自分の言葉でジャーナリングして
感情が整理され、
結果として行動が
変わるきっかけになったらいい
大杉麿睦(おおすぎ・まろむつ)
予約サイトやECサイトなど様々なwebサイトの開発およびプロジェクトマネジメントに従事し、現在はmuuteプロダクトオーナー。
予約サイトやECサイトなど様々なwebサイトの開発およびプロジェクトマネジメントに従事し、現在はmuuteプロダクトオーナー。
muuteは「AIが思考と感情を分析してフィードバックをくれるジャーナリング・アプリ」として2020年12月にリリースされ、2025年末までにダウンロード数が160万を超えるなど、想定以上に多くのユーザーに利用していただいています。このアプリの企画にあたっては、まずZ世代にターゲットを絞ってウェルビーイング領域に関するリサーチを行いました。彼ら・彼女らの生活のどういったところに弱みや軋轢があるかを探索していくなかで、この世代のみなさんが「自分らしく生きたいけど、自分についてよくわかっていない」というコンフリクトを抱えているという課題が抽出されました。
この課題を解決するものとして、そのときの感情や頭に思い浮かんだことをそのまま書きだしていくことでメタ認知や自己理解を高める「ジャーナリング」という手法に注目し、muuteの開発に至りました。ただ頭のなかにあるものを書き出すだけでなく、AIを取り入れたフィードバックによって、より自己理解を深められるサイクルをつくるプロダクト体験を目指しています。Z世代を対象にしたデザインリサーチから生まれたアプリですが、Z世代に限らずいろいろな人にやってほしいという気持ちがあり、インターフェースもジェンダーニュートラルにしています。ただ実際にはユーザーの8割以上が女性で、年代では20~30代で6割強になりますから、「若い女性たちがメインユーザー」ということになります。
ユーザーに20~30代の女性が多い背景としては、昔より取れる選択肢が多くなってきている分、「自分らしく生きるってどういうことだろう」と感じる機会が増えているのかもしれません。キャリアや転職、ライフステージ、パートナー、共働きなどの選択肢が多様化しているなかで、その世代の方々が積極的にアプリに打ち明けてくれている傾向があるのではないでしょうか。
企画段階のリサーチでは、「自分らしく生きたいけど、自分についてよくわかっていない」という大きなコンフリクトに付随する「サブ・ペイン」のような、いくつかの悩みが抽出されています。大きく三点に分けて紹介すると、ひとつ目は「いろんな選択肢があり過ぎる」というものです。Z世代は、昔のように「このレールに乗れば安定だ」というものがなく、親世代とか先輩たちから「好きなように生きろ」というメッセージを受け続けてきたような人たちです。しかし自由度が高過ぎて背負いきれなくなっている人がそれなりにいるようです。
ふたつ目は、オンライン・オフラインの両方で「関係するコミュニティ」の数がすごく増えたことです。参加しているコミュニティによっていろいろな顔やパーソナリティを使い分けること自体は良いのですが、それによって「自分ってなんだろう」と思いやすくなっているようです。三つ目は、SNSの台頭により「比較するマインドセット」へと変わってしまったことです。自分より華々しく活躍している人が目に入るとどうしても自分と比較してしまうし、本当は目の前のことにフォーカスしないといけないときに、その瞬間の自分とは関係がないことに心が向いてしまいがちになります。ですから、「自分らしく生きたい」と言語化されたメイン・コンフリクトは、本質的には、これらの理由で目の前のことに集中できなくなっている、ということのような気がしています。
実際のユーザーによるmuuteの活用の仕方はひとつではなく、「自分が向かう方向のコンパス」のチューニングのためにつかう人や、日記代わりにつかってくれる人、「明日何をしたらいいか」を考えて書きだす用途や、自己啓発的に「自分がやるべきことをやれているか」を確認する用途、さらにはSNSの「裏アカ」的にネガティブな感情をひたすら吐露する相手としてつかっている人など、人によって様々です。どこでもつかえるスマホアプリということもあり、生活に溶け込むぐらい日常的につかってくださっているコアなユーザーの方もいますね。
ユーザーの感情データはあまり分析しないようにしてきましたが、体感的にはネガティブな感情を書いている人の方が多いように感じています。それに感情がネガティブでないとジャーナリングするモチベーションも大きくないでしょう。

投稿内容のプライバシーが保護されていることで、ほかの誰にも言えない内容を吐露してくれるケースが多い一方で、おもしろいことに、マインドマップをはじめとするアプリがフィードバックとして返すビジュアルはSNSでみなさんシェアするんです。プライベートなことは知られたくないけれど、最終的には「何かを人とシェアしないと気が済まない」ところがあるみたいですね。
聞いてくれる相手が人だろうが人でなかろうが、自分の言葉で言語化した瞬間にテンションがリリースされ、感情自体の絶対量が減っていきますから、muuteの効果としてもまずはそれが大きいと思います。人に聞いてもらって「そうだよね」と共感してもらえると、より「リリースされている感じ」がするかもしれませんが、自分ひとりでジャーナリングして言語化していくだけでも感情が整理されていく現象が起こるのです。まとまった時間ジャーナリングに取り組むと、集中力を伴うある種の「フロー状態」に入ります。作業を通じて一定の達成感を得ることでホルモンの作用も出てきますし、書くことには運動と同じような脳の領域をつかいますから、ただネガティブな感情を吐きだすだけだとしても何かしら生理的な効果が期待できます。
ユーザーから直接話を聞くと、「自分のことがよくわかりました」みたいに思考や感情が整理されたことの直接的な感想というよりは、「なんか調子がよくなりました」くらいの生活のなかでの実益を話してくれる人が多いかもしれません。「不登校だったけど、学校に行けるようになった」といった行動の変化を教えてくれる人もいます。muuteそのものは行動変容を促しているわけではないですが、結果として行動が変わるきっかけになったらいい。感情は行動の結果として表れる副産物のようなものだと思います。「以前より外に出るようになった」「人と交流するようになった」などの「それまで行動できなかったところから、行動できるようになった」タイプの変化が起こるのは良いことだと思いますし、muuteがきっかけで起こったそういった変化が計測できたらうれしいですね。

大阪大学大学院 人間科学研究科
教授 山田陽子氏

筑波大学 人文社会系
教授 土井隆義氏

精神科医・作家 熊代亨氏

奈良先端科学技術大学院大学
先端科学技術研究科
助教 日永田智絵氏

合同会社CGOドットコム
総長 バブリー氏

no plan 株式会社
CEO 芹川葵氏
CXO 神山紗貴子氏
COO 岡田晃治氏

株式会社ENTAKU produce
代表 明円卓氏