フリーランスになってから、


「身の回りの領域への興味」がモチベーション
現在の働き方と、そこに至るまでの職歴を教えてください。
モエ:現在はフリーランスのwebディレクターとして、平日・休日を特に分けずに仕事をしています。最近セレクトショップをはじめましたが、それも趣味みたいな感じです。そのうち境目を作った方がいいのかなと思いつつ、今は平日と休日、趣味と仕事の境目がない感じで生きています。
元々文系でしたが、就活で偶然受かったシステム会社に就職して流れでSEとして働きはじめました。webディレクターに方向転換して転職、ECや広告の制作に携わった後に、独立してフリーランスになりました。また、2023年の冬にネコにまつわるヴィンテージ古着や雑貨、猫のためのおもちゃなどを取り扱うセレクトショップをはじめて、半年後に実店舗もオープンしました。
モエさんははじめからフリーランスを目指していたんですか?
モエ:フリーランスになるなんて頭になく、仕事も楽しかったので、普通にずっと会社員として生きると思っていました。今は結婚していますが、はじめは結婚願望もなく、「多分このまま仕事人間として生きていくんだろうな」という感じでした。
一方で、「出世したくない」とは思っていました。人のことを管理したり、社内特有の調整ごとなどが嫌いで。とは言え、会社員だといつかは出世以外の道がなくなるので、「そのとき、自分のキャリアをどうしようかな」みたいなことはふんわりと考えていました。
若い頃は仕事へのモチベーションが高かったんですね。
モエ:「仕事」という感覚があまりなかったですね。ECシステムに関わっていたときは業務効率化や売上向上のための施策を考えるのが純粋に楽しかったですし、webディレクターになってからもwebサイトを設計したり分析したりするのが純粋に楽しかった。「仕事だからやる」「誰かのために働く」ではなく、「単純にこの領域に興味がある」ことがモチベーションだった感じです。
あとは会社や仕事を選ぶときに「自分に身近なものごとに関するもの」という軸があります。例えば私は「半導体を作る」みたいなことだと、自分の仕事が何のどこに影響を与えているかが想像しづらいのであまり興味が持てないんです。最初にSEとして就職した会社は誰でも知っている小売系の会社だったのと、webディレクターとして転職後に携わった仕事も写真やアート、ライフスタイルといった身近なテーマの案件が多かったので、仕事が楽しいと思えていたんだと思います。
メンタルを壊し、フリーランスに
会社での仕事を楽しんでいたモエさんが、独立してフリーランスになるまでにどんないきさつがあったのでしょうか?
最初の会社でバックエンドエンジニアとして働くなかで、徐々にユーザーに近い仕事をしたいと思うようになり転職しました。そこでECやwebサイトの制作・運用の知識と経験を積んでいくうちに、「会社に捉われずにやれることはないかな」と思うようになりました。
そこで、猫に関する事業を展開している会社で副業をはじめました。猫という好きなことに携われて、かつ広い範囲の仕事を任せてもらえたので楽しかったですし、自分のスキルが外でも役に立つことが分かり、ますます「会社に縛られる必要ないな」と思うようになりました。その後、その副業先に転職したり、元いた会社に戻ったり、また別の会社と副業したりしながら、これからの自分の進む道を模索していました。
まずは会社の仕事と社外の仕事のダブルワークから始まったんですね。
モエ:ところが所属していた会社の状況が変わり、仕事量も増え、内容も大きく変わりました。一個一個の仕事に集中して丁寧にこなしたいタイプなので、量が増えて全部の仕事が浅くなってしまうことが大きなストレスになったんです。同時に「自分は会社に縛られず、他のこともやりたい」という気持ちもどんどん大きくなっていきました。
そしてある日の勤務時間中に、急に仕事ができなくなってしまいました。メンタルを壊して一旦休職することになりましたが、「もうこの会社には戻れない」と漠然と思っていました。
なるほど。それがきっかけでフリーランスになったんですね。
モエ:ただ、「会社に縛られずに色々な仕事をしたい」という気持ちはありつつ、独立して生きていけるかの知見もなかったので、退職後もまずは転職活動を始めました。けれども「会社に縛られたくない精神」が強くなってしまってなかなか気が乗らなかった。そこで「とりあえず独立してみるか….」みたいな感じでフリーランスになりました。メンタルを壊したから独立しただけで、「満を持して」という感じでは全然ないです(笑)。
フリーランスになる前後で、仕事の価値観が変わった
フリーランスとして働くようになってからは、体調もいいようですね。
