本研究のねらい 本研究のねらい

2040年へ 
ロングスパンに向かう
社会の関心

今、巷では2030年や2040年の未来予測をテーマとした書籍や番組が溢れています。世の中がロングスパン思考になっていることを表していますが、その背景には何があるのでしょうか。

ひとつは着実な進歩よりも、大きな変化をもたらすイノベーションを重視する流れがあるでしょう。多くの領域で市場が成熟するなかで、その状況をがらりと変える未来構想が求められるようになっているのです。

そしてもうひとつ、やはりコロナ禍の影響は無視できないでしょう。デジタル/リモート技術を中心に、10年分の未来を一気に前倒して実現したといわれることもあります。そこで人びとが感じたのは「時代の加速感」でしょう。その加速感には、遠い未来を近い未来に感じさせる効果があります。だからこそ、もっと遠い未来に関心が集まるのだと考えます。

人口動態や技術だけでなく、
生活者視点からの未来論

2040年の未来を考えるとき、陥りがちな点があります。それは、人口動態や技術進化が未来を決定してしまうかのような錯覚にとらわれることです。

しかし、いつの時代も生活者の意志によって新しい技術の受容と拒否、あるいは変容が起こってきました。人口動態の変化に対して家族のあり方や暮らし方を変化させて対応してきたのも生活者です。

だからこそ、現在よく見かける未来論とは異なるものとして、博報堂生活総合研究所(以下、生活総研)では未来に起こりうることに、生活者の視点から考察を深めていきたいと考えました。未来の生活者は何に驚き、喜び、悩み、そして何を語りあうのでしょうか。

生活者の中にある
未来の「ふつう」を探る

生活者視点で未来を考えるに際して、今回キーワードとしたのは「ふつう」です。生活者の「ふつう」とは、暮らしの中での判断や行動の前提となる価値基準のことです。コロナ禍では、働き方や人とのつきあい方などで「ふつう」ががらりと変わってしまいました。例えば、「在宅勤務」は以前から知ってはいることでしたが、多くの場合“あり得ない”と考慮もされない状況でした。それは、「ふつう」ではないということです。しかし、コロナ禍後には選択肢として“あり”、つまり「ふつう」に変わったのです。そしてその「ふつう」のもと、仕事や家庭における役割分担や時間の使い方などにも変化が波及しました。未来においても「ふつう」が変われば、様々な生活様式も変わっていくはずです。

20年後の生活者の「ふつう」は、いきなり立ち現れるものではありません。生活者の中で潜在的な不満や願望が着々と大きくなり、あるきっかけで表出しただけだと考えることができます。そこで生活総研では、生活者が潜在的に「未来に実現するだろう・してほしい」と考えていることに着目することで、やがて訪れるかもしれない「ふつう」の行方を描き出すことを試みました。

イラスト