「見た目」より「気持ち」が関係か 60〜70代の美容整形意欲からみえる「現役感」
2026.10.19
もしあなたが、60〜70代の方に「自分は何歳くらいだと感じますか」と尋ねたら、答えはひとつではないかもしれません。
博報堂生活総合研究所(以下、生活総研)が、首都圏の60〜74歳男女を対象に2026年1〜2月に実施した調査では、「実年齢より10歳以上若い」と感じている人は、「気持ち」の面では66.0%にのぼりました。しかし、「体力」では33.4%、「見た目」ではわずか15.6%にとどまっています。つまり、中高年において最も若いのは「気持ち」で、体力はそれほど若くなく、鏡に映る自分はさらに実年齢に近い、ということです。 (生活総研 「シニア」調査 首都圏、60~74歳男女、700人、2026年1〜2月、訪問留置調査)

一人の生活者の中には、「気持ち年齢」「体力年齢」「見た目年齢」という異なる年齢が同居している。この「自分のなかの年齢差」は、60〜70代の美容意識を考えるうえで重要な手がかりになりそうです。
「見た目に加齢を感じる人」が整形をしたいとは限らない
今回の調査で、特に気になったのが「美容整形をしてみたい」という回答です。『月刊 生活総研』でも以前取材しましたが、昨今広がっている美容整形や美容医療。こうした領域や行動に関心を持つ人は、「自分の見た目に加齢を感じるなど、何か気になるところがあるのではないか」と想像する方も少なくないでしょう。ところが、データを詳しくみてみると、意外な結果になったのです。
「気持ちが実年齢より10歳以上若い」と感じている人では、13.9%が「美容整形をしてみたい」と回答しました。一方、それ以外の人では7.1%。気持ちを若く感じる人のほうが、美容整形への意欲が高くなっています。「体力」でも同じ傾向がみられます。体力を実年齢より10歳以上若いと感じている人では15.4%、それ以外では9.7%でした。
ところが、「見た目」だけは異なり、見た目を10歳以上若いと感じている人の美容整形意向は11.9%、それ以外では11.5%と、ほとんど差がありません。つまり、美容整形への意欲の高さに関連性が強かったのは、「自分は若く見えるかどうか」よりも、むしろ「気持ちや体力の面で自分を若く感じているかどうか」だったのです。
ここから浮かんでくるのは、単純なアンチエイジングとは少し違う心理です。気持ちはまだ若い。体もまだ動く。これからやりたいこともある。だからこそ、見た目についても「このままでいい」と決めてしまわず、手をかけることが選択肢に入ってくるのかもしれません。
「若返りたい人」より「まだ楽しみたい人」
今回の調査結果には、この仮説を補強するようなデータがあります。美容整形をしてみたい人のうち、「ぜいたくに暮らしたい」と答えた人は84.0%。してみたくない人では44.9%でした。「思い切りおしゃれしたい」は77.8%対47.5%。「買い物が好き」も79.0%対62.5%となっています。

これらの数字だけから断言はできませんが、美容整形に関心を持つ60〜70代は、老いを気にして内向きになっている人というよりも、買い物をしたい、おしゃれをしたい、暮らしを楽しみたいという気持ちを持った人としてみえてきます。
美容への関心自体も高く、「普段関心のある情報」として美容を挙げる割合は、美容整形をしてみたい人では35.8%、してみたくない人では13.2%でした。その一方で、「理・美容にもっとお金をかけたい」と答えた人は、美容整形をしてみたい人でも9.9%にとどまります。気になるのだけれど、美容全般にどんどんお金を使いたいわけではない。ここにも、従来の「美容好き」という括りだけでは捉えにくい、新しい中高年生活者の姿があるように感じます。さらにこの謎を掘り下げていきましょう。
美容は現役を続けるための「メンテナンス」?
仕事との関係も気になるところでしょう。美容整形をしてみたい人では、「いつまでも働いてみたい」が55.6%。してみたくない人では46.5%でした。また、実際に仕事をしている割合も、してみたい人で58.0%、してみたくない人で50.6%と、前者のほうが高くなっています。 男女別に見ても、美容整形をしてみたい割合は、男性では有職者8.3%、無職者4.5%。女性では有職者20.1%、無職者13.5%でした。
仕事をし続けること、もっと広く捉えれば社会との接点を持ち続けることと、「見た目にも手をかけたい」という気持ちは、どこかで重なっているのかもしれません。だとすれば、60〜70代にとっての美容は「若者に戻るためのもの」ではなく、今の生活を続けるためのメンテナンスという意味を帯び始めているとも考えられるでしょう。

男性にとって整形は「美容」ではない?
もうひとつ面白いのが男性の回答です。調査対象となった60〜70代の男性で、「美容に関心がある」と答えた人は0.6%。「美容にもっとお金をかけたい」は1.7%でした。ところが、「美容整形してみたい」は6.9%に増えて、不思議なことに前の2項目を上回っています。女性では、美容への情報関心が31.0%、美容への支出意向が7.4%、美容整形が16.2%なので、3つは比較的納得しやすいスコアになっていますが、男性は様子が違うのです。

「美容には興味がない」と答える男性の中にも、美容整形なら選択肢に入る人がいることになる。もしかすると中高年の男性にとって、美容医療は「美容」というより、歯の治療や運動、身だしなみのような「身体のメンテナンス」に近いものとして捉えられ始めているのかもしれません。
スマホは自分の顔を映す鏡
デジタルとの関係もみてみましょう。「ビデオ通話を利用している割合」は、美容整形をしてみたい人で44.4%、してみたくない人では30.7%でした。この背景の仮説として、スマホによって中高年が「自分自身を見る機会」が増えたことは、考えてみる価値があるでしょう。
鏡を見るのは朝と夜だけだった時代から、写真を撮り、動画を撮り、ビデオ通話の画面で自分の顔を眺める時代へ。スマホは、人とつながる道具であると同時に、自分の姿を繰り返し映す「デジタルの鏡」にもなりました。気持ちの中の自分と、画面に映る自分。そのふたつを見比べる機会は、以前より確実に増えています。
中高年を「年齢」だけでみない
美容整形に関心のある中高年を「若さを追い求める人」と捉えるだけでは、今回のデータはうまく説明できません。見た目を若いと感じているかどうかでは、ほとんど差がない。差があるのは、むしろ気持ちの若さであり、おしゃれや買い物を楽しみたい気持ちであり、働き続けたいという意識でした。そこからみえてくるのは、「若返りたい人」というより、「これからも楽しみたい人」「まだ現役でいたい人」なのではないでしょうか。
「生活寿命」や「生活元年」といった意識データが示すように、これから中高年向けの商品やサービスを考えるとき、実年齢だけで人を分けることはますます難しくなります。60代、70代という年齢の中にも、それぞれ気持ちの年齢があり、体力の年齢があり、見た目の年齢がある。そして、その3つは必ずしも一致しません。中高年市場を読み解く次のヒントは、「何歳の人か」ではなく、その人の中にどんな「年齢のギャップ」があるのかを探ることにあるのかもしれません。