博報堂生活総合研究所 生活知新2026 感情ミュート社会出さない時代の新欲求

20代の「感情ミュート」実態
~「感情プロデューサー」としての若者たち~


生活総研が提唱する「感情ミュート社会」とは、あえて他者に感情を出さないことが新しい常識として定着しつつある現代社会のありようです。この流れは全年代でおきている潮流ですが、年代別ではどのような特徴があるのでしょうか。本コラムでは若者の「感情ミュート」の実態に着目してみたいと思います。「感情に関する意識調査」の年代別分析の結果からは、「感情ミュート社会」をけん引しているのは20代の若者たちであるということがみえてきました。

1.どの年代よりも強く「感情ミュート」を意識している20代

まず注目すべきは、「あえて自分の感情や気持ちを出さないようにしている」という意識についての項目です。「そう思う:計(「そう思う」「ややそう思う」を足し上げた数値)」でみると、全年代で6割近くと同じような傾向なのですが、「そう思う」に絞ってみると、全体が12.4%なのに対して20代は17.9%となっており、全年代で最も高くなっていたのです。どうやら20代は、他年代よりも自発的な感情ミュートを強く意識しているようです。


さらに、「良いことがあった時、浮かれすぎないよう感情や気持ちを落ち着かせたい」という、ポジティブな感情も出さないようにする意識についても「そう思う」が20代は22.1%と全体の15.9%より6.2pt高く、全年代で最多となっています。


20代の若者たちは多様性配慮やコンプライアンス重視の社会的な広がりと共に育っていった年代です。そのため、周囲との調和を乱さず社会活動を行うための「マナー」として、こういった意識が他世代より定着しているのかもしれません。

2.感情は「外」から調達し、味わう

自らの感情をミュートしている一方で、他者の感情に対する感度は、20代が全年代で最も高くなっています。
「他人の感情や気持ちを(SNSやブログなどで)積極的に見る方だ」という項目では、20代は51.8%(全体は30.2%)と、全年代で唯一過半数に達しています。

さらに、SNSや映画・アニメなどのコンテンツを通じて「自分では体験できないような感情や気持ち」を味わっている人は64.3%(全体44.3%)、「現実では表に出せない感情や気持ち」を味わっている人は61.8%(全体39.4%)と20代は他年代を大きく引き離しており、非日常な感情や現実でミュートしている感情は、コンテンツを通じて「外部調達」しているという人が20代では多数派となっているのは驚きです。

若者にとって、感情は安全な距離を保った場所から調達して味わうものになっているようですね。

3.20代は、「感情マネジメント」のプロ

さらに、20代の「感情を取り扱うスキルの高さ」も注目すべき発見です。
「自分の感情や気持ちを出す場に応じて適切に表現するための方法や工夫」が「ある」と答えた人は、20代は52.5%(全体43.1%)で全体を大きく上回っています。また、「自分の感情や気持ちを理解したり整理するための方法や工夫」が「ある」人も20代で47.9%(全体40.9%)と、全年代で最も高くなっています。

具体的な方法や工夫についての自由回答もいくつかご紹介しましょう。

「適切な表現のための方法や工夫」について
・「怒りを感じてもそのまま出さず、『こうしてほしい』というお願い形式に変換して伝えるようにしている。」(24歳・男性)
・「プライベートでもイヤな相手には『自分は今仕事中(接客業の役)だ』と脳内で設定を切り替えて、丁寧な言葉使いで受け流す。」(25歳・女性)
・「チャットのやり取りでカッとなってもすぐには送らない。一旦アプリを閉じて、15分後に読み返してから表現を修正して送る。」(23歳・女性)

「感情の理解や整理のための方法や工夫」について
・「イライラしたら、スマホのメモ機能にその時の感情をすべて書き出し、何が嫌だったか視覚的に整理するようにしている。」(23歳・男性)
・「人に言うと角が立つのでAIに今のモヤモヤをぶつけて、論理的に整理してもらったり肯定してもらったりする」(24歳・女性)
・「自分がパニックになりそうな時、頭の中でもう一人の自分が『今、この人は焦っていますね』と実況することで、冷静さを取り戻す。」(22歳・男性)

自分のなかで役割を設定することで感情を抑えたり、AIやスマホをうまく活用したりと20代の多様な感情の伝え方や整理の工夫や方法が解像度も高くみえてきますね。
つまり、20代は単に感情を出さなかったり、自分の気持ちを蔑ろにしたりしているわけではなく、「いつ、どこで、どのように出すべきか」や「自分の気持ちとどう向き合うか」を意識し、自分なりの方法や工夫を持っており、感情ミュート社会における「感情マネジメント」のプロフェッショナルともいえるのではないでしょうか。

4.感情の「プロデューサー」としての若者たち

感情の揺れを「ノイズ」として効率化する社会。20代はその変化をいち早く察知し、自分も他人も傷つけない「心地よい感情のマネジメント」を高度に実践しています。必要に応じてミュートや適切な表現をし、足りない時には外部から補給する、いわば「感情のプロデューサー」のような立ち振る舞いをしているといえます。
「感情ミュート社会」は、決して心の温度が下がった社会ではありません。むしろ、溢れる情報と複雑な人間関係のなかで、自分の心を守り、かつ豊かに保つために生活者が編み出した「新しいOS」です。若者たちがけん引するこの「静かだが感性豊かな社会」を私たちはこれからも注目し、引き続き掘り下げていきたいと思います。

 

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