外国語を学びたい60代が激増 その背景は…

2026.07.30

2026 7 月号

博報堂生活総合研究所は1986年から10年ごとに、60~74歳の男女を対象とした「シニア調査」を行ってきました。2026年の調査で40年目、5回目にあたります。

最新の調査結果を所員が集まって読み解いていたとき、ひとつの数字に目が止まりました。

「外国語を勉強したい」。1986年に28.8%だったこの回答が、2026年には50.6%に達していたのです。「外国人と交際したい」も19.3%から42.4%へと伸びています。いずれも40年でおよそ倍になりました。この変化の大きさは、私たちの予想を超えていました。

60代で英会話?

一方で、下がっている数字もあります。「旅行情報に関心がある」と回答した人の割合は、1996年の61.1%から2026年には42.4%へと減り続けています。旅行への関心が薄れるなかで、外国語や外国人への関心だけが伸びている。外国への関心が高まっているのではなく、何かもっと具体的な変化が起きているようにみえました。

私たちは年齢を重ねていくと、自分とは異質なものへの関心は薄れていくものだとどこかで思い込んでいるかもしれません。にもかかわらずなぜ60代はこれほど外の世界に関心を持つようになったのでしょうか。そんな問いが所員のあいだに生まれました。

最初の仮説

最初に出た仮説は、「韓流コンテンツの影響」でした。K-POPや韓国ドラマの人気は中高年層にも深く浸透しています。調査のインタビューでも、友人が韓国語をはじめたという話は一度ならず耳にしています。画面越しに生まれた親しみが、外国語や異文化への関心へと広がっていく。その流れは確かにあるのでしょう。

けれど、腑に落ちない感覚が残ります。「外国語を勉強したい」が半数を超え、「外国人と交際したい」が倍になっています。コンテンツへの好意だけで、これほどの変化を説明しきれるものでしょうか。別の要因が重なっているのではないか。議論はそこで一度、止まります。

もうひとつの仮説

視点を変えて、60代を取り巻く環境のに目を向けてみましょう。

60代の就業率は上がり続け、今や60.1%に達しています。10人のうち6人が、何らかの形で仕事を持っています。一方、地方では人口減少が進み、労働力不足を外国人が補うかたちが広がっています。そこに訪日外国人の急増が重なります。とりわけ観光業や宿泊業では、この3つの変化が同じ現場で重なりあっています。

3つを組みあわせると、ひとつの説明がつきます。60代が「働く現場」で外国人と日常的に顔を合わせる機会が、自然と増えているのではないでしょうか。メディアを通じた関心ではなく、職場という生活圏のなかで起きている日々の接触が、あの数字の背景にある可能性があります。

ただ、データだけではまだ確かなことはいえません。この仮説を裏づける話を、インタビューで出会ったある66歳の女性から聞くことができました。

ホッケとインドネシア料理

彼女は「リゾートバイト」と呼ばれる住み込みの短期の仕事で、各地を移りながら働いています。宮古島から北海道まで、2年間で7カ所を回りました。ひとつの土地に3カ月から8カ月ほど暮らしては、また次の場所へ移っていきます。

北海道のあるホテルの話が、とりわけ耳に残ります。厨房のスタッフは全員ミャンマー人、ホールにはベトナム人が多いそうです。「もはや外国人なしでは成り立ちません」と彼女は語ります。「ミャンマーに来て働いているのかと錯覚するくらいでした」とも語っていました。

仕事が終わったあとは、寮での暮らしがあります。ある日、インドネシア出身の20代前半の同僚がインドネシア料理をつくってくれました。「私は干したホッケを焼いて、日本のお魚を紹介しました」と彼女は笑います。「彼女たちは日本語がとても上手なんです。そして日本が大好きなんです」。片言を交わしながら食卓を囲みます。国籍も年齢も関係なく、食卓が自然と共通の場になっていきます。互いの料理を分けあうことが、そのまま互いの暮らしを知ることにもなっているようでした。

60代で英会話?

別のリゾート施設では、トルコや香港から来たスタッフと同じ寮で暮らしました。共通の言語は英語でした。「英会話教室はだいたい1時間しか話しませんけど、ここで働くとずっと英語で話さなければなりませんから」。彼女は楽しそうに言いました。必要に迫られて覚える言葉は、教室で習う言葉とは身につき方が違うようです。

旅行者にも自分から声をかけます。「旅行で来ている外国人にとても興味があるので、チャンスがあれば話しかけるんです」。どこの国から来たのか、何日滞在するのか、これからどこへ向かうのか。家族連れを見つけると、「全員で撮りましょうか」と申し出るそうです。そうすると、ほとんどの方は撮影を希望されるそうです。オーストラリアやヨーロッパからの旅行者は3週間ほど滞在する人が多く、東南アジアからは1週間以内が多いといった観察も、日々の接触のなかで自然と蓄積されていくようです。

「日本にいながらにして、異国に行ったようでとっても楽しい日々です」

彼女はそう言いました。けれど、そのあとに続いた言葉のほうが、私の印象に残っています。

「これからの地方は確実に外国人が増えていくと思います。どのようにして共存していくべきなのかを考えながら仕事をしている毎日です」

楽しさだけではありません。隣にいる人とどう社会をつくるかを、毎日の仕事を通じて考えているようにみえます。「たった3カ月でしたが、一緒に仕事をすると仲良しになるんです」。彼女は以前働いていたホテルに1年後に宿泊客として訪ね、当時の同僚と再会したこともあるそうです。短い住み込みのなかで生まれたつながりが、仕事を離れたあとも続いているようです。

謎の行方

最初の問いに立ち返ってみましょう。

「外国語を勉強したい」「外国人と交際したい」の急増を、ひとつの理由で片づけることはできません。K-POPや韓流ドラマを通じた「メディア経由の関心」も一因かもしれませんし、就業率の上昇や人口減少がもたらす「現場での接触」も無視できません。どちらがどれだけ効いているかは、今後さらに検証が必要です。ただ少なくとも、あの66歳の女性の日常が教えてくれたのは、60代の外国語や外国人への関心が、メディアを通じた話だけではなくなっているということでした。そして彼女は、決して例外ではないようです。50代以上のリゾートバイト利用者は増加傾向にあり、例えば仲介を手掛ける株式会社ダイブの場合、その数は12年で約60倍、2025年6月期には約970名に達しているといいます。

冒頭で触れた、旅行情報への関心の低下を思い出してみましょう。旅行への関心が薄れるなかで、外国語や外国人への関心だけが伸びている。矛盾してみえるこの動きも、彼女の日常を通して考えると理解しやすくなります。60代にとって外国語や外国人が身近になったのは、自分が外国へ出かけていくからではなく、外国人が自分の暮らしや仕事の場にやってきたからではないでしょうか。そう考えれば、旅行への関心が下がることと外国人への関心が上がることは、矛盾ではなく、同じ変化を別の面から示しているとも読めます。

もうひとつ、添えておきたいデータがあります。「ふだんの肩書やコミュニティとは関係のない人づきあいをしたい」。この項目が2026年には60代の生活者において55.3%にのぼりました。外国人への関心は、「外国」に限った話ではないのかもしれません。職場や地域や自発的な関心の場で、これまで接点のなかった相手とつながってみたいという、もっと広い変化の一部として読むべきなのでしょう。

60代の暮らしは、狭くなってはいません。関心が広がるとともに、静かに広がり続けているようです。そのきっかけは、案外、私たちのすぐ隣にあるのかもしれません。