若者30年変化 Z世代を動かす「母」と「同性」 若者30年変化 Z世代を動かす「母」と「同性」

コラム Z世代大学生による「若者論」

当事者ならではの視点で、若者に起きている変化や
新たな潮流を自由にレポートしてもらいました。

​​​​「可愛い」はZ世代女子の最強褒め言葉

上東 裕奈

上東 裕奈

「可愛い」はZ世代女子の最強褒め言葉

みなさんはどんな時に「可愛い」と言いますか?街中であらゆる人の会話に耳を傾けると、「可愛い」という言葉は、ものや人、動物など様々な対象に使われています。その中でも、主には女性を評する時に使う言葉という印象を持つ方が多いのではないでしょうか。しかし、「可愛い」という褒め言葉は一部の女性たちの間では、今や男性に対しても使われるように変化してきているのです。博報堂生活総合研究所が2023年10月に実施したインターネット調査(全国20~60代男女3,900人対象)では、以下のような質問をしています。

「普段「可愛い」という言葉は、女性への褒め言葉として使いますか、男性への褒め言葉として使いますか、またはその両方に使いますか?」

回答してくれた3,900人のうち、全体の約60%は女性への褒め言葉としてのみ「可愛い」を使っています。ただ、男性、女性両方への誉め言葉として「可愛い」と使っている人も実は25%以上いるようなのです。その傾向が特に強い層があるのか、性年代別に見てみましょう。

ほとんどの性年代別では「可愛い」を女性の誉め言葉としてだけ使用していました。一方で、20代女性では過半数を超えた56.1%が「可愛い」を男性、女性ともに褒めるときに使うと答えていたのです。

では20代女性たちは、男性のどんな姿に、どんな場面で「可愛い」という褒め言葉を使うのでしょうか。実際に20代の7人の女子大学生に聞いてみました。

ケース① 推しへの「可愛い」

まずわかったのは、自分の推しの男性アイドルへの「可愛い」という使い方です。日頃からXやInstagramなどのSNSで、自分の推しを「可愛い」と評しながら、その写真を投稿するといった推し活をしている彼女たちですが、なぜ彼女たちは「かっこいい」ではなく「可愛い」という言葉を使って推しを褒めるのでしょうか。以下のような回答が返ってきました。

  • 「メイクや衣装の雰囲気がキラキラしていていると自然と可愛いと思える」
  • 「キメ顔ではなく、柔らかい表情をしていると普段とのギャップで可愛いと感じる」
  • 「猫耳したり、ハートを作ったり、その仕草をしているということ自体が愛おしい」
  • 「曲やコンセプトがポップで明るい時にはついつい可愛いという感想に偏ってしまう」

注目している箇所は推しの表情や姿、あるいは曲などそれぞれ違いますが、共通して、推しの表面的な部分に対して「可愛い」と感じているようです。私自身も男性アイドルを推していますが、普段激しいパフォーマンスを披露してかっこいい姿をしている推しが、目がなくなるほどの満面の笑みを浮かべているのを見ると、ステージ上とのギャップを感じて、「可愛い」と感じてしまいます。

ケース② 彼氏への可愛い

次に彼氏に対しても「可愛い」を使っていることがインタビューからわかりました。彼氏に対して使う「可愛い」は推しに対する「可愛い」とどう違ってくるのでしょうか。インタビューの発言を見てみましょう。

  • 「甘えられた時、普段見られない彼氏の姿を見て思わず可愛いと思った」
  • 「ゲームセンターで子供っぽくはしゃいでいる姿を見て可愛いと思った」

これらの回答は、推しに対して使う「可愛い」と同様、彼氏の表面的に現れる表情や行動などを見て、「可愛い」と感じているようです。
推し・彼氏両方に見られたこの表面的な部分に感じる「可愛い」は、「最近の女性ってなんでもかんでも可愛いって言うよね」という感覚を一番表しているかもしれません。

ケース③ 想定外の可愛い

彼氏に対して可愛いと言う友人は、このような回答もしてくれました。

  • 「かっこいいのは大前提で、それ以上の気持ちを表したかった時に使った」
  • 「好きすぎて、好きを超えて愛おしく思ったとき、可愛いと言う」
  • 「普段物怖じしない彼氏が虫を怖がっていた時に、普段の何倍も可愛いと思った」

