みらいのめ

さまざまな視点で研究員が「みらい」について発信します

2019.12.13

第29回

この、親不孝もの!

from 宮城県

生活総研 客員研究員
東北博報堂

武田 陽介

1ラウンドK.O負け?

あれは、3年ほど前、祖父の葬儀の時のことだった。出棺を控え、親戚や地域の人が実家に集まって来ていた。その中に父の友人であり、地元の少年野球の監督をしていたTさんの姿もあった。Tさんとは子どもの時からの顔なじみで、野球を教えてもらっていたのと、父とTさんと3人でゴルフに行ったこともある親しい間柄だった。私は、何の気もなしに「お久しぶりです」とTさんに挨拶をした。するとTさんから「陽介、おめぇ、仙台に家、建てたんだって?この家どうすんだ?親の気持ち考えだごどあんのが?この、親不孝もの!」と思いもよらない言葉が返ってきた。そのあと、適当に何か返事のようなものはしたような気もするが、「親不孝」というキラーワードにノックアウトされて、記憶がさだかでない。

村と部落と私

私が育ったのは、福島県にある大玉という村だ。安達太良山が悠然とそびえたち、のどかな田園風景がひろがっている。村の中には、「部落」(※差別的な意味合いはない)という集落ごとのコミュニティが存在し、冠婚葬祭や田植えなど、人手が必要な時に助け合う相互扶助の仕組みが存在する。部落の構成員は消防活動や寄合などに参加する役目があり、家長(30~40代の男性)がそれを担うのが慣例となっていた。なので、現在、部落を運営している人の中には、私が子どもの頃に一緒に遊んでいた同世代の人が増えてきていた。本来であれば我が家も、父から私に世代交代するはずだったのだが、私が村を離れてしまったことでそれが叶わなくなってしまった。

Uターン至上主義

私の村では、長男は進学などで一度外に出たとしても地元に戻ってくる、というのが一般的であり、暗黙の了解になっているところがあった(これは、私の地元だけでなく全国の“地方”にあてはまることのような気もする)。現に、地元に残り親の面倒をみたり、家業を継いでいる人はとても多い。長男が村を離れても、その兄弟が地元に残るケースもある。家や部落ひいては地域を後世に受け継ぐのは村に生まれた男のミッションであり、それを放棄するということは、冒涜とまではいかないが、コミュニティの期待を裏切ることに他ならない。ちなみに、さきほどのエピソードで私を親不孝呼ばわりしたTさんの長男は、大学を卒業後にUターンして実家に戻り、地元で働いている。

地域は大きな家であり、ツイノスミカ

いまはだいぶ変わってきたが、玄関の鍵を閉めずに外出したり寝たりするのはよく聞く“田舎あるある”なのだが、そんなことができるのは、地域が大きな家のようなものであり各世帯はその家を成す部屋のように認識しているからかもしれない。それはつまり、田舎では隣人は他人ではなく家族なのである。さらに村においては、「家を建てる=永住」という意味合いが強い。だからこそ、Tさんは、息子同然の私が村ではない土地に家を持ったことに、怒りをあらわにしたのかも知れない。「親や生まれ育ったふるさとを捨てるとは何事だ!」と。
確かに、家や土地を守り、後世に引き継いでいくことも意義のあることだとは思う。地元にいる人たちが暮らしを営んでいるからこそ、私の大好きなふるさとが無くならずに存在しているし、両親に孫の顔を見せに帰ることができる。しかし、だからと言って、村や自分の価値観を人に押し付けたり、強要するのは違うのではないか。逆もまたしかり。村で生きている人に、家や土地に縛られるのは窮屈で不自由で自分の可能性を殺してやしないか!と声を上げたところで何の意味もないし、何の解決にもならない。

田舎の“バージョン”はこのままでよい?

私は以前、「方言が社交的になってきた」というレポートを書いた。内と内をつなぐ方言が、内と外をつなぐ言葉として進化してきているという内容のものなのだが、村や田舎の価値観や考え方も、あたらしい未来に向かってアップデートしていく必要があるのではないだろうか。その土地を離れても、家族や故郷とつながる手段はたくさんある。縁もゆかりもない土地に移住する人も増えている。ふるさと納税というつながり方もある。地方にチャンスが転がっているいまという時代、田舎特有の“しがらみ”や“固定観念”が地域と人の出会いやつながりを妨げないように気を配る必要があると私は思う。200人しかいない村だろうが1,000万人の大都市だろうが多様性を認めたり、他人への思いやりが必要なことに変わりはない。自分以外の人の生き方や価値観を尊重して、支え合えるような未来が、都会ではなくむしろ田舎から形成されていくとしたら、とても素敵なことだと私は思う。

最後に、つい最近、私の妹も埼玉に家を建てた。今度、家族で新築のお祝いをする予定だ。その時にでも、自分たちが果たして親不孝ものなのか、両親に話を聞いてみたいと思う。「そんなこと、思ってるわけねえべ」というやさしい言葉が返ってくるような気がするのだが、さて、どうなることやら。

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