リスク時代の調査

リスク時代に生の声を聞く方法 生活者発想で不安に寄り添えるか

2026.07.30

2026 7 月号

突然ですが皆さん、普段の生活の中で「個人情報」は気にしていますか? 個人情報保護法が全面施行されたのは2005年とかなり昔ですが、その後も度重なる法改正が行われ、セキュリティへの関心はだいぶ高まってきたように感じます。16年から運用が始まったマイナンバーカード制度も、生活者のセキュリティ意識に影響を与えたでしょう。個人情報というと、氏名や住所のようなものを思い浮かべがちですが、生活者研究の現場では、自分の顔や声、発言がどこでどのように使われるのかも、生活者にとって大切な「自分に関する情報」なのだと感じます。

シニア世代の高いセキュリティ意識

生活者研究において、様々な生活者に直接お話をうかがう定性調査は欠かせないものですが、実は最近、その現場に変化が起きています。私自身、現在はシニア研究を担当するチームに所属しているのですが、シニアの皆さんのセキュリティ意識の高さに驚かされることがしばしばあるのです。
 
テレビのニュース番組などで、よく街角でインタビューに答えている人たちが映りますよね。映像には、表情や話し方などを通じて「これは本音の発言なんだ」というリアリティが視聴者に強く伝わるメリットがあります。私たちの生活者取材でもそうした動画や写真を記録として撮影していますが、最近は「記録としては良いけれど研究発表に使うのはNG」と言われることが増えました。こういう場合は、動画や写真にモザイクをかけたり、イラスト化することになります。リアルさは失われるものの生活者の安心を最優先するのは当然です。
 
シニア研究では、インタビューの間じゅうずっとマスクをつけ、眼鏡をかけて帽子を目深にかぶったままの生活者の方もいました。その方のお顔は最後まではっきり拝見することはできませんでした。2年前に若者研究をした際、大学生に話を聞いた時には見られなかった光景です。これが世代による差なのか時代の変化なのかを確かめるのは難しいですが、昨今の巧妙な特殊詐欺のニュースなどを背景に、生活者が自分の個人情報を守ろうとする感覚が切実になっているようにも感じます。この難しさは、インタビューにとどまりません。大規模な定量調査の領域でも、昨今は登録モニターの継続率が下がっていると聞きます。博報堂でも独自の生活者データを元にした「バーチャル生活者」の開発など新しい研究手法の開発が進んでいますが、AIの確からしさを高めつづけるためにも、生身の生活者に触れ、生の声を聞くことは欠かせません。

生きた情報はさらに貴重に

生活者研究は、生活者の実態や声があって初めて始まるものです。そのため、こうした情報は今後、ますます貴重で価値あるものになっていくでしょう。世の中のリスクが上がりつつあるように感じられる時代に、生活者に安心していただきながら情報を教えていただくにはどうしたらよいのか。リアルな発見をよりよい未来につなぐために、いま一度一人ひとりの不安に目を向けるところから、生活者発想に立ち返りたいと思います。

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