2024年の生活者展望

年末恒例の本企画。2023年の生活者意識や行動について「コロナウイルスに関する意識調査」、今年と翌年の景況感などを聴取した「生活気分」調査データとともに今年を振り返りながらご紹介します。コロナ禍を経て、生活者が見出した不変の価値、そして高まり始めている新たな価値とは?博報堂生活総研所長の石寺修三が解説します。

“解放感”と“閉塞感”のはざまの生活者と、その先にやってくるもの

生活者は“解放感”と“閉塞感”の板挟み

長く続いたコロナ禍がようやく落ち着いてきました。生活総研では2020年の感染拡大初期から「新型コロナウイルスに関する意識調査」を毎月聴取して発表していましたが、今年5月に感染症法上の位置づけの5類移行に伴い発表を中止しました。ただ、発表はしていませんが実は調査自体は続けています。直近11月の調査結果を2020年から時系列でみてみると、コロナ禍環境下での「行動抑制度(日常生活で控えている行動)」(図①)はご覧の通り、3年前の約5割の水準にまで低下しています。

【図① コロナ禍による行動抑制】

ところが、「コロナ禍環境下での不安度(日常生活で感じている不安)」(図②)に関しては、ほとんどの項目が低下しておらず、むしろ上昇しているものすらあります。これはおわかりの通り、ウクライナでの紛争とそれをきっかけとした物価高の影響でしょう。質問文としては新型コロナウイルスとからめて聴取していますが、生活者の気持ちのなかで両者を分別して答えられないのは当然だと思います。いずれにしても、生活者はコロナ禍が収まってきたことによる“解放感”と、経済や国際情勢がもたらす“閉塞感”の板挟み状態にあるようです。

【図② コロナ禍による生活不安】

そんな生活者の来年の動向はどうなのでしょうか。年末恒例の調査『生活者にきいた“2024年 生活気分”』の結果をご紹介します。まず生活者が予想する来年の「世の中の景気」をみると、「悪くなる」と答えた人は36.2%で前回(44.9%)から大きく減少したのですが、依然として「良くなる(14.7%)」の2倍以上の水準です(図③)。その理由を自由回答で聞くと、「良くなる」と思う理由に“コロナ禍の沈静化”を挙げる人が多い一方、「悪くなる」と思う理由に“物価上昇”が多く挙がっています(図④)。さらに「来年お金をかけたいもの」を聞いても1位は「旅行」ですが、2位は「貯金」が続いており、ここでも“解放感”と“閉塞感”がない交ぜになった生活者の心理がみてとれます(図⑤)。逆にいうと、この相矛盾する2つの気持ちをうまく止揚させれば、生活者の気持ちをつかむことができるかもしれません。

【図③ 来年の「世の中の景気」予想】
来年の「世の中の景気」は、今年と比べてどうなると思いますか(※西暦は生活者に予想してもらった「翌年」を指します。例えば、「2024年」の数値は今年(2023年の秋)に調査した、来年(2024年)の予想です)

【図④ 来年の「世の中の景気」予想の理由(自由回答)】
良くなると思う理由(※自由回答を集計したトップ5。「良くなる」と回答した男女470人ベースで算出)

「悪くなる」と思う理由(※自由回答を集計したトップ5。「良くなる」と回答した男女1,753人ベースで算出)

【図⑤ 今年お金をかけた & 来年お金をかけたいもの(上位10位)】

▼生活者にきいた“2024年 生活気分”
https://www.hakuhodo.co.jp/news/newsrelease/106804/

いまや日本は「総ひとり社会」

さて、今年(2023年)1月の「みらい博2023」で発表した『消齢化社会』は、お陰様で大きな反響をいただきました。この研究はかつて大きかった年齢による価値観や嗜好の違いがこの30年間で小さくなっている現象を分析したものです。一般的に時代の流れは「大衆」から「分衆」になり、さらに「個」に向かっているといわれます。でも実際は、社会はそのままバラバラにはなってしまわず、むしろ年代を超えて共通点が増えつつあったというわけです。この矛盾を我々は「個」が分散したがゆえに重なりが生まれたからだと結論づけましたが、2024年1月に発表予定の「みらい博2024」ではそんな「個」に向かう流れを、別の角度からもう一歩踏み込もうと考えています。
冒頭でお話したように、生活者のなかにある先行きの不透明感は来年も相変わらず続きそうですが、生活自体はコロナ禍前のモードに戻りつつあります。ただ、そのなかにはリモートワークのように広く定着して元に戻らない不可逆の変化もあると思います。そのひとつとして我々が注目しているのが、生活者の「ひとり」にまつわる意識と行動です。

