博報堂生活総合研究所 みらい博2024 ひとりマグマ 「個」の時代の新・幸福論 博報堂生活総合研究所 みらい博2024 ひとりマグマ 「個」の時代の新・幸福論
1

やってきた。
みんながひとりの時代

「ひとり」という言葉からイメージすることは時代とともに変わってきました。特に、「ひとり」=未婚者といった属性との結びつきがかつては強かったのですが、それはどのように変化しているのでしょうか。生活者調査や年表を紐解きながら、現代の生活者が「ひとり」をどう捉えるようになっているのか、みていきましょう。

「ひとり」化進むも ずっと「ひとり」ではない

「ひとり」化進むもずっと「ひとり」ではない

「ひとり」の話をはじめようとすると、家族や友人との関係は薄くなるのではないかと心配になる方もいるかもしれません。調査によれば、夫婦関係においても交友関係においても、30年前と比べて「ひとり」化を示す変化と、「いっしょ」化を示す変化の両方が進行しています。生活者は「ひとり」と「いっしょ」にメリハリをつけながら、うまくバランスをとるようになっています。

夫婦関係の変化
交友関係の変化
出典:博報堂生活総合研究所 「ひとり意識・行動調査1993/2023」
(25~39歳男女 1993年1,200人 2023年627人 訪問留置調査)

「ひとり」は気の持ちよう

それでも、例えば家族世帯のように人が近くにいつもいれば、 「ひとり」にはなれないと思う方もいるかもしれません。しかし調査をしてみると、 「近しい関係の人といっしょにいるが、会話はせず、それぞれ自分がしたいことをしている時間」を「ひとり」の時間だと感じる人は半数に上ります。では会話をしていたらどうでしょう?実は「ひとりで居酒屋や旅行などに行き、出会った人と会話を交わすことになった時間」を「ひとり」の時間と捉える人もやはり半数いました。生活者にとって、物理的に人といるからといって、その状況を主観的にも「いっしょ」と捉えるとは限らなくなっています。「ひとり」は気の持ちようであり、そのときどきに自分で選べるもののようです。

自分にとっての時間の感じ方
出典:博報堂生活総合研究所 「日常生活に関する意識調査(第1回)」
(2023年 20~69歳男女 1,500人 インターネット調査)

フレキシブルな 「ひとり」へ

フレキシブルな「ひとり」へ

調査結果から、生活者が人と付かず離れずの良い距離感を持つようになっている様子が浮かんできました。状況や気分に応じて、 「今はひとりがいい」、「今は人といっしょがいい」と自分で切り替えながら日常を過ごしているのではないでしょうか。そうすると、「ひとり」は単身者のことで、家族持ちは「ひとり」ではない、といった属性で固定した考え方にはなりません。時と場合によるフレキシブルな「ひとり」へと概念が変化しているといえるでしょう。

「ひとり」好きが8割

自分の考えに近いのは?
出典:博報堂生活総合研究所 「日常生活に関する意識調査(第2回)」(2023年 20~69歳男女 2,400人 インターネット調査)

あなたは「ひとりでいる」と「みんなでいる」のどちらが好きですか?2023年の調査では、20~69歳の人たちの78.4%が「ひとりでいる方が好きだ」と答えました。「みんな」より「ひとり」好きが、多数派なのです。これほどの差が生まれると、個々人が「ひとり好きな私は珍しいのかも?」と心の内に秘めている状況ではなくなります。「ひとり」好きな人を周囲でよく見かけるようになり、肩身の狭い思いをしなくてもよい場面が増えていきます。

「ひとり」時間は 誰もが欲しい

「ひとり」時間は誰もが欲しい

同じ調査で、平日に欲しい「ひとり」でいる時間がどのくらいかを尋ねてみました。その結果、まず0時間、つまり「ひとり」でいる時間は欲しくないと答えた人は、全体でわずかに2.2%でした。この結果は年代別でみても、未既婚別でみても、ほぼ違いはありません。一方、3時間以上とやや長めの回答をした人を合算すると、全体で65.6%を占めます。相対的に「ひとり」になりにくいと思われる既婚者でみても59.7%に達しました。
上のグラフの質問のように「ひとり」か「みんな」かどちらが好きかと二者択一で聞かれれば「みんな」と答える人もいます。でも、そうした人も含めて、「ひとり」でいる時間は少しは欲しいようです。今は誰もが「ひとり」好きの性質を少しずつ帯びていると考えられそうです。

