2025年の生活者展望

年末恒例の本企画。今年は、博報堂生活総合研究所が1992年から隔年で実施している長期時系列調査「生活定点」の実施年です。今年と来年の景況感などについて聞く毎年実施の「生活気分」と併せて今の生活者が見えてきました。コロナ禍で変わったこと、変わらないこと。そして大きく変化をみせた「働く」にまつわることについて、所長の石寺修三が解説します。

今あらためて考える「コロナ禍」がもたらしたもの。そして、その先。

生活者の“景況感”は依然低調で、メリハリ志向は変わらない

お題は来年の生活者展望ですが、変化が激しい環境では目の前の出来事だけに囚われ過ぎないことが大事だと思います。今回も過去から現在に続く流れを俯瞰しながら、その先にある生活者の「これから」についてお話します。
最初は年末恒例の調査『生活者にきいた“2025年 生活気分”』の結果からご紹介します。まず生活者が予想する来年の「世の中の景気」をみると、「良くなる」と答えた人は10.8%で過去6年間で最も低い結果となりました。一方、「悪くなる」と答えた人は37.7%で、「良くなる」と答えた人の3倍以上にのぼり、生活者の暮らし向きは依然として低調です(図①)。
「良くなる」と思う理由を自由回答で聞くと、“希望的観測”や新政権・新政策“が多く挙がる一方、「悪くなる」と思う理由には“物価上昇の継続・加速”“景気低迷の継続”が多く挙がりました(図②)。さらに「来年お金をかけたいもの」を聞くと、順位は昨年と同様に1位「旅行」、2位の貯金」、3位「普段の食事」となっており(図③)、来年も生活者はメリハリをつけながら攻めと守りの両構えでいることがわかります。

【図① 来年の「世の中の景気」予想】
来年の「世の中の景気」は、今年と比べてどうなると思いますか(※西暦は生活者に予想してもらった「翌年」を指します。例えば、「2025年」に関する数値は今年(2024年)の秋に調査した、来年(2025年)の予想です)

【図② 来年の「世の中の景気」予想の理由(自由回答)】
良くなると思う理由(※自由回答を集計したトップ5。「良くなる」と回答した男女470人ベースで算出)

悪くなると思う理由(※自由回答を集計したトップ5。「良くなる」と回答した男女1,753人ベースで算出)

【図③ 今年お金をかけた & 来年お金をかけたいもの(上位10位)】

▼生活者にきいた“2025年 生活気分” https://www.hakuhodo.co.jp/news/newsrelease/113238/


コロナ禍前に戻った「社会貢献意識」「日常のハレ消費」

さて、今年は我々が1992年から隔年で実施している長期時系列調査『生活定点』の実施年です。ここからは、その結果をもとにお話します。
今年に入って以降、我々が日常生活でコロナ禍を意識することはほとんどなくなりました。そこで、今年の調査結果とコロナ禍が始まる前の2018年を比較することで、コロナ禍が生活者の意識や行動にもたらしたのは何だったかを考えてみました。冷静になれる今というタイミングだからこそ、みえてくるものもあると思うんです。
まずご覧いただくのは、コロナ禍が始まって大きく変化したものの、今年再びコロナ禍前の水準もしくは傾向に戻った項目です。例えば、コロナ禍が始まった 2020年に一時的に高まった「社会貢献意識」は再び低下傾向に戻りました。この現象は2011年の東日本大震災の前後でも確認されており、よく指摘される“喉元過ぎれば・・・”という日本人のメンタリティゆえなのかもしれません。また、国内旅行や花火大会など、外出を伴うイベントなどの経験者は2018年と同水準に回復しており、「日常のハレ消費」はようやくコロナ禍前の傾向に戻ったことがわかります(図④)。

【図④ コロナ禍前の傾向に戻った意識・行動(生活定点)】


コロナ禍で定着した「生活のデジタル化」「ひとり志向」

次はコロナ禍が始まって大きく変化し、今もその傾向が変わらない項目です。例えば、コロナ禍で急増したzoom/teamsなどのビデオ通話サービス利用をはじめとする「生活のデジタル化」は、現在も高い水準を維持しています。あるいは、ひとりで過ごす時間を増やし、その時間を充実させようとする「ひとり志向」もコロナ禍で高まり、その水準は変わっていません。いずれも必要に迫られて仕方なく始めたものの、その意外な利便性や豊かさに生活者が気づいたことで、コロナ禍が落ち着いた後も定着したんだと思います(図⑤)。これらは今後の生活者を考える上でもはや前提といえそうです。