モエ:働く時間もペースも自由なので、会社員のときよりも体調はいいですが、気持ちの変化の方が大きいですね。根幹にあるのは、会社員時代に「自分がこんなに死にそうになるほど仕事しても、結局幸せになるのは会社だけだな」という精神です。私にとって仕事が楽しかろうが辛かろうが、会社の利益に繋がっているだけ。たしかに会社の先には社会や人が広がっていますが、「でも究極のところ、その人たちって私のこと知らないしな」と思ってしまった。
そういう考え方が入ってしまってからは、「自分が食ってくために仕事をしている」とか「自分と同じように猫が好きな人たちと楽しく過ごすために店をやる」みたいに、自分にとっていいように生きるために働くんだと考えるようになりました。「あの人のためにこうしなきゃ」とか無駄な気遣いもないし、プレッシャーもない。この働き方ができることで生きるのが楽になったので、そういう意味では一回メンタルを壊して良かったと感じます。
フリーランスでwebの仕事をするだけでなく、セレクトショップを開いたのはどんな理由があるのでしょうか。
モエ:自分が60歳、70歳と歳を取ったらwebの仕事はできなくなると思っています。けれども「何かを仕入れて売る」という商売だったらおばあちゃんになってもやっていけそうなので、「終活の一環」として始めた面があります。30代中盤の今の時点でも、webという最前線の業界で若い世代の人たちと戦う気力がなくなってきています。だからいつwebの仕事を辞めて一人でも生きていける道を作っておかないとダメだなと思ったんです。
モチベーションや価値観の変化こそありましたが、働くことそのものにはネガティブな話が出ませんよね。モエさんはやはり働くことが好きなんでしょうか?
モエ:そうだと思います。若かった頃はキラキラしながら目の前の仕事を楽しんでいた。今はキラキラという感覚とは違うけれど、楽しいです。当時のモチベーションとは違うジャンルの、新しい充実感がある感じがします。
このインタビューのお話をもらったときに「『働く』という表現って、難しいな」と感じました。「働く」というと「誰かのため」「会社のため」「お金のため」みたいな、「やらされている感」が強いイメージがあります。でも、フリーランスになってから私にとっての「働く」は「自分のため」「自分のお金のため」で、「働く」というよりも「生きている」という感じです。
フリーランスになるまでは、自分の範囲外のことも手伝ってしまうタイプで、業務を抱えがちになってしまうタイプでした。けれどもフリーランスになってからは徐々に「その分のお金はもらっていないから、やらない」といい感じにコントロールできるようになってきました。「自分が生きるために働く」ということのペースが掴めてきたから、フリーランスでも楽しく生きることができている気がします。
「自分にしかできないこと」を見つけるために、まずは会社で働いてみる
もしお子さんができたら、どんな仕事をしてもらいたいですか?
モエ:こんなことを言ったら社会から怒られそうですが、社会貢献よりも、自分を大切にして欲しいなと思います。最悪本人が働けなくなっても周りに迷惑をかけなくて、命の危険がなくて、かつ本人が楽しいことを仕事にして欲しい。
私自身が、自分のキャパシティを超えた情報を取り入れすぎると余裕がなくなって心を病んでしまうので、常に心の平穏が保たれる範囲で生きてくれたらいいなと思っています。
若い世代には、フリーランスの自由な働き方や、自分にしかできない仕事をすることに憧れる人が増えています。けれどもモエさんははじめからそうだったわけではないんですね。
モエ:私は元々フリーランスやショップオーナーを目指していたわけじゃないですが、結果として今までのキャリアを総動員する感じになっています。
SE時代にはECシステムを作り、別の会社ではECサイトやwebサイト、SNSの運営、そしてアートやライフスタイルに関するwebメディアに携わっていました。プライベートでは猫にどっぷりハマりました。
そして猫にまつわるセレクトショップを開いた今、オンラインショップ(EC)も自分で運営し、猫に関するアートブックや雑貨も取り扱い、SNSも自分で回しています。考えてみると今の私の仕事は、今までの自分のキャリアと趣味とが融合して出来ていて、「これって自分のキャリアの集大成じゃん」と思ったんです。
私の場合は会社員時代に身につけられたスキルと経験があるからこそ、今の自分があると思っています。「自分にしかできないこと」を会社に属さずに見つけるのってすごく大変だと思うので、フリーランスの自由さに憧れている若い人たちも、まずは会社に属した方がいいと私は思います。