研究員コラム 好きの最前線!
超高齢社会・100歳時代をひらく[好き]
三矢 正浩
「高齢社会」と言われて久しい日本。2017年4月に総務省の発表した人口統計データによれば、日本の総人口は、2016年10月1日現在1億2,693万人。そのうち65歳以上の高齢者人口は3,459万人。総人口に占める高齢者の割合(高齢化率)は27.3%となり、これはWHOの定義では「高齢社会」のさらに上、「超高齢社会」(高齢化率21%以上)に該当します。この高齢化率は今後もさらに高まりつづけ、2060年には39.9%にまで達する見通しとなっています。
高齢化と同時に「長寿化」もまた進行しています。昨年日本語版が出版されて話題となった書籍『LIFE SHIFT』(リンダ・グラットン/アンドリュー・スコット著・池村千秋 訳、東洋経済新報社)では、医療技術の高度化などの理由により、2050年までに100歳以上の人口が100万人を突破するという国連の推計が紹介されているほか、2007年に日本で生まれた子どもの半数近くが、107年以上もの歳月を生きるだろうという予想も示されています。
社会全体が着実に超高齢化・長寿化へと向かっていくなか、私たちの生き方もこれまでとは異なる考え方で再設計していく必要があるのかもしれません。
リタイア後、私たちに与えられるのは、ありあまるほどの「時間」。
平均寿命が80歳の時代であれば、定年を迎える60歳から80歳までは約20年=7300日。これが平均寿命100歳になると、ざっと2倍の40年=14600日になるわけです。つまり、リタイア前に社会人として活動していた20歳から60歳までと同じだけの歳月を、リタイア後にもう一度過ごすことになる、ということ。
与えられた40年分の時間をどう使うのか。大学など学術機関での学び直しや、地域での社会貢献などなど・・・様々なことが考えられますが、自分の[好き]を追求するために使う時間も、きっと増えていくことでしょう。博報堂生活総合研究所の調査では「大好きで熱中していることや、はまっている物事がある」と答えた人は62%。そのうち60代に限ってみても、60%近い人が「ある」と答えているのです。リタイア後も自分の[好き]に多くの時間とエネルギーを注ぎこみ、第二・第三の人生をアクティブに生きるシニア層が、これからの超高齢社会の主役になっていくのかもしれません。
さらにそのような世の中では、企業の側でも「[好き]に向き合うシニア層のエネルギーを自社のビジネスに活用したい」という動きも活発になるかもしれません。
たとえば。20XX年・・・副業として、自分の[好き]に関連する領域で企業のアドバイザーを務めてもらい、商品開発などの際に内部の人間からは出にくい鋭い意見を提供してもらう「副社員」制度を民間企業が相次いで導入。なかでも、[好き]にまつわる長年の豊富な経験と熱量を持ったシニアたちは、多くの企業から引っ張りダコに・・・。と、そんな未来も考えられるのではないでしょうか。
生涯をかけて[好き]に向き合うシニアの熱はさらに、「終の住まい」のあり方まで変えてしまうかもしれません。
たとえば。20XX年・・・どうせなら、同じ[好き]を持った同好の士で集まって、最期の日まで皆でワイワイと好きなことに打ちこみたい!そんな思いを持ったシニア層が増えたことにより、そのニーズに応えるべく、老人ホームならぬ「同人ホーム」が続々登場。同じ[好き]を持つ気心知れた入居者同士が集まって、最期の最期まで好きなことをやって過ごす。そんなストレスフリーの居住環境は、もしかしたらシニア層の健康寿命をさらに延伸するかも!?しれません。
博報堂生活総合研究所が60-74歳のシニア世代を対象に行っている定点調査「シルバー30年変化」によれば、「子どもといつまでも一緒に暮らしていたい」と考えている方の割合は、1996年の 51%から2016年は 28%と、20ポイント以上減少しています。背景には、「自分自身が親世代の介護を経験し大変な思いをしているぶん、子どもたちには自分の介護で面倒をかけたくはない・・・」そんな思いが垣間見えます。リタイア後の人生は、「血縁」ばかりを頼るのではなく、同じ[好き]を持つ、気兼ねしない仲間たちとの「熱縁」をこそ大事にしたい。そんなふうに積極的に人間関係の再構築を図りながら、充実した生き方を追い求めるシニア層も、きっとこの先増えていくことでしょう。
いかがでしょうか。
「高齢化」というと、とかく暗い将来シナリオばかりが描かれがちではありますが、生活者の持つ[好き]のエネルギーに注目して想像を巡らせてみれば、未来は決して悪いことばかりではないのかもしれない。そんなふうにも思えてきます。
生涯をかけ、自分の[好き]を追い続ける元気なシニア層がどんどん増え、社会に、経済に、日本に、大きな活力を与える――。これから先の未来に広がっているのは、もしかしたらそんな風景かもしれません。
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