「消費潮流の最前線」 第3回
生活者が【トキ消費】に向かう理由とは
こちらは、東京商工会議所 東商新聞2020年2月10日号からの転載記事です。
夏山研究員による寄稿です。
【トキ消費】とは…同じ志向を持つ人たちと一緒に、その時(トキ)、その場でしか味わえない盛り上がりを楽しむ消費(博報堂生活総合研究所提唱)
ハロウィーンやフェス、ライブ、クラウドファンディング、ワークショップなどの【トキ消費】が盛り上がり始めたのは、2010年頃。日本におけるスマートフォンやSNS(ソーシャルメディア)の黎明期と重なります。そう、【トキ消費】とデジタル化には、密接な関連性があるのです。
例えば、デジタル化によって、生活者は多種多様な体験をインターネット上で受発信できるようになりました。行ったことのないスポットやイベントであっても、誰かの体験記録をSNSや動画共有サイトで見れば、あたかも自分が行ったかのような情報や感覚を得られるようになったのです。いわば、「コトの疑似体験」です。しかしながら、疑似体験はどこまでいっても疑似体験。視覚と聴覚で得られるものは多々あれど、その場の温度や湿度、匂いといった五感全てを満たしてくれるものではありません。そして、リアルな体験を求めるようになった人々は、その場の盛り上がりや熱量を身体全体で感じることができる【トキ消費】へと向かっていったのです。
さらに、デジタル化は別の変化も生みました。スマホによって、生活者は自分独りの情報行動を増やしました。「個の楽しみ」の創出です。例えば、イヤホンでお気に入りのアーティストの楽曲を聴いたり、映像を観るといった行為。一人でも楽しめますが、自分と同じようなファンの実像までは見えません。例えば、電車で隣り合わせた人がたまたま同じアーティストのファンで同じアルバムを聴いていたとしても、イヤホンに遮られ、二人は互いの存在に気付くことはないのです。
このように、スマホで個になる反動で生まれたのが、自分と同じ志向を持つ人と一緒にひとときの連帯感を楽しみたいという欲求です。こうした欲求を満たしてくれるからでしょうか、人と人が集う【トキ消費】の場では見知らぬ人であっても気軽に声を掛け合う光景をよく見掛けます。
デジタル化とともに台頭した【トキ消費】。5Gなどの情報環境の発展とともに、今後も注目を集めそうです。
<東商新聞「消費潮流の最前線」連載一覧>
第1回 定義編――モノ、コトの次の潮流【トキ消費】とは
第2回 事例編――様々な分野に広がる【トキ消費】の共通要素
第4回 データ編――生活者調査でみる【トキ消費】
第5回 ビジネス編①――【トキ消費】を生むヒント①
第6回 ビジネス編②――【トキ消費】を生むヒント②