このように、無意識のうちに自分の中に設定した想定を超えた時に「可愛い」という言葉を使う場合もあるようです。また、その想定の超越が予想外であればあるほど、比例して「可愛い」という感情も大きくなることが伺えます。

ケース④ 照れ隠しの可愛い

では、男性の推しや彼氏がいない女性は、どんな時に男性に「可愛い」という言葉を使っているのでしょうか。推しも彼氏もいないという女子大生に聞いてみました。

  • 「好きな人に対して、恥ずかしくて好きだと言えない時、代わりに可愛いと伝えることがある」
  • 「可愛いという言葉は息を吐くように言えると思われているので、他の褒め言葉より言うためのハードルが低い」

このように、「女性が何に対しても可愛いと言う」と思われているということを利用して、逆に自分の本心を隠したい時に「可愛い」を使う場合もあるようです。「可愛い」と言う言葉を日常的によく発しているからこそ、「可愛い」であれば照れずに言うことができる褒め言葉だという意識もそこには隠れていそうです。

「可愛い」は相手を全肯定する時に使う絶対的な言葉

ここまで20代の女子大生のインタビューから、女性が男性のどんな姿に、あるいはどんな場面で「可愛い」を言うのかについて聞いてきました。その結果、表面的に見え隠れする部分を愛でる推しや彼氏へのケース、自分が想定していた姿が超越されるときに使うケース、相手への照れ隠し、本心を隠すケースといったように、「可愛い」は多様な使われ方をしていることがわかりました。

なぜ男性に対する「可愛い」はこんなにも多様に使われるようになったのでしょうか。その「可愛い」という言葉を使う心理の根底には何かもっと深い、表現したい感覚がある気がします。それを明らかにする一つのヒントとして、女性が男性に放つ「可愛い」について、多くの女性たちから共感を得た言葉があります。

それは、2016年放送のドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」の第10話で、「可愛い」を素直に受け入れられない星野源演じる津崎平匡に対して、新垣結衣演じる森山みくりが発した台詞です。

「『可愛い』は最強なんです。『かっこいい』の場合かっこ悪いところを見ると幻滅するかもしれない。でも『可愛い』の場合は何をしても可愛い、『可愛い』の前では服従、全面降伏なんです!」
このみくりの熱弁を見ていた視聴者からは、当時のTwitterのトレンドに「全面降伏」がランクインするほど、共感の声が殺到しました。

このことから考えられるのは、女性が男性に対して使う「可愛い」は、女性から男性への全面降伏宣言であり、その男性に対しての全肯定の感覚であると考えられるのです。「可愛い」は「かっこいい」のような相対的な言葉ではありません。「可愛い」は絶対的な価値を表現する言葉なのです。

これまで「可愛い」という言葉の使われ方について調査してきましたが、20代女性たちが「可愛い」という言葉を向ける対象は主に推しや彼氏、好きな人といったように強めの好意を向けている人が多い傾向にあるのではないでしょうか。動物やアクセサリーなどのモノに対して「可愛い」という言葉を向ける女性ももちろん多くいると思いますが、今回のインタビューではそのように回答した方は一人もいませんでした。このように、「可愛い」という言葉は以前に比べてその言葉を使う対象が推しや恋愛に絞られてきつつあると考えられます。

今回の調査を通して、女性が好意を向ける男性に対して使う「可愛い」の一番根底には、男性を絶対的に褒めたいという女性の気持ちがあり、「可愛い」こそが、推しや恋愛関係にある相手を全肯定できる最強の言葉だと感じました。ちょっと前までは「可愛い」と言う言葉を男性に使うなんて、皆さん想像もしていなかったと思います。ですが、今や、20代女性では、男性に「可愛い」と言うことは当たり前になりつつあるのです。そんな「可愛い」という言葉は今後どのような進化を遂げていくのでしょうか。また今現在、最強の誉め言葉である「可愛い」を超える好意を向ける男性への褒め言葉は、今後誕生するのか楽しみで仕方ありません。

コラム Z世代大学生による「若者論」

本論とは異なる視点で、若者たちに起きている変化や
新たな潮流を自由にレポートしてもらいました。