生活者インタビュー Interview

若宮 正子さん

ITプログラマー、ITエバンジェリスト

80代女性。定年前、58歳からパソコンを独習。2017年81歳でiPhoneアプリ「hinadan」を開発した世界最高齢のプログラマー。高齢者の交流サイト「メロウ倶楽部」副会長、「熱中小学校」教諭、NPOブロードバンドスクール協会理事。デジタル改革関連法案ワーキンググループ員。「年寄だってやればできる」、「輝く個人を目指そう」、「高齢者のITリテラシーの向上」をテーマに、精力的に活動中。

ITの衝撃から
定年後パソコンを独学

私は長らく銀行勤めでしたが、オフィスワークは“江戸時代”の様相、つまり手作業頼みでした。そこにコンピュータが登場し、人間が単純な反復作業から解放されるのを目の当たりにしました。定年後、母親の介護がありお友達とも会えないので、パソコンを買い、パソコン通信を始めました。その中で高齢者の交流サイト「メロウ倶楽部」に出会ったのです。

交流サイト「メロウ倶楽部」の活動
好奇心旺盛、輝く個人になる

「メロウ倶楽部」には20年以上の歴史があります。俳句や川柳など文芸の部屋、プログラミングの部屋、オンライン勉強会、「生と老」の部屋などシニアらしい活動をオンラインだけで自主運営しています。人はいかに死すべきか、という話も熱く交わしていますよ。

一度も会ったことのない方とも仲良しになれる場です。活動を聞いて、最近は若い方の会員も増えています。年に1度オフ会がありますが、コロナ禍なので「オンライン上でオフ会」を開いています。上半身だけで踊ったり、解像度を変えて画面に映った人を当てるクイズとか。みなさん実にクリエイティブ、創意工夫があり楽しいです。

「街の老人クラブでは、月並みなことしかしない」という不満は多いのです。高齢者ならゲートボールや民謡がよいのでは、ではない。コンサートでなぜベートーベンがかからないのか、とある会員の方は怒ります。人はみな好奇心が強いのです。ご自分の興味や関心を追求できる場所や仲間を求めて「メロウ倶楽部」に集ってきます。人生100年時代なんですから、もっと好奇心を発揮して、学び、仲間を広げ、一人ひとりが輝いていけるといいなと思います。

老いてこそデジタルを!
「hinadan」アプリ制作の挑戦

デジタルに親しみだしてから、「そういえば高齢者が楽しめるアプリがないなあ」と思っていたのです。若い人に「つくってよ」とお願いしたら、ご自分でやってみてはと言われ、「それなら挑戦してみよう!」と思ったのが、iPhoneアプリ「hinadan」開発の発端です。

もちろん、アプリのすべての自作は難しいので、詳しいお友達にネットで教えて頂きながらつくりました。ゲームそのものは、ひな人形の飾り棚にお雛様、お内裏様、3人官女や従者を正しい位置に置くというシンプルなものですが、実は知識がないと難しい。お年寄りに有利なゲームにしてみました。

高齢者のITリテラシー向上は重要です。勉強や生活に必要な情報を得る、買い物や手続きができる、人とのつながりをつくれるなど……これからますます大切だと思います。

ただ、私も参加している政府のプロジェクトでの標語「ノーワンレフトビハインド(誰もおいてけぼりにしない)」の実現は、本当に簡単ではない。

ですので、高齢者にもデジタルにまずは触れてほしい、という思いからいろいろな取り組みをしています。以前、表計算ソフトで日本の伝統絵柄を簡単に作れる「エクセルアート」をつくったのも、「hinadan」に続き、先日「nanakusa」というアプリをつくったのも、そういう思いからなのです。

ハッシュタグ人間になろう

男性で大企業に長年勤め、肩書を得た方は定年後お友達ができない、との悩みを聞きます。

私のお勧めは、「ハッシュタグ型の名刺」。自分が好きなもの、関わったもの、なんでもいいんです。大学生のころアラビア語をかじったとか、枝豆を茹でさせたら上手いなど。そういうことを伝えると、人が興味を持って反応してきます。反対は「フォルダー型人間」。長く暮らした会社組織の人間関係のなかだけに閉じこもることですね。

メロウ倶楽部には、「ドローンを使えます」とか「津軽三味線を弾きます」とかいろいろな方がいます。上手くなくてもいいんです。よく奥様が旦那様に「あなたは下手なんだからある程度弾けるようになってから」と言うらしいですが、関係ありません。兼好法師の時代から「こっそり自分で勉強してから披露する、という人は上手くならない」と言われてきたのです。「からっぺた」でもいいから自分のことを積極的に伝え、仲間を作る方がよいのです。

興味関心の接点をたくさん持って、友達をつくり、グループに入る。洋服にハッシュタグをつけて歩くような感じですね。ネットなら更にやりやすいでしょう。「#ドローン大好き」と登場すれば、ではドローンで遊びましょう、となる。「#」は持っているだけでなく、公開して人目にさらすことが大切です。

つながりを広げたい
自分の情報をどんどん出す、
試行錯誤や失敗も公開する

私がSNSで多くの方にフォローしていただいているのは、失敗も大っぴらに書くからでしょう。「失敗や試行錯誤しているマーちゃん(注;メロウ倶楽部でのハンドルネーム)」と伝わることは、実は大事なのではないでしょうか。

私は、いろいろな方と知り合いになりたい。外国の方ともです。お仕事の途中にいきなりお祈りをしたり、宗教儀礼は日本人と異なっていても、肉親が死ねば悲しむことでは同じ人間。

ですから、私は情報を「開けて」いく方です。日本では個人情報を守ろうとしすぎる面もあると思いますよ。身長や体重の情報などは見れば大体わかりますしね。悪用されない限り情報は開示した方がよいと個人的には思います。それで被害を被るより、助けられたことの方が多いと思っています。

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