博報堂の強さは伝統のKJ法とデコンの合わせ技 異変察知能力を磨く研修
「日経クロストレンド」の連載記事です。
広告のクリエイティブ制作やマーケティングの領域でAIの活用が広がっている。そうした中、クリエイターやマーケターはどんなマインドやスキルにフォーカスし、それらを具体的にどう磨いていけばよいだろうか。博報堂で数々の新入社員や中途入社社員を育ててきた、博報堂執行役員・エグゼクティブクリエイティブディレクターの嶋浩一郎氏と、博報堂生活総合研究所の所長である帆刈吾郎氏の対談から、AI時代に必要なスキルや視点をひもとく。
博報堂執行役員・エグゼクティブクリエイティブディレクターの嶋浩一郎氏(左)と、 博報堂生活総合研究所所長の帆刈吾郎氏(右)が、AI時代にマーケターに求められるスキルや考え方を語り合った
注目すべきは「ちょっと変わった人」
――AI(人工知能)時代に、クリエイターやマーケターの仕事はどう変わるのか、そして何をなすべきかが揺らいでいます。博報堂でクリエイティブやマーケティングの最前線に立ち、多くの人材を育ててきた中で、今の若い人材に持っていてほしい視点は何だと考えますか。
嶋浩一郎氏(以下、嶋) ひと言で表せば、「AIができない発見をどうやって行うか」に尽きると思います。その観点で、私が新入社員研修の一環でよく出しているお題が、「会社に来なくていいから、一日中街を歩いて今までの常識からするとあり得ないことをしている少し変わった人たちを見つけてきて」というもの。当社で言うところの「タウンウオッチング」です。
なぜ、それを課すのかというと、そうした人たちが行う変わったことこそが、まだ見ぬ欲望の発露となっているからです。それを行う人らは「ファーストペンギン」ですから、当然ネット上のデータには上がってきていない。つまりAIが未学習の事象です。
実際、「通勤電車の中で靴を脱いでいる人を2人見つけた」「歩きながらケーキを食べている人を見た」など、新人社員からたくさんの報告が届きます。その上で、「何か新しい欲望を持ってその行為をしている」という仮説を基に、なぜそういう行動をしているのかを言語化していく。そうやって欲望を発見することや解釈することの大切さを、身をもって体感してもらっています。

帆刈吾郎氏(以下、帆刈) 博報堂では、クリエイティブ制作やマーケティングを行う上で、生活者を徹底的に観察し、深く理解する「生活者発想」を重視していますが、その観察や発想の源泉となるのが、欲望の発見ですね。
嶋 欲望はテクノロジーや社会情勢の変化で、塗り替わっていくもの。例えば、SNSに「いいね」ボタンができれば、承認されたいと欲望が顕在化し、「Instagram」が登場すると、「盛りたい」という欲望が強くなります。
炎上するコメントを見ると萎縮しますが、それでも何とか欲望を発露したいから、短歌の形で表現したり、ハッシュタグに本音を潜ませたりするといったことも起きます。その欲望の発露をいち早く発見できた人が、いい企画や市場をつくれるのだと思います。
例を一つ。日本の女子高生はとてもクリエイティブです。食べ物を入れるために開発されたジッパーバッグにスマホを入れてお風呂で使うなど、用途の発明をどんどんなし遂げます。あるいは、「Zoom」はオンライン会議のために開発されましたが、合コンに使ったり、同窓会に活用したりする人が出てくるわけです。
だから、マーケターが全部決められると思っているのはすごく不遜な考え方ではないでしょうか。欲望を持った変わった人のほうがよほどクリエイティブである。そうしてその欲望の周辺に、新しい市場ができていく。

エクストリームユーザーを見る重要性
帆刈 嶋さんはクリエイティブの観点で、「少し変わった人」という言葉を使いましたが、マーケティングの見方では、それは「外れ値」とか「エクストリームユーザー」という言い方になりますよね。
よくN=1に焦点を当てる場合に、「外れ値を見ろ」「エクストリームユーザーを見ろ」と言うのは、まさにまだ世の中に現れていない欲望の萌芽(ほうが)を見つけるきっかけになるからです。
嶋 先ほど言ったように、その欲望は日々書き換えられていて、社会のどこかで人からはみ出して発露するような現象が、そこかしこで起こっています。だから、大事なのは今までの当たり前とは違う、違和感のある欲望に気付くセンスなのです。
そんな欲望に敏感な「センサー」を持っている人が、企画やマーケティングのセンスが良いクリエイターやマーケターと呼ばれるようになる。そしてそれは、タウンウオッチングなどの生活者観察を習慣づけることによって鍛えられるものだと考えています。
AI時代、変わった人や欲望を探しにいくことは、重要度が増すと思います。
AIのほうが広く探索したり、膨大な分析をこなしたりするのは得意ですから、既に“ラベル”が付いている欲望や既存の市場であればAIが強い。つまりAIを活用するもの同士では差がつきにくくなる。だからこそ、AIが未学習の領域が重要で、見つけてきた欲望を自分の中でストックしておくことが大切になります。僕も常に心がけています。
「見立て」の発見こそ人の強み
嶋 「物事をどう見立てられるか」もAI時代には重要になってきます。つまり、ある物事に対して、面白いと思える変わった見方ができるかどうか。
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プロフィール
嶋 浩一郎
博報堂 執行役員/エグゼクティブクリエイティブディレクター1993年博報堂入社。コーポレート・コミュニケーション局で企業のPR活動に携わる。2002年から04年に博報堂刊『広告』編集長。04年「本屋大賞」立ち上げに参画。06年既存の手法にとらわれないコミュニケーションを実施する「博報堂ケトル」を設立。『嶋浩一郎のアイデアのつくり方』(ディスカヴァー21)、『企画力』(翔泳社)、『あたりまえのつくり方 ビジネスパーソンのための新しいPRの教科書』(NewsPicksパブリッシング)など編著書多数
帆刈 吾郎
博報堂生活総合研究所所長2014年博報堂生活総合研究所アセアン(タイ)を設立し所長を務める。帰任後は経営コンサルティング組織設立などに従事し、25年から現職