60代がデジタルを育て、20代がアナログを信じる
欲求サークルマップで読み解く3つの逆説
TOPICS2026.06.24
欲求サークルマップ は、博報堂生活総合研究所が生活者500人の声をインタラクティブなバブルチャートに可視化したツールです。
もとになっているのは、全国の生活者に「デジタル化によって起きた生活の変化」を聞いた2つの調査の自由回答です。一方は変化を象徴する写真の提供とあわせて体験を記述していただいたもの(295件)、もう一方はテキストのみで回答してもらったもの(205件)で、後者には回答内容に類する絵文字を割り当てて表示しています。研究員がこれらの声を一件ずつ読み解き、「〜したい」という欲求の構造に着目して、テーマ・グループ・個別の声という3階層に整理しました*¹。写真については、顔やブランドロゴなどが写り込んでいるものにマスキング処理を施しています。こうして整理されたデータを、どなたでも自由に探索できるようにしたのがこのマップです。
このツールを使って生活者の声を探索していくと、「デジタルに詳しいのは若い世代」「アナログを好むのは年配の方」という常識を覆す、3つの意外なパターンが浮かび上がってきます。本コラムでは、実際の操作手順とともに気づき例としてご紹介します。ぜひ画面を動かしながら読み進めてみてください。
まずは触ってみましょう — 欲求サークルマップの使い方
操作はとてもシンプルです。
- 全体を見渡す — 画面には色とりどりの円が並んでいます。育てるデジタル、オレンジが信じるアナログ、紫が両利き化する生活者を表しています。
- 円をクリックして拡大 — 大きな円(テーマ)をクリックすると、中にあるグループが見えてきます。さらにクリックすると、個別の声が写真や絵文字つきで現れます。
- 写真や絵文字をクリックして詳細を読む — 右側のパネルに、生活者の声・属性・分析の気づきが表示されます。
- フィルターで絞り込む — 画面上部のバーから、年代・性別・キーワードで声を絞り込めます。キーワードはスペース区切りでAND検索ができます。
- 背景をクリックで全体に戻る — いつでもズームアウトして俯瞰できます。

それでは、この操作を使って3つの気づき例を追いかけてみましょう。
気づき例①: 60代以上に「育てるデジタル」の声が多い
最初の発見は、年代フィルターから始まります。
操作手順: 画面上部の年代フィルターで「60代+」をクリックしてください。ハイライトされた円をクリックして中に入っていくと、水色(育てるデジタル)の声が意外と多いことに気づきます。

実際に数えてみると、60代以上の声は育てるデジタルが26件、信じるアナログが23件。すべての年代の中で、デジタルがアナログを上回る唯一の世代です。
いくつかの声をクリックして読んでみてください。たとえば、こんな声が見つかります。

移動した経路だけ地図の霧が晴れるスマホアプリを使って、あえて遠回りを楽しんでいる方の声です。効率化のためではなく、遠回りしたくなる仕掛けとしてデジタルを使っている。これは「育てるデジタル」の本質をよく表しています。
ほかにも、スマートウォッチで血圧測定が「面倒な義務」から「結果を見るのが楽しみ」に変わったという声や、革製品の手入れ方法を職人ではなくインターネットで調べるようになり「ネットが第二の工房になった」という声が見つかります。
60代以上の方々は、デジタルを便利な道具として割り切ったうえで、その先にある身体的・感覚的な体験を広げています。生まれながらのデジタル世代よりもむしろ、自ら選んでデジタルを育てている世代と言えるかもしれません。
気づき例②: 20代が「信じるアナログ」を選び取っている
次は、正反対の世代を見てみましょう。
操作手順: 年代フィルターを「20代」に切り替えてください。同じように円の中に入っていくと、今度はオレンジ色(信じるアナログ)の声が目立ちます。

20代の声では、信じるアナログが37件に対し、育てるデジタルは19件。アナログがほぼ2倍です。デジタルネイティブと呼ばれる世代が、なぜアナログを選ぶのでしょうか。
オレンジ色の声をクリックして読んでみると、その理由が見えてきます。

