会とも言えるんじゃないでしょうか? 年代間の“違い”にフォーカスしてセグメントするだけじゃなくて、逆に年代を超えた“同じ”に注目することで新しいマーケットが見つかることもあると思います。“適齢期”とか“年相応”という物差しはもう捨てよう・・・ そんな想いも込めて、我々はこの変化を「消齢化社会」と名付けてみました。今回の研究では、この変化が生まれた要因を解明すると共に、この先にやってくるかもしれない社会や暮らしについても考察します。詳細は「みらい博」サイトで公開するほか、様々な場でも発信していくつもりです。どうかご期待ください。

この記事をシェアする

このエントリーをはてなブックマークに追加

もっと読み込む

その他の研究をキーワードから探す