みらいのめ

さまざまな視点で研究員が「みらい」について発信します

2020.03.19

第32回

ヨソモノが開くミライ

from 岩手県

生活総研 客員研究員
東北博報堂

種市 良嗣

地方創生に大事なのは、「ヨソモノ、ワカモノ、バカモノ」だという話を、皆さんもよく見聞きするかと思います。

ですが、個人的には、最近は当てはまらないなぁと思っています。例えば、Uターンで出身地に戻ってきてプロジェクトを立ち上げたり、起業したり、地域の企業に勤めていた方が、定年後に新たな社会とのつながりを持つための団体を立ち上げたりするなど、その地に所縁があって活躍することが多くなってきている印象があるからです。

最近、地域の再価値化の活動や地域創生のプレーヤーとして、しっかりとした役割を担っている、まさにヨソモノ(本人はソトモノと言ってました)という人に出会いました。その方に、地域に入り込んだきっかけや経緯について詳しくお話を聞いてきました。

ヨソモノ遠野に入る

その方は、岩手県遠野市に住んでらっしゃる、ローカルプロデューサーの富川 岳(とみかわ がく)さん。

ローカルプロデューサー 富川 岳さん(写真:富川さん提供)

富川さんは、新潟県長岡市生まれ。東京のデジタル系の広告会社へ入り、大手企業のデジタルプロモーションを担当。その後、2016年春より、縁も所縁もない岩手県遠野市に地域おこし協力隊として移住。Next Commons Labの立ち上げに関わ。2017年、地域の価値ある資源を磨き発信するローカルプロダクション「富川屋」として独立。2年間で40以上のプロジェクトと仕事をこなす。その殆どが遠野の仕事だというので驚きだ。

かつて湖だった伝説をもつ遠野盆地

だが、最初から順風満帆だったわけではない。地域おこし協力隊として遠野に入ったときには、「地域おこしに(無償で)協力してくれる人でしょ?」という目に見えない上下関係を感じたという。また、「どんな人なの?何をしてくれる人なの?何ができる人なの?」と地域の人からヨソモノ扱いもされ、相当困ったという。

そんな一年を過ごしていた富川さんが、三つのアクションで転機を迎える。

① 「富川屋」としての独立
② 結婚(結婚式は、市長をはじめ集落の住民100人が参加)
③ 師匠との出会い

富川さんは「これらがあって今のスタートを切れた」と言っている。それぞれのエピソードにも興味深いものがあるが、まずはローカルプロデューサーとしての大きな柱となった活動をお伝えしたい。

「to know(トゥーノウ)」立ち上げ

物語の舞台をめぐるスタディツアーを開催

2017年から、柳田國男『遠野物語』(岩手県遠野地方に伝わる逸話、伝承などを記した説話集)の可能性を最大化する取り組み「to know(トゥーノウ)」を立ち上げる。文化の保存・継承、学ぶ観光、教育、地域の生業づくりにまで発展させる組織づくりを行っている。

「to know」立ち上げ以降は、遠野市を拠点に、組織のブランディング、webサイト、映像、写真、本の編集、ワークショップ、商品開発などいわゆる広告業と、家業を継いだ鮭の味噌漬け販売を両立している。人と会い、地域資源を見つけ、磨き・発信すること、そして次の世代へと伝えていくことを大事にしているそうだ。

「to know」立ち上げまでの話を聞くと、「元々『遠野物語』は持ってはいたが、読んでも進まず苦手意識があった」そうだ。その苦手意識は、前述の「③師匠との出会い」に後に至る、遠野市史編纂委員長の大橋進先生との関係で大きく変わる。

大橋先生と出会ったことで、富川さんは「この土地には物語中にある自然、景色、文化(食、手仕事)がそのまま残っている!」ということに気付いたのだ。それを機に、自分たちが、この土地にある宝を「知る」入口を作り、その土地の物語を編み直し、“いま”を生きる人々の糧とすることを柱として様々な活動に取り組んでいるそうだ。

ローカルプロデューサー学びの旅

富川さんは「to know」立ち上げと同時に、ローカルプロデューサーとしてのナレッジを積むために、2週間で8県を回って約40人の人に会ってきたそうだ。対象は、地域プロデューサー、デザイナー、バイヤー、市役所の人など。

例えば、「店」をテーマに会った方からは、その土地の文化を後世に伝えるためには、土地の文化を反映したプロダクトが売れ続ける“販売ルート”の確保が必要だと学んだそうだ。
「街」がテーマのときには、積極的な巻き込みで土地の文化と混ざり合い、化学反応を起こす実例を聞き、「物」のときには、受注業務からの脱却には、結果に対しお互いコミットし利益を分配する方法も学んだ、という、まさに学びの旅を満喫したという。

シーズン2 第二話スタート

昨年リニューアルした事務所

最近、事務所もリフォームされ、遠野での仕事は従来通り行いつつ、新たな活動も始められている富川さん。最後に「今、ローカルプロデューサーとして、どんな時期(タイミング)なのでしょうか?」と聞いたところ、「シーズン2の第二話がスタートしたところです」という回答が返ってきた。まさに、次のステージのスタートを切り、確かな足がかりもできたタイミングなのだなと感じた。

今後も楽しみな一人であり、東北のミライにとっても必要なローカルプロデューサーである富川さん。遠野エリアの未来は存在感のある場所になっていくと感じました。

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