Part.1 [みんな]を巡る問い

もう、[みんな]を意識しない? 戻る

消費からみる[みんな]

[みんな]との差別化にはこだわらない?
日本人の買い物の「いま」を映す6つのデータ

①消費の原資が限られている?

生活者が消費で個性化・差別化を追求するにあたっては、何より原資である「可処分所得」が多いに越したことはありません。選べる商品・サービスに幅が出ますし、あれもこれもと様々な消費カテゴリにお金を回すこともできるはずです。そこで総務省「家計調査」をみてみると……直近20年で世帯あたりの可処分所得は年を追うごとにじわじわと減少。

ここ数年はやや上がってきてはいるものの、20年前と比べてみると、〝消費の軍資金〟は0.87倍になってしまいました。その背景には、長く続いた経済停滞で、企業業績も振るわず給与の伸びが抑えられていること、さらに、所得から差し引かれる税や社会保険料の割合が年々増え続けていることがあります。

消費の個性化だ、差別化だ云々という以前に、[みんな]のお金は、個性とはまったく関係ない税・社会保障に振り向けられているのです。

②「こだわり型支出」が減少傾向にある?

縮小している消費の〝軍資金〟ですが、どんな費目にどのくらい使われているのでしょうか? 「家計調査」の支出に関するデータをもとに確認します。 支出項目の大分類のうち、「その他の消費支出」を除く9項目を、個人の嗜好性やこだわりが表れやすそうな項目「こだわり型支出」と、あまり関係なさそうな項目「インフラ型支出」に分けてみます。「こだわり型」「インフラ型」のそれぞれの支出金額は、20年間でどのように推移しているのでしょうか。1997年の支出金額を100としたときの変化をまとめたのが、このグラフです。

「インフラ型支出」の項目に比べて、「こだわり型支出」の項目の支出金額は、20年前からかなり少なくなっていることがわかります。特に「被服及び履物」は20年前の約7割に。「こだわり型支出」が徐々に低水準になってきているのに、ホントに個性化の時代なの? と、こんな見方もできるかと思います。

③「こだわり離れ」が加速している?

ここからは生活者の内面について。生活総研の長期時系列調査「生活定点」には、消費におけるこだわり度合いについて、このようなデータがあります。

これを見ると、自分の気に入ったものや、ちょっといいものを買おうという気持ちにブレーキをかけて、値段を気にして買い物をしている人たちが増えているようにも思えます。
昨今のファストファッション人気にも表れているように、高級路線の商品・店舗が苦戦し、低価格の商品・店舗が好調というケースが様々な商品・サービス領域で散見されます。①でみたように可処分所得が減っている状況では、自分のこだわりより価格を重視するようになるのは無理もないことかもしれません。そして、買い物のこだわりが低減するのと同時に、「みんなが同じものを持っていても、あまり気にしない」という差別化意識の減退も、少しずつ進んでいるようです。

また②の「家計調査」で特に支出金額が減少していた「被服及び履物」に関しては、このようなデータもあります。

ファッション動向への敏感さや、見えないところへのおしゃれ意識は2018年が過去最低に。さらに異性の目を意識するという項目も過去最低になっています。
まるで羽根の美しさで異性にアピールするクジャクのように、個性化に向かう原動力のひとつに、異性の気を引こうとする「モテ欲求」があるはずだと考えられるところですが……どうやらその意識も下がっている様子。
「値段を気にして、良いもの・気に入ったものでなくても、そこそこのものを買う」
「みんなと同じものでも、そんなに気にならない」
「ファッション動向も、異性の目も、そんなに気にしない」
調査結果からうかがえる生活者の意識は、個性化・差別化の追求とは少し距離を置いたもののように感じられます。

④生活者の「選択疲れ」が進んでいる?

さらに、生活者が多くの情報を求めていないことを示すこのようなデータも。

今や情報検索が当たり前の時代。買いたいものはネット検索すれば、瞬時に、大量の候補から選べるようになりました。これは確かにインターネット普及前には考えられなかった恩恵なのですが、調査からは、無数に提示される情報を前にして、かえって〝選ぶことに疲れてしまった〟生活者の様子がうかがえます。
最近では、自分で「これ」と決める買い方よりも、毎回一定金額を支払って業者から届くものを利用したり、与えられた枠内から選択したりする「サブスクリプション型」のサービスが次々と登場。先述の「こだわり型支出」に当てはまる品目が、どんどん「おまかせ」で済むようになっています。もしかするとこの先、自分で選ぶのが面倒な人たちがこぞって利用するようになっていくかもしれません。

[みんな]と違う消費の時代は終わるのか?

以上、収入・支出金額というマクロの面と、生活者の気持ちの面から、消費における「個性化・差別化」への流れに生じつつある変化についてみてきました。 「[みんな]とは違う自分」への志向が消費をドライブするパワーは、どうやら以前に比べ弱まっているようです。

かつての〝大衆の時代〟と比べて今は、世帯構成もライフスタイルも多様化が進み、個人がずいぶん自由に生きられるようになりました。一人ひとりがすでに十分「個性的」な時代であるがゆえに、「[みんな]とは違う自分」をことさら意識する必要がなくなってしまったのかもしれません。 あるいは、スマホ・SNSの普及により、「[みんな]とは違う自分」を実現する手段が消費からSNSでの自己表現など別のものにシフトしたと、そんな仮説も立てられるでしょう。あなたなら、こうした変化からどんな仮説を立てるでしょうか。

この記事をシェアする

このエントリーをはてなブックマークに追加
「[みんな]を巡る問い」 に戻る

調査レポート

会話のなかの[みんな]の考察

「みんな化語」に潜む5つの機能

世論の人数イメージ調査

多くなくても世論、AIも世論になる未来へ

社会統計による[みんな]の時系列追跡

データからみえる、[みんな]のバラバラ化

生活者に聞いた、
[みんな]が変化したワケ

流行についていかない人びと

調査でみえた“独自路線派”の主張とは?

白T黒パン街頭調査

[みんな]と、かぶってもいい

[みんな]を気にするのは日本だけ?

海外事情ヒアリング

ハッシュタグで
みたいと思った[みんな]

若者のSNS使いにみる [みんな]

[みんな]は自分で編集するものへ

Yahoo!知恵袋の質問2億件を分析する

デジノグラフィで探る[みんな]の悩みと疑問

「#プレ花嫁」「#プレママ」からの考察

ハッシュタグがつなぐ同じ状況の[みんな]
みらい博2019 トップに戻る