常連の正体

人は何軒の店で「常連」になれるのか? 「究極の常連」の振る舞いも判明

2026.08.17

2026 8 月号

突然ですが、あなたは自分が「常連」になっているお店がありますか? そもそも常連とは何でしょうか?

博報堂生活総合研究所(以下、生活総研)が調査したところ、「外出時は入り慣れた決まった店に行く」と答えた人は81.5%、「モノを買いに行くのは決まった店が多い」という人は実に89.8%。8割以上の生活者が、行動としてはリピート型であるといっていいでしょう。(博報堂生活総合研究所 「常連」調査 首都圏・阪神圏・名古屋圏、20~69歳男女、1,500人、2026年5月、インターネット調査)

ところが、「自分が常連だと思う店がある」と回答した人は36.9%。ある店に何度も行くという実際の行動とはかなりの乖離があります。生活者にとって常連という言葉は、単に「通う頻度が高い」ことではなく、「店との間に何らかの特別な心理的結びつきがある状態」を指している可能性が高そうです。

「常連の店」は変わったのか

今回の調査で生活者が「いつも同じ店に行く」と答えたお店の上位をみてみると、1位はスーパーマーケットで74.2%。薬局・ドラッグストアが58.2%で、以下は歯科、医院、コンビニ、美容院と続きます。

常連の正体

調査手法等が異なるため単純な比較はできませんが、1993年に生活総研が同じ質問で行った調査では、1位が「歯科」で2位が「医院」となっていました。トップ10を比較すると、今回調査で上位に入らなかったものでは、クリーニング店(3位)、床屋(4位)、証券会社(7位)、レンタルビデオ(9位)、米屋(10位)がランクイン。今から見返すと、現在ではオンライン化が進んだビジネスも目立ちます。(調査対象:HILLネット、回収は371人、調査時期:1993年7月、調査地域:首都圏)

「常連化率」のランキングは…

「いつも同じ店に行くだけでは、現代の生活者はそこが常連だとは思わない」というのは、データをみてきた通りです。そこで生活総研では、「いつも同じ店に行く」かつ「店の人とかなり親しい」ことを「常連」と定義し、「いつも同じ店に行く」を分母、「店の人とかなり親しい」を分子にした、新しい指標「常連化率」をつくってみました。すると、これまでのランキングとまったく異なる順位となったのです。

常連の正体

1位は「美容院」で56.5%。以下、「スナック」が46.7%、「バー」が46.2%と続きます。常連化率では、スーパーやドラッグストア、コンビニといった日常の買い物の場が姿を消しました。美容院や床屋は、身体に直接触れ、数十分〜数時間という長い時間を1対1で過ごす業種です。「自分の好みや髪質をわかってくれている」という安心感が親密化につながり、常連化する傾向が強いと考えられます。

また、スナックやバー、カラオケスナックなどお酒が介在する場は、母数となる「いつも行く人」の数は限られますが、通いはじめると約4割の確率で常連化する、極めてエンゲージメントの高い領域です。これは、飲み物・食べ物だけでなく、空間や会話といった体験が商品となっているためといえそうです。

中古を含む「自動車販売店」が上位に入っていることは、数百万単位の買い物においては「商品が良い」だけでなく、「この担当者(営業マン)だから買う、相談する」という人間関係への依存度が非常に高いことを示唆しています。身体接触を含む親密性、体験消費、高額商品における売り手への信頼、これらは「常連化」のヒントになりそうです。

この「常連化率」という視点で、日常の買い物で使うお店に絞ってもう少し解像度を上げてみてみましょう。

常連の正体

身体接触のある業種や体験消費、高額消費を除くと1位から5位は昔ながらの商店街にあるような個人経営型の専門店がずらりと並びます。これらの店は「いつも行く」母数は限られていますが、常連化率ではコンビニやスーパーを大きく上回っています。「今日オススメの魚は?」「お米の銘柄を変えたい」といった専門知識に基づく会話や量り売りなどの対面販売によって、自然と深い関係性が築かれていると考えられます。

「客であること」をやめた時、本当の常連に

今回調査の自由回答から、生活者が常連化するにあたっての心の動きをご紹介しましょう。「その店の常連と感じた時」という質問に対して多くみられた回答は「顔や名前を覚えてもらえたこと」「娘を連れて行くと店員さんに毎回声をかけてもらえる」「店の人が私の買ったものを覚えていた」というもの。つまり、単にモノを買う客としてだけでなく、「私」という個人として認識されたと感じた瞬間に常連意識が芽生えていることがわかります。

また、常連の代表格的なセリフではありますが、「いつもので通じる」「いつも通りで伝わった時」「長らく通っていて雰囲気を伝えるだけのオーダーが安心してできると思う時」といった回答も見られました。みなまで言わずとも自分の好みを理解してくれている、コミュニケーションが省略されたツーカーの関係が、常連としての心地よさに繋がっているようです。

自由回答のなかで最も興味深かったのは、「商品の場所を探している人がいたら、教えてあげる時」というものでした。「サービスを受ける側(客)」から一歩踏み出し、「おもてなしする側の視点に立って他の客をサポートする(=コミュニティの一員になる)」という意識が芽生えたとき、人はその店を強烈に「自分の居場所」として認識するのかもしれません。

人が常連になれる店は「3軒」まで

企業やお店の関係者であれば、「生活者に常連と思ってほしい」と願うかもしれません。では人は何軒くらいの店で常連になれるのでしょうか? 常連だと思う店がある36.9%の生活者にあらためて「何軒の店で常連なのか」を聞いたところ、全体平均は2.65軒。「1軒」が33.6%、「2軒」が26.0%で、「3軒」が21.5%ですが、「4軒」は4.2%と、ここから一気に急落します。なお、20代は1.99軒、一方で60代は3.04軒と、年代が上がるに従って増えていく傾向が見られました。時間は有限ですから、それほど多くの店で顔なじみになることは難しいようです。人間が常連になれる店の上限は「おおよそ3軒くらいまで」とみることができるでしょう。

買い物領域にも進出しつつあるAIは、「過去にこの顧客が3回肉を買った」という購買履歴は完璧に把握できますが、「今日は孫が来るから、柔らかくて大きな肉を探している」といった購買の背景にある意図や文脈を察することは難しいでしょう。また「他のお客さんは、こんな風に料理すると美味しいと言ってたよ」というような多様な顧客との対話から生まれる知恵は、アルゴリズムのレコメンドを超える説得力を持つ可能性があります。モノを売るだけでなくソリューションを提供する商売のやり方は、効率化が進む社会において貴重な価値になっていきそうな予感がします。

一方で、現在は常連化率が低いスーパーやコンビニは、「人間の要素を極限まで減らして効率的な買い物を提供する」という戦略や、逆に店舗の中に「専門店的な暗黙知」を取り込んで生活者とのエンゲージメントを高めるといった作戦も考えられるかもしれません。限られた「常連の3軒」のうちに入ることを狙うか、もしくは摩擦ゼロの究極的な効率性を目指すか。企業によって戦略が分かれるところでしょう。