突然ですが、皆さんは「ひとり」って好きですか? 「ひとり」という言葉を聞くと、「孤独」「少子化」・・・といった言葉とつなげてネガティブに捉える方が多いかもしれません。でも、自立や自由を意味する「ひとり立ち」という言葉があるように、「ひとり」という概念にはポジティブな面もありますし、何よりその受け止め方も時代とともに変化しています。
例えば1993年、生活総研は25~39歳の男女を対象にした調査を実施し、『高シングル社会』というレポートを発刊しました。これは未婚/既婚を問わず「ひとりでいたい」と考える生活者が増える兆しに着目したもので、「ひとりでいる方が好き」な人が43.5%もいたことが当時は話題になりました。それから30年経った今年、同じ設計で再び調査をしたところ、「ひとりでいる方が好き」な人が10ポイント以上増加し過半数に転じました(図⑥)。この結果だけをみると、若い年代特有の価値観だと思われるかもしれません。そこで、調査手法は違いますが同じ質問を20~60代の男女に聴取したところ、なんと「ひとりでいる方が好きな」人はあらゆる年代層に広がっていた上に、20代が最も少ない結果となりました(図⑦)。考えてみれば、現在の50~60代は30年前の調査対象者だったわけですから、この結果もむべなるかなという気がします。どうやら、今の日本は「総ひとり社会」といってもよい状況のようです。

【図⑥ 「ひとりでいる方」が好き】※1993年と2023年に実施した25~39歳対象の訪問留置調査

【図⑦ 「ひとりでいる方が好き」】※2023年に実施した20~69歳対象のweb調査

生活者のなかの「ひとりマグマ」の可能性を考えよう

こうした「ひとり」を好む意識・行動の高まりの背景には、おそらくSNSの浸透による他者との接続過剰がありますが、今回のコロナ禍がこれを加速させたように思います。2020年からの約3年間、多くの人が密を避けて「ひとり」でいることを余儀なくされました。でも、冒頭でご紹介した「新型コロナウイルスに関する意識調査」を毎月みていると、実は「ひとり」でいることの良さに気づいた生活者も少なくなかったのです。実際、今回の調査研究の過程でも「ひとり」の状態を意識的に生み出して、ポジティブにその時間を楽しんでいる生活者にたくさん出会いました。どうやら「ひとり」は未婚などの“属性”ではなく、生活者の誰もがその時々で選び取る“モード”のように捉えたほうがよさそうです。私はこの動きは一部の生活者だけのものではなくて、むしろこれからの生活者観の前提と捉えたほうがいいと思います。しかも、人生100年時代が近づいていることを考えると、生活者が自分と向き合う時間は今後ますます増えていきますよね。
もちろん、自ら望まず「ひとり」になってしまった孤独な人を支えることは大事なことですが、「総ひとり社会」とフラットに向き合って、生活者が見つけた「ひとり」の新しい価値に目を向けることも必要なんじゃないでしょうか。つまり、いま「ひとり」を考えることは、これからの“日本社会の幸福”を考えることにほかならないように思います。
今回、我々はそんな生活者のなかにある熱いエネルギーを「ひとりマグマ」と名付けて、社会や経済を活性化させる可能性を考えています。既に特設サイトがオープンしていて、今後も研究成果をアップしていきます。どうかご期待ください。

▼みらい博2023 「消齢化社会」特設サイト
https://seikatsusoken.jp/miraihaku2023/

▼「ひとり意識・行動調査 1993/2023」 30年変化の結果を発表
https://seikatsusoken.jp/newsrelease/20846/

▼みらい博2024 「ひとりマグマ」特設サイト
https://seikatsusoken.jp/miraihaku2024/

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