感情ミュート社会
出さない時代の新欲求
都市化やAI普及などで感情管理の重要性が増す日本社会。潮流の変化と生活者の新欲求を紐解き、企業が新たな価値創造へと繋げるための指針を提示します。
あえて他者に感情を出さないことが
新しい常識として生活者に定着しつつある「感情ミュート社会」。
企業にとっても、「感情ミュートが前提である」ことを理解し、
新しい感情との向き合い方に寄り添って活動を行うことへの
必要性が増していくと考えられます。
ここからは少し具体的に、
さきほどのパート2の三つの欲求に基いて考察を進めます。
感情ミュート社会の新欲求に
企業はどう寄り添う?
新欲求1
新欲求2
新欲求3
感情を
整えるなら
他者視点で
「感情を整えるなら他者視点で」という生活者の欲求に対して、企業に求められるのは、「細分化して捉えにくい感情の可視化」です。感情ミュート社会では、他者の感情の起伏を捉えにくくなっており、企業には感情の細かい機微を可視化することが期待されるようになるでしょう。
人々の「怒り」シーンを展示する体験型イベント
人の感情をみて、自分の感情を再確認できる

クリエイティブチームentakuが手掛けた「怒怒怒ランド」は、人々の日常で「怒り」が生まれるシーンを展示した体験型イベントです。訪れた人は日常の大小様々な怒り「あるある」に触れて「自分の感じていた怒りはこれだ」とか「怒ってもいいんだ!」と共感を生んで人気を集めています。つまり「感情」が集客装置となったイベントといえるでしょう。
スポーツ観戦時の感情の動きを可視化する、感情スコア算出の取組み
出典:スポーツ感情スコアグラフ 2025明治安田J1リーグ第16節 鹿島vs川崎F(後半)
スポーツに特化した動画配信サービスDAZNは、試合中の視聴者の感情の動きを可視化し、ブランドとマッチングさせる「DAZN CREATIVE FOR BRAND」というプロジェクトを行っています。これは、喜びや驚きといった感情だけでなく、スポーツの試合中に生まれる様々な感情を分析し、視聴体験の向上を研究するプロジェクトです。
感情を
伝えるなら
安全に
「感情を伝えるなら安全に」という欲求に対しては、感情を安全に伝えやすい環境を設計する、ことが求められます。直接的な感情の出し合いを避ける感情ミュート社会において、AIやテクノロジー、あるいはある種の「キャラ設定」が心理的安全性を担保する重要な仲介役となっていきそうです。
ギャルというキャラ設定を通して、安心して感情を出してよい場をつくり、
率直なアイデア出しを可能に
企業内の施策として注目されているのは、「ギャル式ブレスト®」というサービスです。これは、会議でのブレストに参加する社員が、「ギャル」というキャラクター設定を行うことで、普段は言いにくい本音や感情を重ねながら深い議論を行うことが可能になる、というもの。キャラ設定という工夫が、社内会議においても安全に感情を引き出して、議論の質を高めることに貢献している事例です。
親が言うと角が立つ言葉を代わりに伝えて
子供が受け入れやすくする見守りロボット
「BOCCO emo(ボッコ エモ)」という見守りロボットは、「勉強しなさい!」など、親が直接子どもに言うと角が立つ小言などを、可愛いロボットがやわらかい表現でリマインドしてくれます。ロボットを仲介させることで、親の小言を子どもにも受け入れやすくさせている事例といえるでしょう。
感情に
触れるなら
エンタメとして
「感情に触れるならエンタメとして」という欲求に対してはどうでしょうか。ここでは、ブランド自体が生活者に対して感情を表現することが求められはじめています。これは希少化する感情的コミュニケーションはコンテンツ化できる、ということでもあります。
学習をサボるとキャラが可愛く怒って利用を促してくる語学学習アプリ
学習アプリ「Duolingo」は、学習をサボるとキャラクターが拗ねて怒ったり、悲しんだりして利用を促してきます。一般的にはNGとされてきたネガティブな感情の発露を、サービス提供側がうまく表現することで楽しんでもらうことに転換した事例であり、企業と顧客の感情コミュニケーションが深化した事例ともいえるでしょう。
写真を投稿すると理不尽な理由で炎上してしまう疑似体験ができる
エンタメコンテンツ
©2025「俺ではない炎上」製作委員会 ©浅倉秋成/双葉社
no plan inc.が開発した「絶対にバズるSNS “Y”」は、何でもない写真を投稿すると、理不尽な理由で炎上してしまう体験ができるエンタメコンテンツです。これは、理不尽な炎上体験を味わってみたいという、ある種の“怖いもの見たさ”という生活者のニーズに応えた体験を提供するサービスの事例です。
感情に対する世の中の常識は、今大きく変わりつつあります。
生活者の意識や社会構造の変化にともなって、感情を抑えた生活は円滑な人間関係のためにも、自らが快適に暮らすためにも一般化してきています。「感情ミュート」している状態の方が普通になったのです。
しかし、これまで見てきたように感情ミュート社会とは、感情が枯渇した社会ではなく、むしろ、感情表現の選択肢が広がり、生活者が新たな感情表現の形を模索している社会なのです。
企業は感情表現の多様性に配慮した価値提供を行うことが求められます。そしてこれからの社会には「感情表現の選択肢」を、社会の共通認識として育んでいく姿勢が求められていくのではないでしょうか。