【図⑤ コロナ禍を経て定着した意識・行動(生活定点)】

このように『生活定点』は生活者の変化を俯瞰し、この先を占うのに適したデータです。今回も32年間・1,400項目におよぶ全データを無償公開するwebサイトをオープンしました。自分の感覚値や予想と異なる結果と出会い、発想のヒントを得るツールとしてお役に立てると思います。是非一度覗いてみてください。

▼生活定点1992-2024 ニュースリリースhttps://seikatsusoken.jp/newsrelease/22131/
▼生活定点1992-2024 特設サイト
https://seikatsusoken.jp/teiten/


コロナ禍が変えた大事なテーマ、それは生活者の「働く」

いまお話した生活者の「ひとり志向」については、既に今年の『みらい博』で『ひとりマグマ 「個」の時代の新・幸福論』として発表しました。そこで来年の『みらい博』では、コロナ禍が生活者の意識や行動を大きく変えたものの一つとして我々が着目する「働く」を取り上げます。わかりやすい例でいえば、コロナ禍を経て定着したリモートワークです。これは必ずしもオフィスでなくても仕事はできることを生活者の多くが実感し、日本のワークスタイルを大きく変えました。また、そうした物理的な面だけでなく、コロナ禍を契機に転職や副業に関心を持ったり、職場の人間関係を考え直した人も多く、「働く」にまつわる大きな転機だったのは間違いありません。実際、我々が行った調査でも「仕事や働き方に影響を与えたもの」としてコロナ禍は2位に挙がっています(図⑥)。

【図⑥ 自分の仕事や働き方に影響を与えたもの(複数回答)(※1)】
1位 携帯電話/スマートフォン(31.2%)
2位 コロナ禍(29.5%)
3位 パソコン(26.9%)
4位 働き方改革(20.1%)
5位 円安/物価高(17.7%)

いま、「働く」の“低温化”が進んでいる


「働く」については、『生活定点』でも気になる動きが見つかりました。調査開始以来、過半数を超えていた「基本的に仕事が好きな方だ」という有職者が年々低下していたんです。また、同様に調査開始以来、常に少数派だった「休暇志向(高い給料よりも、休みがたっぷりな方がいい)」が「高給志向(休みがたっぷりよりも、給料が高い方がいい)」を僅かながら上回りました(図⑦)。どうやら、生活者のなかで「働く」ことへのモチベーションが低下、つまり“低温化”しているようなんです。
確かに「働く」にまつわる近年のトレンドワードをみても、「反労働観」「静かな退職」など、従来なかった就労観が若い世代を中心に拡がりつつあります。もちろん、失われた30年を経て賃金もなかなか上がらない現状では理解できることですし、プライベートを大事にする人が増える流れ自体も健全だとは思います。でも一方で、今の日本は「労働力不足」や「労働生産性の低さ」が大きな社会問題にもなっているわけで、こうした“低温化”が一方的に進むことは、あまり喜ばしい流れとはいえない気がします。

【図⑦ 仕事や働き方に関する価値観(生活定点)】


生活者の「働き直し」がはじまる

もちろん、働く人すべてが“低温化”しているわけではありません。実際、調査をすると仕事が好きかどうかに関わらず9割以上の人が「どうせ働くなら、楽しく働きたい」と思っていました。ただ、そのために工夫までしている人は5割強にとどまっていますから(図⑧)、日本の「働く」が変わるポテンシャルはまだまだあるように思います。
研究を進めていくと、「働く」ことに対して“低温化“したかにみえる生活者が、「働く」ことを通して自分と会社、そして社会との関係を結び直そうとする姿もみえてきました。そこで来年の『みらい博』は「働き直し」と題して、“労働者”ではなく“生活者”としての視点から「働く」の未来と、社会のこれからを考えてみようと思います。
人生100年時代といわれる日本において、「働く」というテーマは誰もが当事者であり、避けて通ることはできません。この研究成果は今後もニュースリリースやwebサイトなどを通して順次発信していきますので、どうかご期待ください。

【図⑧ 「楽しく働くこと」に関する意識と実態(※1)】

※1 「働く」に関する意識調査(2024年)
調査対象とサンプル数:全国の20~69歳の有職者男女:5,000人
調査手法:インターネット調査

 

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