調査からみる
未来の時間風景
有識者コメント
本川 裕氏
アルファ社会科学 株式会社

統計データ分析家
1951年生まれ。東京大学農学部農業経済学科卒業。国民経済研究協会常務理事研究部長、立教大学兼任講師を経て、アルファ社会科学株式会社主席研究員。
ネット上の統計グラフ・サイト「社会実情データ図録」を主宰。
主な著書に『統計データはおもしろい!』(2010年)、『統計データはためになる!』(2012年)、『統計データが語る日本人の大きな誤解』(2013年)、『なぜ、男子は突然、草食化したのか』(2019年)

今回の分析結果を有識者はどう捉えているのか。国内外の様々な統計データに詳しい、本川裕氏に、分析データをご覧いただきながらお話をうかがいました。

今回、私がみせてもらったコウホート分析は2016年までのデータを利用して、15年先の2031年までの変化を推計しています。50年後ということなら別ですが、15年程度先の未来なので、生活そのものが根本的に変わってしまうような、そこまで衝撃的な大変化が起きているわけではない、というのが全体的な所感です。

とはいえ、現在の流れの延長上で、着実に変化が進んでいると感じられるものもいくつかあります。例えば「家事」の減少や、「仕事」の男女差縮小は、女性の労働参加と、それに伴う家事の時短化・外注化の進行を受けた変化だと思われます。

また「交際・付きあい」「テレビ・ラジオ・新聞・雑誌」の減少は、スマートフォンなどのデバイスの普及によりインターネットが身近になったことの影響を確実に受けています。直接対面で行っていた友人知人とのコミュニケーションが、SNSなどネットを介したものに移行して時間が短縮されたり、情報を得るメディアがネットに代替されたりしています。「趣味・娯楽」の増加についても、ネットで配信される映像・音楽作品の視聴が増えたためともみてとれ、改めてネットの影響力の強さが感じられるデータではないでしょうか。

概して、生活者は自分の時間の使い方をより「自由」なものにしていこうとしているのではと感じます。データにもあるように趣味や娯楽の時間は増やしていきたいし、楽しさにつながりにくい家事などの用事は極力減らしていきたいわけです。ただ日本の場合、社会保障制度を維持するという観点からいっても、一人ひとりの生涯労働時間はどうしても増えていかざるを得ない。

そのときに「今は労働、今は遊び」というように、苦労と楽しみを切り分けていたのでは、トータルの人生として面白みが乏しいし、気力がもたないのではないか?と感じます。むしろ「遊びながら働く」というように両者の区分けをはっきりつけずに生活したり、「それぞれが思い思いのタイミングで遊ぶ」など、時間的なピークを平準化した方が、時間の過ごし方の幸福度は上がっていくのかもしれませんね。

2031年に増える時間、
減る時間 総務省「社会生活基本調査」をもとにしたコウホート分析より

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