みらいのめ

さまざまな視点で研究員が「みらい」について発信します

2020.03.24

第33回

ゾウのウンチが世界を変える。

from 広島県

生活総研 客員研究員
中国四国博報堂

宮田 貴雅

最近、国連が定めたSDGs(エスディージーズ=持続可能な開発目標)が日本でもよく聞かれるようになってきています。ご存知の方も多いと思いますが、このSDGsとは国連加盟193カ国が協力して達成すべき課題であり、17の目標で構成されています。2015年に採択され、2030年の達成期限まであと約10年あまりと迫ってきています。某流通大手のCSRレポートにはこのSDGs達成にむけた活動報告が全ページに渡って掲載されていたり、店舗ではサスティナブル食品を販売されていたりするそうです。そのSDGs の先駆けともいえる国際的なビジネスモデルを10年以上も前から行っている起業家が広島にいらっしゃいました。スリランカでリサイクル事業やゾウの排泄物の再生紙「ぞうさんペーパー」ビジネスを起こした起業家であり、優秀なビジネスマンでもある株式会社ミチコーポレーション:植田紘栄志(ひさし)さんに、今回取材をしました。

象のウンチから生まれた「ぞうさんペーパー」

宮田客員研究員(以下、宮田)
ぞうさんペーパーとはどんな紙なのでしょうか?

植田紘栄志氏(以下、植田)
ぞうさんペーパーは、スリランカで製造されている100%リサイクルペーパーなんです。日本で言えば和紙に近いのかもしれませんね。ゾウって一日に150kg以上の食事をするんですが、糞も大量に排出するので、その糞の有効活用をしたわけなんです。そもそもスリランカで象は神聖な生き物とされているんですが、スリランカの経済発展によって急激に人口が増加にして、象が住む森がどんどん伐採されてしまいました。そのため、象たちが行き場をなくして「野良象」として人里に出てくるようになってしまったんですね。そこで象が暴れて人が亡くなったりして仕方がなく殺処分をされてしまうことがありました。象は元来臆病で頭のいい動物なんですけどね。その親象を失った小象たちの孤児院があって、そこで出た糞をリサイクルしてるってわけなんです。ぞうさんペーパーで得た売上金の一部は象の保護活動や子供たちの環境教育のために使われていますよ。

宮田:においはしないのですか?

植田:においは、まったくしませんよ。かいでみてください。糞の中に大量に含まれる植物繊維を取り出して再生紙にしています。画用紙やノートなどに加工して、いろいろな製品として日本や海外で販売しています。

宮田:象の糞への抵抗はないのでしょうか?

植田:もともとスリランカの人にとっては神聖な生き物だったので現地スタッフにも受け入れてもらえましたね。もしこれが馬の糞であったら受け入れてもらえなかったでしょうね。

宮田:ブッシュ元大統領がぞうさんペーパーのにおいをかいだそうですね。

植田:そうなんですよ。これはインパクトがありましたね。当初、ぞうさんペーパーの輸出はワシントン条約の関係でできなかったんです。現在は特例として認められてますが、その背景には日本国政府とスリランカ政府の働きかけがあったからなんです。その過程で、スリランカの総理大臣がワシントンに行ったときに、国のギフトとしてぞうさんペーパーのレターセットをブッシュ大統領とパウエル国務長官にプレゼントしたんです。この一件を世界のメディアがとりあげてくれて話題となり、他国への販売ルート拡大につながったんです。

宮田:すごいサクセスストーリーですね。

植田:実際は手探りで成り行きでしたよ。でも、人と象が敵対している中で、僕らが「ぞうさんペーパー」を作って輸出して、稼ぐには稼ぐけれども、それなりに象がいなければ稼げない訳ですから、「象がいないと食べていけない人が、象を守る」という風潮になってきて、象を守ることも仕事の一部になってきました。それが「共存型ビジネスモデル」となってさらに伸びたのです。単に要らないものをリサイクルするエコビジネス型ではなくて、いまはコミュニティビジネス型になってきてますよね。ぞうさんペーパーに付加価値がついて、普通の紙より高く売れる。だからみんなが大切に使おうとする。その売上げの一部がスリランカの象を守ることにもつながっている。このビジネスモデル自体が利害関係者をうまくつないでいるってことですね。

宮田:ぞうさんペーパーのこれからの展望をお聞かせください。

植田:絵本にして付加価値をつけて商品力をUPさせていきたいですね。今まではぞうさんペーパーの普及が目的でしたが付加価値UPへフェーズが変わってきています。商品ライフサイクルでいえば、成熟期、飽和期あたりに来ています。そのために「発信する・創る・売る」の3つを持続させていくことが大事です。昨年本を出版したのも発信する取り組みのひとつです。この本を見て「スリランカに行ってみたい」と思う人が増えれば、それがスリランカツアーになってスリランカの魅力を伝えられますから。今の風潮で、社会的な活動や商品の開発が人気になってきたことで、ぞうさんペーパーが脚光を浴びてきて、セミナーの話が増えてきています。元々、ビジネス自体は好きですし、人に雇われたくなかったので、いろいろやろうと思っていました。持続性は大事にしながらこれからもそんな感じでやっていこうと思っています。

今回インタビューしてみて特に印象的だったのは、「象の森を守ることが仕事になる。」「単なるエコビジネスでなく、コミュニティビジネス視点が大事なのだ」というエピソード。スリランカの象たちにとって植田さんはきっと、待っていた救世主だったのではないでしょうか。スリランカから日本、世界へ発信されたぞうさんペーパーのような商品は、世界を動かす「みらいのめ」だと思います。もしかすると植田さんのビジネスモデルはSDGsの17の目標のうち、10個くらいを達成しているのではないか?と思ってしまいます。

プロフィール

写真
植田 紘栄志(うえだ・ひさし)
『ミチコーポレーション』代表取締役

1971年岐阜県生まれ。スリランカでリサイクル事業やゾウの排泄物の再生紙「ぞうさんペーパー」ビジネスを起こす。「ぞうさんペーパー」は全国の動物園や美術館などで販売されている。2011年、広島県・北広島町に移住。オーナーである「芸北ぞうさんカフェ」を拠点に地域活性化ビジネスを展開する。

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