みらいのめ

さまざまな視点で研究員が「みらい」について発信します

2017.08.24

第17回

生活に根付いている朝市文化

from 青森県

生活総研 客員研究員
東北博報堂

種市 良嗣

青森県八戸市には驚かされる事がたくさんある。

今ではメジャーになった「せんべい汁」や、蕎麦の欠片を使った料理「かっけ」等の独特な食文化。街中の歩けるエリアに、横丁が8つもあるという横丁文化。また、青森県内にある3つの国宝、その全てが八戸にあるといった歴史等、興味深いものが多い。

その中でも私が特に驚かされたのは、「朝市文化」だ。それは特別なイベントとしてではなく、市民の日常生活の中に、ごく自然に溶け込んでいるのである。

海と共に培われた朝市文化

まず、八戸市内には朝市といわれるのが、大小合せて10ヶ所位ある。この数だけ見ても、人びとがいかに朝市を活用しているかが想像できる。

特に、平日~土曜日の3:00(!)~営業している「陸奥湊駅前朝市」。ここは、近くに魚市場があり、戦後から八戸の台所として親しまれている場所である。駅前通りには、小売店や卸店がずらりと並ぶ。街中の飲食店関係者が仕入れに来るのは想像できるのだが、驚きなのは、周辺の市民の方々がその日の朝食の惣菜を買いに訪れるのだ。
セリが行われる、といった特別なイベントもある訳ではなく、「普通に」朝市が賑わっているのである。

また最近は「八戸市営魚菜小売市場」内で食べられる朝ごはんも人気だ。市場でお刺身やお惣菜を購入し、自分なりの贅沢な朝市飯(丼、定食)をつくることができる。日本全国色々な地域の市場でも、自分で自由に作る勝手丼やのっけ丼があるが、ここは元々食材を仕入れに来た方や、そこで働いている人たちの為に朝ごはんの提供を始めたという背景もあり、コスパでみると相当競争力のある場所だと思う。

巨大カオス朝市の出現

普段は何もない広大な岸壁に、毎週日曜日の早朝にだけ出現する「館鼻岸壁朝市」。全長800メートルにわたって300以上の店が立ち並び、毎週数万人もの人が訪れる巨大朝市だ。青森県内・東北はもちろんのこと、国内でも最大級ではないだろうか。
特に連休やお盆には、地元の家族連れに加えて観光客や帰省客などが通路にあふれ、歩くのが困難なほどの賑わいをみせる。日常と非日常が渾然一体となっており、まさに八戸で最もホットな場所と言っても過言ではない。

さて、ここでなぜ「カオス朝市」と題したのか。それは販売されているものに特徴があるのだ。

朝市なので、鮮魚や干物などの魚介類、野菜、果物、花をはじめ、多彩なお惣菜が売られているのは当然。コーヒーショップにスイーツ、パン屋、蕎麦・うどん屋もある(しかも、意外と人気!)。さらには、植木や刃物類、骨董品、潜水道具までもがずらりと並ぶ。普通の「朝市」ではくくれないような店の種類と品揃えなのだ。
今回は売られてなかったが、以前私が行った時は、クルマ(トラクター)まで売られてました!
朝市文化が根付いている街だからこその「お客さんが来るから何でも売ったらいい」という鷹揚な受け入れ姿勢が、現在のカオス状況を作っているのではないだろうか。

「文化」という側面から見てみると、普通、観光で訪れているわけでもない地元住民が、日曜日の朝に早起きしてわざわざ朝飯を食べに外出はしないだろう。しかし、来ているお客さんの属性を見てみても、市民の方々が8割、周辺市町村・観光客2割といった感じである。市民の方々は、当然のごとくお目当ての店があり、そこへ一直線。

また、「おじいちゃんが店を出してるから」と手伝いをしてる子供たちも沢山見受けられる。こんな風景からも、世代を超えて一緒に「朝市」が生活のルーティーンとして入り込んでいる事は、彼らにとってごく普通のことであって何も特別な事ではないという事なのかと、いつも楽しみながら、美味しく驚きを感じているのである。

そんな、長年培ってきた地域ならではの文化の継続がその土地を元気にし、さらには日本をも元気にしてゆく気が、私にはしている。

もし驚きを感じる朝市文化体験をしてみたくなったら、ぜひ八戸市へ足を運んでみてはいかがだろうか。

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