Part.1 [みんな]を巡る問い

なんで今、[みんな]?

衆やマスというマーケティング視点を離れ、
[みんな]という生活者視点で
人のまとまりを捉え直す試み
大衆や分衆、マス、クラスタ、層……。
マーケティングの世界では、生活者のまとまりを表す言葉がたくさん生み出されてきました。
しかし、かつてのようにほとんどの人が同じような商品を買い、
同じ番組を見るということはなくなっています。
現在はもはや、まとまりなどない個の時代だともいわれています。
そのため、「衆」や「マス」といった捉え方自体も、あまり見聞きしなくなってきました。

一方で、生活者の日常会話のなかでは、
「みんな持ってるよ」「みんなやってるよ」といった言い方がいまだによく使われています。
人と同じことを楽しんで盛り上がりたい、人並みを探りたい、
という生活者の欲求は決してなくなっていないのではないでしょうか。

生活者のまとまりが見えにくくなった今だからこそ、生活総研はマーケティングの言葉を離れ、
[みんな]という生活者が使っている言葉に注目しました。
[みんな]の集まり方を捉え直すことで、新たな衆の力学を発見できるのではと考えたのです。

はたして、今の時代の[みんな]をどう捉えればいいのでしょうか。
それは、モノだけでなくヒトまでもデジタルでつながった、
「IoH (Internet of Human)」が本格化していくこの先の未来に、
どう進化していくのでしょうか。

Saya(サヤ)

TELYUKA(石川晃之さん、友香さん夫妻によるユニット)が
生み出した3DCGの女子高生キャラクター。
2015年にTwitterで公開され、「実写にしか見えない」と
世界中で話題に。初公開時は静止画だったが、2016年には
動きがつき、2018年には表情認識AIを取り込むなど、
進化と成長を続けている。
Sayaに様々なテクノロジーをかけあわせ、
クリエイティブとAI技術を融合させるプロジェクトが進行中。
Sayaproject.com

そもそも、[みんな]って何?

[みんな]の定義

今回の研究で取り上げる[みんな]とは、
準拠集団(人が何かを判断するときに
参考にする対象)のこと

「これは、みんなが持っている」
「今どき、みんなやってるよ!」
「みんなが薦めているから、いいお店なんだろう」
こういう言い方で使われるのが、今回の研究で取り上げる[みんな]です。

社会学における[みんな]という言葉の使われ方は、
「所属(する)集団」「準拠(する)集団」という2つのタイプに
大別できます。

今回、私たちがテーマとしたのは、
人が何かを判断をするときに参考にする、
準拠集団としての[みんな]です。

かつての大衆や分衆などの「衆」も、
準拠集団としての[みんな]と捉えることができます。
世論や世の中、流行なども、「人が判断の参考にするもの」
なので、準拠の対象といえます。

準拠集団としてのとしての[みんな]大衆や世間・世論など判断の参考・指針になる集団「みんなが○○しているから自分も‥」所属集団としてのとしての[みんな]グループやコミュニティなど自分が所属している集団「みんなで○○しよう」

どのように、[みんな]は
変化してきた?

嗜好も生き方も人それぞれになり、
[みんな]の共通項が成立しづらい時代に

日常生活で使われる[みんな]のなかで、おそらく最も範囲が広いのは「世の中の人びと」という意味での[みんな]でしょう。
その認識は、これまでにどのような変遷をたどってきたのでしょうか。

1970年代前半までは、高度経済成長とともに、日本人全体の生活水準が横並びで
底上げされていきました。
一億総中流ともいわれたこの頃には、日本人全体が大衆というひとかたまりの[みんな]
としてイメージできていました。

[みんな]に横並びする時代 [みんな]に横並びする時代

その後、80年代にある程度モノ(耐久財)が行き渡ると、人々は大衆と差別化された、
自分の価値観や嗜好に合った、ブランドやメディアに準拠するようになりました。
生活総研はこれを分衆(分割された大衆)と表現しました。

[みんな]と差をつける時代 [みんな]と差をつける時代

さらに00年代以降は、商品やコンテンツの多様化と、その情報を一人ひとりに届ける
ネットの普及が、嗜好の細分化をますます加速させています。

さらには、結婚・出産の時期も分散したり、そもそも結婚しない人が増え、
同じ年齢でも生活者の生き方・暮らし方は一律には括れなくなりました。

いつしか、 多くの生活者の生き方・暮らし方の軸になる意識は「みんなと同じがいい」
から、「人それぞれでいい」に変わっていったのです。

[みんな]を気にしない時代 [みんな]を気にしない時代

もう、[みんな]を
意識しない?

