私の生活定点

博報堂生活総研による定点調査「生活定点」を見て気づいたこと、
発見したことをさまざまな人が語っていくリレー・エッセイです。

2017.12.20

第22回

「答えを探さない」という使い方。

博報堂 第三プラニング局

夏 秋馬寧

街角でクリスマスソングが流れる季節になりました。
年の瀬も近しい師走。ふと立ち止まって街を眺めていると…。

どことなく、街をゆく人波のカップル率が高い気がします。
日本でクリスマスを恋人と過ごすようになったのはいつ頃からでしょう。
20代の自分が物心つくころには、既にクリスマスは恋人と過ごすものだったなと思いを馳せつつ、そういえば自分の場合クリスマスは一人で過ごすことが多いなと振り返っていました。

「クリスマスを一人ぼっちで過ごす」という意味で「クリぼっち」という言葉があります。博報堂の「ことば社会年表」を調べてみると、どうやら2014年頃から「ぼっち」という言葉が出現しているので※、おそらく派生であろう「クリぼっち」も同じ頃から使われだしたのだと思われます。なんとなく、寂しい響きに思えます。(※http://timeline.kotobaology.jp/search/?q%5Btext_cont%5D=%E3%81%BC%E3%81%A3%E3%81%A1

そんな中、近頃は様々な「お一人様」向けのサービスが登場していることもあり、今時のクリスマスは一人で楽しむという人も増えているとしたら、これまでよりも一人で過ごすクリスマスが許されているのでは…? そんな気がして、生活定点の特設サイトを開いてみました。

「1年以内にした年中行事はなんですか」という項目で
「クリスマスの祝いごと」と答えた人は6割。
過半数がクリスマスを祝っているようです。

https://seikatsusoken.jp/teiten/answer/346.html

ところが、性年代別で探っていくと……なんと男性20代だけが大きくスコアを落としていました。(各性年代でトップの下げ幅)

https://seikatsusoken.jp/teiten/answer/346.html

これでは、そもそも「クリぼっち」がクリスマスを楽しめているかどうか以前に、男性20代に限って言えば「クリスマス」というもの自体に興味がなくなっているということになりはしないでしょうか。ちょうど自分と同年代の特徴的な傾向なので、もう少し詳しく調べいきます。

違う視点から手をつけてみましょう。
例えば、「増やしたい時間」の中にある「親しい友人と過ごす時間」のスコアはどのように変化しているのでしょうか。
男性20代で「親しい友人と一緒に過ごす時間を増やしたい」という意識が高まっているとすれば、恋人と一緒にクリスマスを過ごす固定観念が強そうな日本では、確かにクリスマス自体を祝わなくなるのかもしれません。

https://seikatsusoken.jp/teiten/answer/222.html

しかしこれも予想に反して、男性20代は猛烈にスコアを落としていました。
どうやら、親しい友人と一緒に過ごす時間を増やしたいわけではない模様です。

うーん、と悩んでいると、パッと目につくグラフがありました。

「親しい友人と一緒に過ごす時間を増やしたい」項目の女性20代のスコアは減少傾向も男性20代と比べて減少が緩やかで全性年代のなかでトップ。(1996年と2016年とで比較すると低下幅は男性20代の2分の1ほど)
加えて、「クリスマスの祝いごとをする」スコアについても、女性はここ10年ほど男性と比較して高いスコアのまま推移しています。なるほど、今時のクリスマスは「男女で一緒に過ごすもの」というより、「女子同士が一緒に過ごすもの」つまり「女子会」になっていて、若い男性は相手にされずにクリスマス離れをしているのかもしれない…!?

もやもやと妄想が膨らんでいきます。
気づけば、既に当初の「ぼっち」でクリスマスを楽しんでいる人が増えているかを確かめる目的はすっかり頭から抜けていました。
これが、生活定点の良い所だと、個人的に思います。

世の中に存在する大多数の調査データが、とある分からない事柄に対して「答えを示す」ものだとすると、生活定点のデータは答えを示しつつ「問いを膨らませてくれる」性質が強いように感じられます。

ズバリ望んだ答えがいつも返ってくるわけではありませんが、データを読んでいるうちに、それまで頭に存在しなかった新しい仮説が生まれてきます。それはそれで得をした気分になれるというものです。
このように、「答えを探さない」生活定点の使い方をされてみてはいかがでしょうか。

それではみなさん、良いクリスマスを。

この記事をシェアする

このエントリーをはてなブックマークに追加
私の生活定点

「仕事が好き」は大幅減 最新調査で判明した「働く」意識の激変

生活総研 上席研究員
近藤 裕香
2025.04.10
私の生活定点

“40代おじさん”は「イヤな人」から「取っつきづらい人」へ  最新調査で判明

博報堂 テーマビジネスデザイン局
前沢 裕文
2025.03.05
私の生活定点

「調理定年」は何歳?調査で分かった「大盛り寿命」「焼き肉寿命」

生活総研 上級研究員
夏山 明美
2024.11.25
私の生活定点

ポパイ・JJ世代が時代の節目?日本人の価値観変化をデータで検証

生活総研 上席研究員
酒井 崇匡
2024.09.03
私の生活定点

家の食卓を「写真」で大調査
生活者の「3つの意外な真実」とは

2024.07.23
私の生活定点

「人前でのキスに抵抗はない」は6% 調査で見えた若者の実像

2024.05.17
私の生活定点

「消齢化」の次は「消性化」?
食で縮まる男女の違い、20代で顕著

生活総研 主席研究員
夏山 明美
2024.04.04
私の生活定点

“生写真”が浮かび上がらせる
日本の食卓 自由化する食生活の実態
–日経クロストレンド 連載㊸–

生活総研 主席研究員
夏山 明美
2023.11.07
私の生活定点

「調理済み食品を使う料理」に
賛成9割。内食と中食の中間に勝機
–日経クロストレンド 連載㊶–

生活総研 主席研究員
夏山 明美
2023.08.29
私の生活定点

リビングでブームの「ヌック」とは
調査で判明、住空間の新潮流
–日経クロストレンド 連載㊴–

生活総研 上席研究員
佐藤 るみこ
2023.04.14
私の生活定点

「若者をなめていない」 ピース又吉さんに見る新・40代おじさん像
–日経クロストレンド 連載㊳–

生活総研 上席研究員/コピーライター
前沢 裕文
2023.03.09
私の生活定点

30年データで突き止めた新ワード「消齢化」消えゆく年代の壁
–日経クロストレンド 連載㊲–

生活総研 上席研究員
近藤 裕香
2023.02.22

もっと読み込む

その他の研究をキーワードから探す