平日に欲しい「ひとりでいる」時間は?
出典:博報堂生活総合研究所 「日常生活に関する意識調査(第2回)」
(2023年 20~69歳男女 2,400人 インターネット調査)

総ひとり好き社会 の到来

総ひとり好き社会の到来

「ひとり」が好き、あるいは「ひとり」の時間が欲しいと思うことは、年齢や未既婚などの属性を問わず多くの人にかかわることになりました。人と「いっしょ」の時間は大切にしつつ、「ひとり」の時間はそれにしかない楽しみを味わいたい。現代はそんな欲求を誰もが持つ、いわば「総ひとり好き社会」 になっているといえるでしょう。

日本の「ひとり」史

「ひとり」にかかわることがらやキーワードを年表でみてみましょう。その移り変わりからは、これまで日本社会における「ひとり」の位置づけが大きく変わってきたことがわかります。これから先を考えるうえでも大きなヒントとなるでしょう。

日本の「ひとり」史
1「ひとりなんてありえない」時代

【〜1970年代】

日本の戦後から70年代までは、同じ製品を効率的につくる大量生産の時代でした。同時に、みんなで団結して効率的な生産に向かうため、同じようにモーレツに働き、同じような専業主婦世帯を形成し、3C(カラーテレビ [Color television]・ クーラー [Cooler]・ 自動車 [Car])など家財を少しずつ充実させながら暮らし、「一億総中流」ともいわれるように、人並みでありたい意識によって社会が運営されていました。みんな同じであることが当たり前であり、「ひとり」は異端児・外れ者のような意識であった時代です。

2「ひとりもありかも」時代

【1980〜1990年代前半】

80年代以降は、みんなとは差別化した個性を求める人たちが増えてきます。象徴的には87年に「フリーター」という言葉が登場しています。これは組織に属さず自分を主体として働く人たちを当時肯定的に捉えたものでした。ほかにも、女性の社会進出とともに、「個」を前提とする家族関係が模索されるなか、「独身貴族」など結婚制度から離れようとする人を称賛する言葉も誕生しました。世の中全体としては、「イッキ!イッキ!」「24 時間戦えますか」が流行語になるなど、会社・家族・仲間などの集団の力がまだまだ強かったからこそ、あえてそこから脱して自分主体で行動するオピニオンリーダーとしての「ひとり」が生まれてきた時代でした。

3「ひとりでいるしかない」時代

【1990年代前半〜
2000年代】

90年代後半には、バブル経済崩壊が本格的に人びとの生活に影を落とすように。成長し続けるという目標を失い、名だたる大企業の倒産、人員のリストラ、非正規雇用者の増加など会社の構造変化が起こります。「ひきこもり」「パラサイト・シングル」に注目が集まり、00年頃から孤独死が社会問題化しはじめます。00年後半には「ぼっち」として孤立した人が注目されるようになりました。拠り所となる中間集団が崩壊し、多くの人が寄る辺ない「ひとり」として不安な状況におかれた時代を映しています。その反動で、個の確立ができている大人の女性を「おひとりさま」と肯定する一方、30歳代超で子どものいない未婚女性たちが、半ば自嘲的に使用してブームとなった「負け犬」という言葉も出現しました。

4「ひとりでも気にならない」時代

【2010年代〜】

00年代半ばから、スマホやSNSが普及していくことで、リアル以外で、不特定多数の人とのつながりをつくれるようになると同時に、ゲームや動画などのエンタメ領域が充実し、人びとは「ひとりでいられる」ようにもなってきました。また、「単独世帯」が最多世帯類型になり、「ひとり」市場が注目されるようになったことを受けて、10年代以降に様々な「おひとりさま」商品やサービスが拡充しました。そして「おひとりさま」は「ソロ活」としてさらに活性化していきます。自分のことは自分で行う「セルフ意識」が広がり、20年からはじまったコロナ禍の影響で人とのディスタンスが必要になった期間を経て、「ひとりでも気にならない」時代になりました。仕事でもプライベートでもオンラインで常に人とつながれるようになり、SNS疲れという言葉が生まれましたが、「ソログループキャンプ(ソログルキャン)」や「#ぼっち参戦」などにみられるゆるやかなつながりや、「BeReal」のような気を遣わないつながりなど、「ひとり」でいながらも新たなつながりが模索されるようにもなってきています。

さて、これからはどのような時代になるのでしょうか?

日本の「ひとり」史
年表をPDFで見る