生き方・暮らし方の個別化に加えて、
収入の伸び悩みもあり、
[みんな]との差別化意識は減少しています

嗜好も生き方も人それぞれ、という意識が定着している現在、
[みんな]は意識されないものになっているのでしょうか。

生活総研の「生活定点」調査でも、生活者の[みんな]に対する意識の変化が
垣間見られます。「多くの人が同じものを持つと、興味がなくなってしまう」という意識が
長期的に減少しており、2018年には過去最低になりました。

多くの人が同じものを持つと、興味がなくなってしまうほうだ

分衆の時代のように「ほかの人と差をつけたい」と考える人が減ってきているのです。
今回の研究で行った街頭調査でも、
「一見同じように見えても、細かいところでは違いがあるし、自分のこだわりに
納得しているのだから、ほかと比較する必要はない」という声も聞かれました。
このように差別化意識が減少する背景には、結婚・出産などの時期が揃わなくなり、
[みんな]が比較対象になりにくくなったことが考えられます。

また、世帯月収が長期的に伸び悩んでいることも影響しているでしょう。
消費に回る原資が抑えられ、[みんな]の流行や動向を気にする余裕が減っているのです。

可処分所得(月額)の推移

このまま、
[みんな]はなくなる?

生活者は自分にふさわしい
新しい[みんな]を探し始めています

嗜好も生き方も人それぞれになり、お金の余裕もない現在。そんな環境では、確かに[みんな]に合わせたり、
逆に差をつけようという意識は
薄らいで当然かもしれません。

一方で、生活者は完全に一人ひとり別の方向を向き、
準拠集団としての[みんな]など必要としなくなったか
というと決してそんなことはないようです。
そもそも、ほかの国の人に比べて[みんな]を気にしがちだ
ともいわれる日本人の性質は、今でも健在なのです。

例えば、SNSで自分が準拠したい相手を見つけるツール
ともいえる#(ハッシュタグ)。
Instagramでは、日本人はこのツールを世界平均より
非常に多く活用しています。

[みんな]の共通項が見えにくく、お金の余裕がないなかで、生活者はそのときどきで自分に本当に必要な[みんな]を、自ら探し始めつつあるといえるのではないでしょうか。

Instagramの日本ユーザーが#(ハッシュタグ)検索をする回数 世界平均の約3倍(2018年5月時点 Instagram調べ)

いったい、[みんな]の
何が変わった?

[みんな]は漠然とした群れから、
はっきり実像を掴める個の集合体に
変化しつつあります

SNSやレビューサイト、Q&Aサイトなどのいいね!数、フォロワー数、RT数
といった指標は、そこに集まる[みんな]の規模や盛り上がりの度合いを、
イメージではなく、明確な数値として
可視化しました。

また、個々人のIDの集合体として
成り立つことで、[みんな]は顔の
見えない不特定多数の集団ではなく、
構成する一人ひとりを特定できる
集団になりました。

さらには、[みんな]に対して自ら意見や
情報を投稿し、評価や賛同を得る
という双方向のやりとりも
可能になりました。自分が
[みんな]に準拠するだけではなく、
自分が[みんな]から準拠される存在にもなっているのです。

デジタル化がもたらしたこうした変化は、[みんな]を実像がはっきり掴める存在にし、
生活者の[みんな]に対する向きあい方を変えつつあるのです。

→[みんな]の高解像度化 →[みんな]の高解像度化

SNSなどで生活者自身が情報発信することが当たり前になった現在、
[みんな]は、実像をはっきりと掴める個の集合体へ変化しています。

言い換えれば、これまでずっと曖昧にしか答えられなかった
「[みんな]って誰だ?」という問いの答えが明確に出せる時代になっているのです。

この変化を、私たちは「[みんな]の高解像度化」と名付けました。
IoT(Internet of Things)や5Gなど、今後、生活のなかに浸透していく新しい技術によって、
高解像度化はさらに加速していくはずです。

では、高解像度化が今より一層進んだ未来には、どのような新しい[みんな]が生まれるのでしょうか。

Part.2 未来に生まれる6つの[みんな]

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