私の生活定点

博報堂生活総研による定点調査「生活定点」を見て気づいたこと、
発見したことをさまざまな人が語っていくリレー・エッセイです。

第19回

スマホ時代の「偶然」との出会いかた

生活総研 研究員

十河瑠璃

待ち合わせている友人を待つ間。2、3駅だけ電車に乗っている間。そんなすきま時間ができた時、スマートフォンを見る方が多いのではないでしょうか。
自分が登録しているSNSを一通りチェックしたり、キュレーションサイトで気になるニュースを追いかけたり、ゲームをしたり…。街中の人たちを見ても、45度くらい下に首を傾けて、手元の液晶画面をのぞいている人がたくさんいます。何より、自分自身がそうです。
ここで、博報堂生活総合研究所の「生活定点」データを参照してみます。

https://seikatsusoken.jp/teiten/answer/1265.html


https://seikatsusoken.jp/teiten/answer/1270.html

「どのような情報関連機器・サービスを持っていますか?」という問いに対して「スマートフォン」と答えた人は、2010年の調査開始以来すべての年代(20代~60代)で急増しており、2016年調査ではパソコンの所持率に肉迫しています。もはや情報をいつでもどこでも検索できるということは、世の中のスタンダードになりつつあるといえるでしょう。

https://seikatsusoken.jp/teiten/answer/1207.html

このことは、私たちの気持ちの上でのスマートフォンの重要度も高めることとなりました。「携帯電話やスマホは私の生活になくてはならないものだと思う」と答えた人は、「スマートフォンを持っている」と答えた人ほどではありませんが、右肩上がりの上昇を続けています。

https://seikatsusoken.jp/teiten/answer/1076.html

また、「買う前にインターネット上の口コミを調べる方だ」という人も、20~40代の若い世代では40%前後を占めています。
スマートフォンのもたらした情報の即時性は、「何をするにも、まずはネットで調べてから」という価値判断のスタイルを生み出し、定着させたのではないでしょうか。

その影響か、偶然に身を任せて楽しむという機会は、スマートフォンがなかった頃に比べて少なくなっているような気がします。


https://seikatsusoken.jp/teiten/answer/678.html

「予定を立てない旅をしてみたい」という人は、調査開始の1998年時点では51.6%でしたが、最新の2016年で36.9%となっており、減少傾向が続いています。
情報収集の敷居が低くなった今、リスクの低い選択をすることは以前よりも容易になりました。あえて予定を立てない、口コミなどで情報収集をしないというのは、むしろ勇気のいることなのかもしれません。
また、ネットの情報は取捨選択の権利が全面的に自分にあるということも、偶然の出会いが少なくなる要因のひとつでしょう。
検索エンジンでの検索はもちろんのこと、SNSについても、目にする投稿は自分がフォローしている人の投稿です。興味のないジャンルや、自分と意見が対立する人のアカウントはそもそもフォローしないので、目にする機会は少ないのではないでしょうか。
スマートフォンを通して見る世界はそうして、自覚のないままに、各自の好みに合わせてフィルタリングされているように感じます。

自分好みにフィルタリングされた世界はとても快適ですが、時折窮屈に感じることがあります。自分自身にとめどなく創造性があれば良いのですが、「何かマンネリ化してきたな」「世の中にはもっと新しいものが生まれているんじゃないだろうか」そんな風に感じることが増えてきたのです。
私はそんな時、あえて偶然をつくりだすため、ありふれた方法かもしれませんが次のようなことをしています。

①自分にとって未知の分野に詳しい人と話せる場に顔を出す
異なる専門性を持つ人の講演を聴いたり、公務員や保育士、ミュージシャンなど、全く違う仕事をしている友達と定期的に連絡をとるようにしています。

②人に勧められたものはとりあえず試してみる
この方法で出会ったお気に入りの本はたくさんあり、ネタとして活かされています。

③SNSで、本来の関心とは異なるジャンルのアカウントをフォローする
「そんな考え方もあるんだなあ」と驚くことが多く、意外に学びがあります。

④好きなブランドではなく、あまり知らないブランドや福袋を買ってみる
新たな流行・トレンドの変化に気がつくことも。

⑤できるだけ違う道を通り、違うお店で買い物や食事をする
場所によって集まる人の属性はかなり違うので、単純にとても面白いです。

インターネット上の無数の選択肢にいつでもアクセスできるのに、こうして意識していないと自分のテリトリーにないものと出会う機会がなかなかないというのは、なんとも不思議です。
ちなみに、人と人の偶然の出会いを演出するサービスは、いくつか出てきています。特にフランスでは、今たまたますれ違った人とチャットができるようなアプリも大ヒットした模様です。そもそも人と人の縁は偶然の要素が大きいので、受け入れられやすいのでしょう。
対してモノとの偶然の出会いを提供してくれるサービスは、まだ少ないように思いますが、こちらも増えていったら面白いなと思います。偶然に出会ったものを「買う」のはハードルが高くても、「シェアする」「借りる」という方法もあります(現に、ファッション界隈では、毎月定額で服を借りられるサービスがすでにいくつか始まっています)。このようにして、自分とは違うフィルターを取り入れることが気軽にできるようになっていくと、創造性が広がって楽しくなるのではないでしょうか。

この記事をシェアする

このエントリーをはてなブックマークに追加
私の生活定点

大激変 「働き方」の未来予測 仕事は「自事」へ、会社員は「社会員」へ

生活総研 上席研究員
近藤 裕香
2025.05.08
私の生活定点

「仕事が好き」は大幅減 最新調査で判明した「働く」意識の激変

生活総研 上席研究員
近藤 裕香
2025.04.10
私の生活定点

“40代おじさん”は「イヤな人」から「取っつきづらい人」へ  最新調査で判明

博報堂 テーマビジネスデザイン局
前沢 裕文
2025.03.05
私の生活定点

「調理定年」は何歳?調査で分かった「大盛り寿命」「焼き肉寿命」

生活総研 上級研究員
夏山 明美
2024.11.25
私の生活定点

ポパイ・JJ世代が時代の節目?日本人の価値観変化をデータで検証

生活総研 上席研究員
酒井 崇匡
2024.09.03
私の生活定点

家の食卓を「写真」で大調査
生活者の「3つの意外な真実」とは

2024.07.23
私の生活定点

「人前でのキスに抵抗はない」は6% 調査で見えた若者の実像

2024.05.17
私の生活定点

「消齢化」の次は「消性化」?
食で縮まる男女の違い、20代で顕著

生活総研 主席研究員
夏山 明美
2024.04.04
私の生活定点

“生写真”が浮かび上がらせる
日本の食卓 自由化する食生活の実態
–日経クロストレンド 連載㊸–

生活総研 主席研究員
夏山 明美
2023.11.07
私の生活定点

「調理済み食品を使う料理」に
賛成9割。内食と中食の中間に勝機
–日経クロストレンド 連載㊶–

生活総研 主席研究員
夏山 明美
2023.08.29
私の生活定点

リビングでブームの「ヌック」とは
調査で判明、住空間の新潮流
–日経クロストレンド 連載㊴–

生活総研 上席研究員
佐藤 るみこ
2023.04.14
私の生活定点

「若者をなめていない」 ピース又吉さんに見る新・40代おじさん像
–日経クロストレンド 連載㊳–

生活総研 上席研究員/コピーライター
前沢 裕文
2023.03.09

もっと読み込む

その他の研究をキーワードから探す