博報堂生活総合研究所 みらい博2025 働き直し 仕事が変わる。日本が変わる。

「学ぶ」と「働く」の循環から、
自分だけの「理想の働き方」が
みえてきます

福田恵里(ふくだ・えり)

SHE株式会社 代表取締役 CEO・CCO

パソコン1台で働ける
「手に職」スキルは女性にこそ必要

SHE株式会社は、主な事業として女性向けキャリアスクール「SHElikes」を運営しており、これまでの受講者数は17万人以上です。webデザインやwebマーケティングといった、時間や場所に縛られずパソコン1台で働ける「手に職」スキルを学び、就労支援をサポートしています。プログラミングなどのスキルを学べるスクールや、キャリア構築をカウンセリングしてくれるサービスはほかにもありますが、SHEではキャリアカウンセリングからスキルの提供、就労支援、マインドの変革の支援まで一気通貫で行っていることが特徴で、女性に自信をつけてもらうことを大事にしています。
私が大学生のときにサンフランシスコに留学した際、現地で出会ったスタートアップや起業家に衝撃を受けて、自分でも「アイデアを形にするスキル」を身につけたいと考えるようになりました。そこでwebデザインやプログラミングのスクールに通いはじめたのですが、生徒のなかで私しか女性がいなかったことに違和感を持ちました。女性にこそパソコン1台で在宅で働けるスキルが必要なのに、「女性はパソコンが苦手」という先入観で選択肢を制限してしまっている人が多い。そこに気がついて、大学在学中に初心者の女性向けのwebデザインスクールを立ち上げ、だんだんとスキルや職種の幅を広げていき、現在のSHE株式会社の創業につながりました。

「試す」体験を重ねることで、
自分の好きが発見できる

スクールをはじめてから何百~何千人という女性と話をしてみると「私はwebデザインを学びたい」「プログラミングを学びたい」という明確なビジョンを持った方は多くなく、「パソコン1台で自由に働けるスキルが欲しいが、自分は何が向いているのか、何がしたいのかわからない」という悩みを持つ方が多いことがわかってきました。
私自身も、やはり大学生の頃は何が向いているのかわからず、手当たり次第試してみた結果、webデザインという向いている仕事を見つけることができました。けれども今の世の中には「試す」という体験が圧倒的に足りず、キャリア構築の上で課題になっています。その仕事が自分に向いているのかわからないのに、スクールに何十万円も払えませんよね。
そこでSHElikesでは、45以上のいろいろな職種のコースをつまみ食いで試した上で、今の仕事を続けながらスキルを習得し、SHEが紹介する案件でおためし副業ができる「おためし転職」というプログラムを提供しています。webデザインに興味があるから試してみたけど、やってみたら思っていたのと違ったから今度はwebマーケティングを試してみる。そうやって複数の職種を経験していくことで「○○ってこんなに楽しかったんだ」と自分の好きなことを見つけることができるのです。
SHElikesで提供している講座のなかで人気の仕事は、webデザインやwebマーケティング、webライティングや動画制作などです。「パソコン1台で、どこに住んでいても働ける」ことがこれらの仕事に共通する人気の理由と思われます。また、「表現」に関わる仕事であることも特徴です。デザインであればビジュアル化、ライティングであれば文章、動画であれば映像表現といったように、クリエイティビティを発揮して仕事することに憧れを抱いている方が多いようです。
「好きなことを仕事にする」というと起業やフリーランスになるキャリアを想像する方が多いかもかもしれません。しかしSHElikesの利用者には、企業に属しての仕事をライスワークとして継続しながら、副業として好きな仕事で稼いでいくことを両立している方が非常に多いです。副業がだんだん育っていき、本職の収入と同等かそれ以上になった段階で、フリーに転身したり転職される方もいらっしゃいます。

100人100通りの
夢とキャリアを応援し、伴走する

SHEでは「一人ひとりが自分にしかない価値を発揮し、熱狂して生きる世の中を創る」ことを理念として掲げており、その実現のために利用者の方の「伴走者」であることを大事にしています。現代では動画共有サービスやサブスクなどスキルを学ぶ手段はいくらでもありますが、数多くのスキルのなかから自分のやりたい方向性を見定め、取捨選択するのは簡単ではありません。そこで私たちは、コーチングで利用者にとって理想のキャリアを一緒に言語化して、「まずはここからやってみよう」という次のステップとしてそれぞれの講座につなげることで、道筋が明確になるように工夫しています。
卒業生の方は100人100通りのグラデーションがあるキャリアを形成されており、「これが王道です」という決まったロールモデルがないところも私たちのサービスの良さだと感じています。 いくつか例を挙げると、大手企業で接客の仕事をしていた人が、副業が解禁されたことでSHElikesに通い、フリーのwebデザイナーに転身しました。以前の会社では昼夜逆転が多く、体調を崩すことも多かったそうですが、現在はwebデザイナーとして成功して年収も上昇しました。別のケースでは、パン屋のパートをしていた地方在住の方がSHElikesに通って起業し、現在では起業コンテストに応募したり資金調達を行うなど精力的に活動されています。
利用者の方のコミュニティが熱狂的なこともSHEの特徴で、例えばSNSで検索すると「SHEで人生が変わった」といったことを多くの方が自発的に投稿してくれています。コミュニティは組織によらない概念的なものですが、SHElikesではコミュニティサイトを用意して利用者の方からコミュニティプランナーを任命したり、「自分の夢も他人の夢も否定しない」といった約束を設けたりなど、仕組みを通じて応援しています。
私たちは、カリスマの存在を前提としたピラミッド型のコミュニティではなく、SHEのビジョンに惹かれて集まった人たちが形づくり、どの立場からでも何かしらのGIVEをすることができる「球体型のコミュニティ」をつくることを目指しています。昔から在籍している人は後輩にTIPSを伝えることができたり、新しく入った人はコミュニティ運営の改善点を見つけられたりと、それぞれの立場からGIVEできるようになっています。こうした「私はここにいてもいいんだ」という自己肯定感が、コミュニティにとって重要だと思っています。

