有識者インタビュー
「一緒にいる」と「一緒にする」は イコールではない
積水ハウス株式会社 住生活研究所
所長
沢辺 泰代氏
研究員
平岡 千穂氏
「住めば住むほど幸せ住まい」をかかげ、「幸せ」視点での住まいの研究を実践。2018年8月に設立。長く住み続けていただきたいという思いがあります。住宅を購入したとき、引っ越した瞬間だけでなく、住み続けるなかで「ああ、幸せ」と感じてもらえたり気づけてもらえたらいいなと思い、研究をしております。
●「家族団らん」は大事だけれど、「自分の時間」も大事
博報堂生活総合研究所(以下H)
家庭のなかでの、一人ひとりの行動や過ごし方は変化しているのでしょうか。
私たちの研究では、今の家族、特に共働き世帯で忙しい毎日を送る方は、「家族団らんの時間」をとても大事にしているのと同時に、「自分の時間」も大事にする、という家族像がみえてきました。
親と子のファミリー世帯(全国、1560名、2018年)に「最も重視する時間」を聞いたところ、49.3%は「家族の団らん」と答えたのですが、残りの約半分は、「疲れを癒やしリラックス」(26.3%)、「自分の趣味」(13.7%)、「ストレス発散」(7.4%)など、自分のための時間も大事にしている結果が出たのです。
●「一緒にする行動」と「思い思いにする行動」の共存
また、「家族が一緒にいるリビングでの過ごし方」についても尋ねたところ、「リビングで一緒にすること」では、昔ながらの「同じTVを見る」「食事する」「お茶やお酒を飲む」という行動があがりました。
他方、「リビングで思い思いにすること」として、「スマホやタブレットを使う」「PCを使う」「仮眠する」「読書する」があがりました。家族がいるけれど、実に思い思いの時間を過ごしているのです。
つまり、「一緒にいる」と「一緒にする」が必ずしもイコールではないことがよくわかってきました。少し前は、家族と一緒にいるときは「スマホを置きなさい」という感じでしたが、一緒にいるときに各々の行動をし「ながら」でもかまわない、それが今の家族団らんと捉えてもいいのかなと思います。
●大きな空間には家族が集まってくる
そこで私たちは、昔のお茶の間のようなリビングの提供ではなくて、今どきの家族の距離感が保てるような、そんな大きな空間を提案しようと考えました。「家族の幸せな大空間」、ですね。
リビングをできるだけ大きな空間にすると、家族が一緒にいても気にせずにいられると同時に、気配を感じられる。逆にリビングが小さくなっていくと、ちょっと個室に戻ろうか、という発想になっていくと思うんです。
これに関してアンケートを取ってみると、「リビングが広いとどんな良いことがあると思いますか」とうかがったところ、現在20畳未満のリビングにお住まいの方からは「心地よい、快適な」との回答でしたが、20畳以上のリビングにお住まいの方からは「家族が自然と集まる」という回答が多かったのです。
集まるといっても、一緒に何かをするために集まるというよりは、分散型でそれぞれが何かをやっている、それぞれで何かはしているけれどそこにいるという形かと思います。
●脱LDK発想 ― 余白をつくり、使いまわす
H 大空間のリビングといっても、ある程度こういう機能や空間に少し分かれている方が良い、といったことはあるのでしょうか。
私たちは「脱LDK」という思想でリビングを考えています。LDKは、Lはくつろぐ、Dは食事をする、と役割を決めつけたものでしたが、もう広い空間なのでどこで何をしてもいいですよという、そんな空間を目指しています。
全体をどーんと見渡せる。そこにキッチンもダイニングもありますが、全部ひとつながり、というのがポイントになります。柱やちょっとした壁があると、「こういうコーナーにしよう」と決めてしまいがちなんですね。そうではなく、「余白をつくりましょう」と言っています。
ただ、通常、家を設計する人は何か機能を分ける空間を描きがちです。余白を残すのが怖い。でも思い切って、そこは何もない空間を置いてくださいと。それがあるといろいろな居どころができます。そこでゴロンと寝てもいいですし、ヨガをしてもいいですし、お子さまが小さいときはそこにベビーベッドを置いて育児もできます。家族の成長に合わせて「余白を使いまわす」ことをご提案しています。
「孤独」と「孤立」は、
分けて考える必要があります。
「孤独」は幸福度を下げますが、 「孤立」は幸福度を下げない
という研究があります。
慶應義塾大学大学院
システムデザイン・マネジメント研究科教授
前野隆司さん