2023.05.31

–日経クロストレンド 連載㊵–

「全年齢層で共通して歌われる曲」は10年間で5倍に増加

執筆者:生活総研 上席研究員 伊藤 耕太

こちらは「日経クロストレンド」からの転載記事です。

年齢層間の価値観の差が小さくなっている――。2023年1月19日に公開した本連載の37回では、そんな「消齢化」の実態を博報堂生活総合研究所の研究員がリポートした。今回の40回では、さらに深掘りして、11年間分ものカラオケの歌唱データを分析することで消齢化の実態を探る。全年齢層で歌われる曲を見ていくと、興味深い特徴が見えてきた。

「20代は○○な人」といったように、価値観や嗜好を年齢層によって塊として捉えることはよく行われます。しかし以前は大きかった年齢層による価値観や嗜好の違いが、実は年々小さくなっていることが分かってきました。博報堂生活総合研究所(以下、生活総研)ではそれを「消齢化」と名付け(2023年1月19日記事)研究を進めています。

このたび生活総研では、エクシング(名古屋市)との共同研究として同社が展開する通信カラオケ「JOYSOUND」が蓄積してきたデータのうち、12年からの11年分のカラオケ歌唱データを分析し、「消齢化」の実態を「好きな曲を選び、歌う」という生活者の行動から検証しました。

カラオケの歌唱データから見えてくる生活者の変化とは……(画像/Shutterstock)

「全年齢層で歌われる曲」は10年間で5倍に増加

研究に用いたのはJOYSOUNDの「うたスキ」会員(登録無料)の12年以降の歌唱データランキングTop 200のデータです。まずは直近の22年データまでの11年間の間に「10代から60代までの全ての年齢層で歌われる曲の数」がどのように推移してきたのかを見てみましょう。音楽のデジタル化やサブスクリプションの普及などが進んでいますから、年齢層が異なれば好き好きにバラバラな曲を聴くようになり、全年齢層で共通して歌われる曲の数も減っているように思われるかもしれません。実際の歌唱データではどうでしょうか。

次のグラフは「各年に10代から60代までの全年齢層で共通してTop 200に入っていた楽曲タイトル」をピックアップしたものです。ご覧のように減っているどころか逆に増えていることが分かります。

12年に全年齢層で歌われていたのは4曲にすぎませんでした。例えばAKB48さん「ヘビーローテーション」、高橋洋子さん「残酷な天使のテーゼ」などです。

ところが、その曲数は16年から急速に増え始め、21年には23曲に達し、直近の22年でも20曲となっています。つまり全年齢層で歌われる曲は、10年間で4曲から20曲へと5倍に増えているわけです。

年齢層は違っても、同じように歌える曲が増えてきている。22年でいえば優里さん「ドライフラワー」やAimerさん「残響散歌」などの多くがそのような曲であるといえます。

「ドライフラワー」は別れた恋人たちの気持ちを女性目線で歌った切ないロックバラード、「残響散歌」は疾走感あるアニメーション作品の主題歌です。データからはこうした曲を10代だけでなく60代もよく歌っているということが分かります。

海外の生活者を対象に行われた調査では、音楽の趣味は30代前半までに固まってそれ以降新しい音楽を聴かなくなるという結果が出たといいます。しかし、少なくとも今回のカラオケ歌唱データから分かるのは、60代でも10代と同じように新しくリリースされた曲に出合い、覚え、歌っているということです。

近年の生活者のほうが「昔の曲」を歌っている

ここでグラフにデータを一つ加えてみましょう。曲ごとのリリース年を調べ、その年代に対応して色を塗ってみます。1970年代リリース年の曲を濃い青色、2020年代リリース年の曲を濃いピンク色とし、間の年代がグラデーションになるように色付けすると、次のようなグラフが現れます。

ご覧のように、最近になるにつれて全年齢層で歌われている曲のグラデーションの幅が広がっています。特に現在から10年以上前の過去である1980年代、1990年代、2000年代リリースの曲に着目して分かるのは、「過去の曲は、最近のほうが多く歌われている」ということです。

22年に全年齢層で歌われている過去の曲には、例えば05年にリリースされたレミオロメンさんの「粉雪」があります。この曲は12年には既にリリースから7年を経ていたわけですから、12年時点で全年齢層で歌われる曲に入っていても不思議ではありません。

ところが同曲が全年齢層で歌われるようになるのは20年と、発売から15年たってからなのです。

→続きは日経クロストレンドのページからご覧ください。

 

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