「学ぶ」と「働く」の往還が、
次のキャリアを形づくる

この2~3年で、「リスキリング」という言葉が定着したり、三位一体の労働改革にともなって賃上げの強化や労働移動の円滑化などもぐっと進むなど、「学び直しにより生産的な職種に労働移動しよう」という動きが国や社会全体で活発化しています。解雇規制の緩和も話題に挙がっていますが、ただ経営者側に有利に働くだけでなく、労働者側にリスキリングや再就職支援の機会を与えることが必要でしょう。終身雇用が崩壊して雇用の流動性が上がるなかで、これからは学び続けてアップデートしなければならない時代になってくると思います。
SHEでは「『学ぶ』と『働く』の循環型プラットフォーム」というコンセプトを掲げています。何かのスキルを学んで転職したらそこで終わりではなくて、例えばデザインの勉強をしてデザイナーに転職した後も、成果の出るデザイナーを目指してマーケティングを学んだり、アートディレクションの知識を増やしたりする。そうやって自分の足りないところを自覚して絶えず学び続けると、その先に次の目指すキャリアが生まれてくるはずです。学びと仕事を分断するのではなく、行ったり来たりする姿が求められてくると思います。

「理想の生き方」を問うなかで
「理想の働き方」が見つかる

女性管理職比率が徐々に上がってきていたり、M字カーブ(結婚や出産に伴うキャリアの停止)も改善傾向にあるなど、仕事に関わるジェンダーギャップは少しずつではありますが解消されつつあり、これからの改善にも期待が持てると思います。
一方で、女性が働く上ではほかにも様々な問題があります。例えば、周りの女性からよく「会社にロールモデルがいない」という話を聞きます。プライベートを後回しにして仕事に注力している女性や、逆にワーク・ライフ・バランスを大切にして仕事に打ち込むことを諦めているような人しか周りにいないというのです。家庭と仕事を両立することをはじめ、「あんな人もいるんだ」と思えるようなロールモデルを増やしていきたいです。
海外には「ギャップイヤー」を大事にする文化があり、いろんな組織でインターンをしたり、大学院に行ったりと、自分で選択した時間を過ごすことで可能性を広げて、キャリアを拓いていますよね。日本でもそういった自由な選択ができる空気が広がっていくといいなと思います。
また、SHElikesの受講生の方やSHEの社員を見ていても、ほとんどの人は働くことと適度な距離をとるようになっており、仕事を一番のプライオリティに置かなくなっている印象があります。以前は「仕事」が生活のほとんどだったところから、現在はいい意味で「仕事」と、「家族」や「趣味」など仕事以外の生活とを切り離さずに「ワーク・ライフ・ミックス」として捉えて、人生まるごととして楽しもうとしている人が増えているのでしょう。仕事への優先度が低いというわけでは決してなく、前時代的な「仕事への執着」がなくなってきているということであって、悪いことでもないと思います。
SHEの利用者の方にも、「理想の仕事」というよりも「理想の人生」を問う場面が多いです。例えば、「旅をしながら働けるデザイナー」のような働き方は、仕事という観点だけで考えても出てきません。理想の働き方は、実は「自分にとっての『理想の生き方』って何だろう」という問いを工夫することでみえてくるのかもしれませんね。

福田恵里(ふくだ・えり)

SHE株式会社 代表取締役 CEO・CCO

1990年生まれ。リクルートホールディングスを経て、ミレニアル世代の女性向けにキャリア支援を行う「SHE」を設立。主要事業としては、キャリアスクール「SHElikes(シーライクス)」のほか、ファイナンススクール「SHEmoney」などを運営。2020年より現職。

福田恵里(ふくだ・えり)

SHE株式会社 代表取締役 CEO・CCO

1990年生まれ。リクルートホールディングスを経て、ミレニアル世代の女性向けにキャリア支援を行う「SHE」を設立。主要事業としては、キャリアスクール「SHElikes(シーライクス)」のほか、ファイナンススクール「SHEmoney」などを運営。2020年より現職。

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