2020年の生活者展望

生活総研では毎年末、その年の“ヒット商品”と翌年の“ヒット予想”、そして翌年の“景況感や楽しさ予想等”について生活者に調査を実施し、分析した内容を発信しています。
本結果をふまえ、所長の石寺修三が、2019年の振り返り・2020年の展望について語りました。

生活者が変わる“次の10年”~

変化本番を前に、期待と不安が高まる生活者

生活総研では2015年から毎秋に、生活者自身に来年を占ってもらう調査を2つ行っています。
1つは、来年の景況感を予想してもらう『生活者にきいた“2020年 生活気分”』調査です(注①)。例えば、「来年、世の中のことで“変わった”と感じることが今年と比べてどうなるか」を聞くと、「多くなる」と答えた人が昨年の3割から4割に増加しました。

その理由で最も多かったのは「東京2020オリンピック・パラリンピックの開催」ですから気分は明るいモードかと思いきや、そうとも言い切れない結果もありました。
昨年のこのインタビューで、3年連続で減少していた「世の中の景気・自分の家計が悪くなる」と答えた人が増加に転じた話をしましたが、それが今年はさらに増加して過去最高になってしまったんです。多く挙がった理由としては「消費税増税の影響」に加えて、「節約意識の高まり」「世界情勢の不安定化」でした。国全体で盛り上がるイベントが迫ってはいますが、生活者は浮かれることなく暮らしの行く末を冷静に見据えているようです。

もう1つは『生活者が選ぶ“2020年 ヒット予想”』調査(注②)です。今年の上位項目をみると「東京2020オリンピック・パラリンピック」はもちろん、5Gによる次世代通信、キャッシュレス、働き方改革など、社会の節目に関わる商品・サービスが多く挙がりました。ここ数年注目されてきた変化が本番を迎えることへの期待と不安が高まりつつ、「まずは飛び込んでみよう、試してみよう」という気運が生活者のなかに広がっているように感じます。

2020年は、“次の10年”のはじまり

2020年は、別の捉え方もできるタイミングです。
日本だと「10年ひと昔」、海外でもディケイド(decade:十年紀)という言葉があるように、人は10年という区切りが好きですよね。実際、10年後の2030年を一つのメルクマールとして動き出している企業は多いですし、2020年の展望は単年としてよりも、“次の10年”のはじまりとして考えたほうがよさそうです。

ちなみに、生活総研がウェブサイトで公開している『未来年表』(注③)によると、2020年代には人口動態の節目がいくつも控えています。巷でよく言われるのは団塊世代が75歳になって、後期高齢者人口が2,000万人(人口の約18%)を超えるという「2025年問題」。日本の総人口が1億2,000万人を切り、平均年齢が50歳を超えるのもこの頃ですから、ここからの10年間は日本が課題先進国であることを誰もがリアルに感じはじめるフェイズということです。

一方で、2020年代には我々の予想以上にテクノロジーが進化する予測もたくさんあります。ひょっとすると、社会課題のいくつかが思わぬかたちで解決されることがあるかもしれません。いずれにしても、未来のありようを最終的に決めるのは人口動態でもテクノロジーでもなく、その時代を生きる生活者です。大事なのは、その暮らしや価値観が環境変化を受けて、どう変わっていくのかという視点だと思います。

暮らしの「際」が溶けてなくなる “次の10年”

“次の10年”に起きる変化のなかで私が注目しているのは、暮らしのなかのいろんな「際」が溶けてなくなるという流れです。
その兆しとして、今夏の我々の研究発表『消費対流「決めない」という新合理』(注④)でも、生活者が「新品か中古品か」「所有するか共有するか」・・・といった既存の線引きにあまりこだわらなくなっていることを取り上げました。そして、この動きをさらに加速させそうなのが、来年導入される次世代移動通信システムの5Gです。この技術は「IoT(Internet of Things)」を本格化させて、昨今話題のXaasのように産業全体に大きなインパクトをもたらすといわれています。

ここでも考えたいのは、モノがつながった先に生活者がどう変わるかです。「つながる」ということは、「際がなくなる」ということですよね。おそらく“次の10年”というのは、自分に合ったものを(≒パーソナライズ)、必要な時に(≒リアルタイム)、手間や面倒なしに(≒フリクションレス)、一度のアクションで(≒シームレス)手に入れることがもっと簡単になります。企業にとっては業種・市場の定義が揺さぶられる変化ですが、生活者にとっては、暮らしのなかで時間や場所あるいはデバイスの制約に縛られることがなくなることを意味します。

その変化は、思いもしないようなモノとサービスの出会いと、新しい「ながら・ついで」のニーズを生みだすかもしれません。また、「モノがつながる」ということは「モノを持つ人がつながる」ということでもあります。「IoT」ならぬ「IoH (Internet of Human)」という環境が、人と人の予期せぬ出会いを増やして、新しい人間関係を生み出しはじめるんじゃないでしょうか。

生活者主導で、「時間」の再編がはじまる

来年1月に発表する未来洞察研究『みらい博』では、この仮説を「時間」を切り口に掘り下げる予定です。
そういうと、なんか抽象的で難しいイメージを持たれる方も多いかもしれません。
でも、「時間」って詰まるところ1日の暮らしだし、それが積み重なっての人生でもあると思うんです。その使い方には個々人の価値観や行き方が反映されるわけですから、生活者研究として大事なテーマです。それに「時は金なり」なんて言葉もあるように、ビジネス面でも無視できません。

今回の研究は生活者主導による「時間」の使い方の変化が、暮らしや社会を大きく変えはじめる、というお話になります。例えば、意識調査や行動に関するビッグデータから生活者の1日を分析すると、行為にかける時間が短く細切れになったり、行動のタイミングが分散したりして、ここでも“際”が溶けつつあることがわかりました。
その背景には人口動態やテクノロジー、社会通念の変化などが考えられますが、大袈裟にいうと、標準時が1つしかない日本で共通の尺度として機能していた「時間」のルールが崩壊しつつあるということです。ちなみに、その意識は20代と30代以上の間に大きな溝がありました。この先、自由自在に「時間」を使いこなす若い世代が社会を担うようになれば、2030年にかけて日本の「時間」の再編が進んでいくと思います。その時のキーワードは「ライフスタイルから、タイムスタイルへ」。「時間」の使い方が、その人らしさを表現するようになるということです。
TPOという言葉があるように、Timeが変わればPlaceもOccasionも変わりますから、ビジネスでもいろんなチャンスが生まれるんじゃないでしょうか。

研究の詳細は来年1月の東京を皮切りに始まる招待イベント『みらい博』でご紹介するほか、例年通り春には特設サイトをオープンさせますので、是非ご覧いただきたいと思います。引き続き2020年の、そして“次の10年”の生活総研にご期待ください。

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