インタビューから読む
未来の時間意識
有識者インタビュー
松岡 真宏氏
フロンティア・マネジメント 株式会社 代表取締役

㈱野村総合研究所、UBS証券㈱、㈱産業再生機構などを経て、2007年にフロンティア・マネジメント㈱を設立。著書に『「時間消費」で勝つ!』『時間資本主義の時代』など。

増えすぎたすきま時間や、産業革命以降、社会で決められた様々な時間は、生活をどう変えているのか? そして、未来の時間はどうつくられていくのか? 『時間資本主義の時代』の著者である松岡真宏さんに、お話をうかがいました。

すきま時間が、日常に
染み出しはじめている。

スマホが普及したことで、「すきま時間という意味のなかった時間を、意味のある価値ある時間へと変える」ことが可能になりました。メールの返信をする、ニュースを読むことなどができる一方で、すきま時間を埋めるために、無造作にスマホをいじるといった行動も目立つようになっています。

プライオリティの低いことは、すきま時間を上手に活用してこなす、プライオリティの高いことは塊時間でじっくりやる――ということが置き去りにされて、すきま時間の活用術や時短術にしか焦点が当たらなくなってきている。すきま時間の活用が、手段ではなく、自己目的化していることは良くない。

ある調査では、東京と大阪の人の歩くスピードが遅くなっていることが明らかになっています。これは、スマホを見ながら歩いている人が増えたことによる影響かもしれません。いたるところに発生するすきま時間が、塊時間を侵食して、日常に染み出しはじめていることは問題だと思いますね。すきま時間を有効的に使えば、本来は、創造的な時間をつくり、より暮らしを豊かにするといったことができるはずです。

時間は、外生的なものから内生的なものへ。

かつては、ゲームセンターに行く、パチンコに行くなど、暇をつぶすための行動と他の行動が切り離されていました。しかし、ネット上で、無料でコンテンツが手に入るようになったことで、行動の境界が曖昧になり、時間の消費方法も変わってしまいました。
すきま時間だけでなく、時間の概念そのものも揺らぎはじめています。時間の概念が変われば、ワークスタイルも変わります。今では、始業時間もバラバラになり、在宅勤務もできるようになるなど、社会的な時間に縛られなくてもいい人たちが増えてきました。いずれは、学校、塾がオンデマンド化したり、テレビがNetflixのように変わったりする可能性も高いでしょう。

そもそも歴史的にいえば、原始時代は「現在は11時です」というような物質的な時間は存在していなかった。朝日が昇る時間が朝、酋長がご飯を食べる時間が朝、といったように、時間は共同体ごとに決めていたわけですね。これが、取引のために共同体同士が交わることによって、共通の時間概念が必要になり、数字的な時間が生まれた。そして、産業革命以降、列車や工場などが誕生したことによって、より近代では学校やテレビなどによって、客観的な時間が小さなコミュニティやお茶の間にまで広がっていった。産業革命以降は、いわば、“自分たちの感覚としての時間”が取り上げられるかたちになりました。
考え方によっては、時間が外生的になっていた時代から、これからは再び自分たちで内生化する時代になっていくともいえます。様々なところで時間の境界が曖昧になってきているのは、こういった動きが顕著になりつつあるからではないでしょうか。

未来の時間は、
若い世代によってつくられる。

24時間は、元々は“金”のように、平等で不動の価値があったけれど、すき間時間を有効活用するなどして、可処分時間を最大化するようになっていくと、本来持っている24時間よりも、使える時間が大きくなっていくのかもしれません。

そうなったとき、私たちのような決して若いとはいえない世代は、だんだんと置いていかれるのかもしれません。しかし、日本は若者がどんどん減っていくなかで、いまの10代、20代の権利や考え方を拡大しなければ、彼ら彼女らが許してくれないでしょう。

1980年代、コンビニを利用しているお客さんの大半は若者でした。ところが、今では中高年が多い。当時10代、20代だったユーザーが歳を重ねたことで、コンビニは幅広い年代が利用するお店に変わりました。同じように、世間一般の時間の使い方も、いまの10代、20代の使い方に付随するかたちで変化していくことを考えなければいけないと思いますね。

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