電子書籍リーダーなどの電子書籍を利用していたが、お気に入りの本は紙媒体で集めるようになった。電子書籍ではお金を払って購入しても運営する会社がサービスを終了すると二度と読めなくなってしまうので、同じ値段なら少し嵩張るが紙媒体として手元に置いておきたいと思うようになったから。(女性20才〜24才)
電子書籍サービスの終了リスクを自分で体感したからこそ、「紙の永続性」に価値を見出しています。
また、使い捨てフィルムカメラで東京駅を撮影した20代女性は、「スマホや一眼など画質がいいカメラが多くなってきているが、フィルムカメラで撮った方が現像するまでどうやって撮れているかわからないドキドキ感」があると語っています。画質が綺麗すぎて物足りないという感覚は、デジタルの完璧さを知り尽くした世代ならではです。
さらに面白いのは、キャッシュレス決済が当たり前の20代女性が、神社で小銭を賽銭箱に入れることを「逆に新鮮」「使う機会がなくレアな感じ」と表現していること。不便さそのものが希少な体験になっているのです。
20代の方々は、デジタルの限界を体感で知っているからこそ、紙・フィルム・現金といった「不便だけど確かなもの」を意識的に選び取っています。
気づき例③: キーワード検索で浮かぶ、世代を超えた共通パターン
ここまでの2つの発見は、60代と20代という対照的な世代の話に見えます。しかし、キーワード検索を使うと、両者をつなぐ共通パターンが見えてきます。
操作手順: まず年代フィルターを「全て」に戻してください。次に、画面上部のキーワード検索欄に「手触り」と入力してみてください。

すると、さまざまな円の中でバブルがハイライトされるのがわかります。「手触り」を含む声は70件。ひとつひとつクリックして属性を確認していくと、20代に11件、30代に17件、40代に18件、50代に8件、60代以上に13件と、特定の世代に偏ることなく分布していることがわかります。
実はこのデータには「デジタルの便利さを踏み台にして、手触りある体験を取り戻したい」というテーマが設定されています。このテーマに属する声は124件、全体の約4分の1を占め、10代から60代以上まですべての年代に均等に広がっています。
気づき例①の60代男性が地図アプリで遠回りの散歩を楽しんでいたのも、気づき例②の20代女性がフィルムカメラの粒感を選んでいたのも、根底にあるのは同じ欲求です。デジタルが結果の精度を最適化するほど、「自分が関与した手応え」は薄れていく。生活者はそこに気づき、デジタルの中にあえて不確実性を残すか、不確実性を内包するアナログに戻るか、いずれかの方法で「自分が関与した証」を取り戻そうとしている。それは特定の世代の特徴ではなく、世代を超えた普遍的な反応です。
まだまだ広がる探索の余地
この記事で取り上げたのは、500件のうちほんの一握りです。
たとえば性別フィルターで男女の違いを見てみたり、「安心」(64件ヒット)や「出会い」(33件ヒット)といったキーワードで検索してみたりすると、まだ誰も名前をつけていないパターンが見つかるかもしれません。
ぜひ欲求サークルマップを皆さん自身の手で動かして、新たな気づきを探してみてください。
*¹ 分類・テーマ抽出・グループ命名、回答に含まれる固有名詞の匿名化、および各回答への分析コメント作成にはAIを援用し、最終的な判断は生活総研の研究員が行っています。
出典: 博報堂生活総合研究所「第2回生活DX定点」「『生活図鑑』のための写真調査」で聴取した自由回答から500件を抽出して作成。具体的には、以下のような質問への回答を収録しています。
- 「デジタルのツールやサービスを使うことで、あなたの生活や気持ちに起きた一番の変化」が他人に伝わる写真をアップロードしてください / この写真はどんな変化を表していますか / その変化が起きた理由はなぜだと思いますか
- 「デジタルのツールやサービスを使うことで、あなたの生活や気持ちに起きたアナログな変化」が他人に伝わる写真をアップロードしてください / この写真はどんな変化を表していますか / その変化が起きた理由はなぜだと思いますか
写真は回答者提供のもので、写真提供を求めていない質問の回答には内容に類する絵文字を割り当てて表示しています。写真に顔・ブランドロゴ等の著作物が写り込んでいる場合はマスキング処理を施しています。

