Part.1 [みんな]を巡る問い

このまま、[みんな]はなくなる? 戻る

若者のSNS使いにみる [みんな]

「純度の高いタイムライン」をつくりだす若者たち
[みんな]は自分で編集するものへ

若者が流行を判断する場所はTwitter

生活総研が、20〜69歳の男女1500人を対象に行った調査によれば、20代前半の若者たちはテレビやリアルの友人関係以上にSNSを通じて流行を判断していることが判明しています。
「普段、あなたは『これが流行ってるな、注目されてるな』ということを誰から、またはどこから判断することが多いですか」という質問への回答の上位5位をみると、20〜30代前半ではSNSを挙げる声が上の年代に比べて多くなっています。特に20〜24歳の若年層では、他の年代で高い数値を示した「テレビ(49%)」「友達(41%)」を抑え、「Twitter(54%)」「Instagram(49%)」が上位2位にランクイン。

いまや20代前半の半数以上がTwi t t e r を流行の判断材料としています。この年代の人びとにとって「みんなが言ってる」の[みんな]は、TwitterをはじめとしたSNS上の[みんな]になりつつあるのです。

「純度の高いタイムライン」をつくる
若者が増えている

そんななか、若者の集まるTwitterでは自分のみたくない情報をシャットダウンする動きが盛んになっています。こうした傾向は、特にアニメやマンガなどの二次元が好きなオタクの若者たちの間で顕著です。あるアニメオタクの友人は「最近、純度が高いタイムラインができてきて快適なんだよね」と話します。どうやら彼女は、好きなアニメについての苦手な解釈を発信するアカウントを片っ端からブロックする(非表示設定にする)ことで不純物を排し、自分好みのタイムラインを手に入れたようなのです。

また少し前には、そうした考え方の合わないアカウントを5万件も手動でブロックした人がTwitterで話題になったこともあります。ここまでする人は少ないかもしれませんが、みたくない情報を発信する人をシャットダウンすることはかなり一般化しています。

「棲み分け」としてのシャットダウン

「棲み分け」とは、オタク界隈で作品やキャラクターに対する解釈、二次創作の嗜好性などが相容れない人同士が、互いの活動が目に入らないように配慮しあうことです。オタクは好きなものへの愛が深い分、「この作品・キャラにはこうあってほしい」という思い入れも強くなるために、どうしても生理的に受け入れられない解釈があるという人も少なくありません。こうした苦手な表現は、思わぬところで登場し、心に大きなダメージを与えてくる性質から「地雷」と呼ばれていますが、いまや 「苦手なもの、嫌いなもの」を指す若者言葉として広く使われるようになりつつあります。

こうした個人の好き嫌いの話は、話しあいで認識の違いを埋められるようなものではないでしょう。そのため、若者たちはみたくない投稿をするアカウントをひとつひとつブロックするだけでなく、様々な機能を駆使してシャットダウンを行っているのです。

みたくないものをみないための様々な工夫

例えばTwitterでは、好ましくない投稿を検索結果から除外する「マイナス検索」や、特定のワードを含む投稿をタイムラインや通知から除外する「ワードミュート」などの機能が実装されています。また、好ましくない[みんな]からの接触を避けるべく、「○○は苦手です」とあらかじめプロフィールで宣言している人もいます。
逆に、自分の投稿を好ましく思わないであろう[みんな]に、自分の投稿が見られないよう工夫する動きもあります。鍵付きのアカウントで発信することをはじめ、オタク界隈の例でいえば、原作の名前やキャラクター名で検索しただけでは自分の二次創作物にたどり着かないようにする「検索避け」はかなり以前から行われてきました。
またpixivでは、マイナス検索を前提に「#腐向け(腐女子向け、男性同士の恋愛の描写が含まれた作品であることを示す)」などといった「棲み分けタグ」をつけるケースも増えています。

SNSという広場に集まる若者の新たな苦悩

こうしたシャットダウンが近年特に盛んになっている背景には、若者が集まる場所の変化があります。 SNS以前のインターネットにおいて、人々が集まる場所は個人運営のwebサイトやBBSでした。その多くはページを管理する運営者がおり、サイトの入り口に掲載内容やルールをしっかり記載していることが多かったため、「地雷」をうっかり踏んでしまうことはあまりありませんでした。

しかし今は、オタクを含め、ネット上の人々が集まる交流場はSNSに一元化されています。SNSは厳重な配慮に守られたwebサイトとは違い、考え方も趣味嗜好も多様な人々が集まる「広場」です。また、ワード検索をしたりタイムラインを見ていると、みたくない内容がいきなり目に入ってしまうことも 少なくありません。集まる場所がSNS になり、みえなかったものがみえるようになってしまったことで、かつてより棲み分けが難しくなっているのです。

レコメンド機能にも「地雷」が潜んでいる

また、プラットフォーム側からのレコメンドも「棲み分け」を難しくしています。今Twitterでは、フォローしている人が「いいね」をした投稿が一定の頻度でタイムライン上に表示される機能があるのですが、この機能によって地雷を踏んだという声をよく聞きます。「フォローしている人自身のつぶやきがみたいのであって、余計なおすすめはいらない!」というわけです。

また、フォローをレコメンドする「おすすめユーザー」の機能も同様です。本当にみたいと思えるユーザーがおすすめされるならいいのですが、この機能の場合、「同じ対象に関心を持ってはいるけれど、解釈が地雷」というところまではレコメンドも見抜けず、最もみたくない地雷のユーザーがおすすめされてしまうということが起きています。特に、好きなものに対してセンシティブな感性を持つオタクにとっては、これは死活問題でしょう。

[みんな]の編集は処世術

「誰かの萌えは誰かの萎え」。この言葉はオタク界隈で、自戒を込めて互いの嗜好に寛容であろうとするものです。ですが、あらゆる意見が可視化されてしまうSNS社会において、これを実践することは簡単なことではありません。

冒頭でご紹介したように、20〜30代の多くがSNSで情報収集し、流行を感知している時代です。しかしSNSは、大きなトレンドを把握する場所でありながら、たくさんの「地雷」が転がっている場所でもあります。自分とは相容れない意見に遭遇して傷ついたり、論争になった経験のある方は少なくないでしょう。そのため、自分のみたい[みんな]だけをみたいと考えるのも自然なことではないでしょうか。

ここまでご紹介してきた若者たちによる[みんな]の編集は、情報が溢れ世間が広がりすぎた現代を生きるための処世術なのではないでしょうか。

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